第3話

夜明け前とは言えまだ暗闇の中、船で沖に出るのは危険なため、後少しの時間海岸の岩影に身を潜め、日が昇るのを待ちました。


一睡もしていなったため、夜明けを待ちながらうつらうつらしてしまったところ、海岸沿いに人の声がして慌てて目を覚ました。


「やられたで、絶対探せ!」

数人の村人らしい声があちこちでしています。


「やばい、もうバレたか……」

出来るだけ身を縮め、息を殺して潜みます。

村人の足元が潜んでいる岩の隙間から見えました。


「⁈」

そこで見えたのは、赤や青の野太い脚に鋭く長い爪が付いた指先でした。


まさか、と思った瞬間

「おい!いたぞー!」

という声に頭を上げると、そこには2人の大きな鬼が金棒を持ってまさに仁王立ちしていました。


「!!」

言葉は出ず全身が震えて、ただ涙が溢れてきました。


「そこから出ろ」

鬼は顔の迫力とは裏腹に、物静かな声で若者に向かって言いました。


「……」

あまりの恐ろしさに返事も出来ず、静々しずしずと岩の間から這い出ました。


そして、すぐにでも首をはねられるだろうと考え、体がガタガタ震え出しました。


しかし、鬼たちは何もせず、自分を前に何やらひそひそと相談を始めました。


『どうしたんだ?何故襲ってこねぇんだ』

若者が不思議に感じていると一匹の鬼が近づいてきました。


『こんどこそ、殺られる!』

「おい、おまえ、どうやってこの島までたどり着いた?」

予想外の質問をされた若者は一瞬何を言われてるのか分かりませんでした。


若者がキョトンとしてると

「おい、言葉はわかるか?」

そう言われて我に帰った若者は

「あ、はい、わかります」

と答えました。


「なら、どうやってこの島まで来たか説明してくれ」

そこで若者は、商人に化けた鬼たちの後をつけて、浜辺まで出て、船に乗るのを確認して、海岸にあった小舟を拝借して、あとを追ってたどり着いたことを明かしました。


「ほう、あんな小舟でか?」

そう言うと鬼は若者が乗ってきた小舟を指差して言いました。


「ここにくるまでには相当な荒波だったと思うが、それをあんな小舟で乗り切ったとは…おまえ良い船頭になれそうだな」

妙な方向に話が向きました。


どう答えて良いかわからず、変な笑い顔を浮かべていると、

「なあ、おまえ、わしらの船を街まで運ぶ船頭をせぬか?」


「?」

困惑した顔をしていると

「もちろんタダとはいわん、島と街との一往復でこの宝石ひとつを報酬にくれてやる。

これでどうだ」

と言って若者から取り上げた宝石のひとつを見せながら言いました。


若者は少し考えましたが、こんな美味しい話はありません。


盗もうとしていた宝石を船を漕ぐだけでひとつずつ貰えるなんて一日一往復すれば、一年で三百個以上の宝石が手に入る、逆に言えば一年働けば一生食っていける財が手に入ります。


若者は迷う理由が見当たらないと考え

「わかりました。船頭をやらせてください。ただし一年勤めたら俺を解放してください」

「そうか、やってくれるか、わかった。一年経ったらおまえを解放しよう。では、早速明日から頼む」

と話はまとまりました。

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