第2話

宝石商が上陸したのを見計らって少し離れた場所に船を停め、気づかれないように後をつけました。


草木が生茂おいしげる中に微かな獣道けものみちがあり、そこを辿たどると、人家の明かりが見え、その途端ゆうげの匂いが漂って来ました。


「腹が減ったな……」

そう呟きながら、宝石商のあとについて行くと、連中は分かれ道に差し掛かり、互いに挨拶を交わしたあと、三々五々、各々の家に向かいました。


若者は、露店にいた時から目をつけていた元締めのような中年の男性のあとを追いました。


「おそらく、奴が宝石商のかしらで取り仕切っているんだろう。なら、奴の家に残りの宝石は隠されているに違いない」

そう目星をつけてひたすらその中年を追いました。


「今帰ったよ」

元締めらしい中年が家に入ると

「おかえりなさい」

という女の声の後に

「お父ちゃんおかえり!」

という元気な子供たちの声がしました。


夜になりすっかり辺りは暗くなりましたが、その家に近づいてみると、想像したより小さな家で全く普通の藁葺かやぶき屋根の慎ましやかな住まいでした。


「おかしいな。あれほどの宝石のある家なのに、質素過ぎる。うちとなんら変わらないじゃねぇか」


それでも、この家のどこかにたんまり宝石があると疑わなかった若者は、皆が寝静まるのを待って家に忍び込み宝石を探そうと決めました。


夜も更けて皆が寝静まったころ、元締めと思われる家の周りを探ってみると、都合良く裏の戸が開いていました。


「しめしめ、ついてるぞ」

そう呟くと若者は抜き足差し足、家の中に侵入し、土間を抜け、薪などが置いてある物置部屋に入りました。


「宝石があるとしたら、この辺りと思うんだが……」

そう言いながら、棚に積んである木箱やこうりを開けて中を確かめました。

しかし、宝石などはなかなか見つからず焦ってきた若者は土間に座り込みました。


「ちくしょう、簡単には見つからねぇな」

ため息混じりに呟いた時、ふと視線の先に床の茣蓙ござが不自然に重ねてある所を見つけました。


その茣蓙をそっとめくると竹で出来た戸が付いていていわゆる床下収納庫のようになっていました。


「もしや……」

と思った若者は早る気持ちを抑えつつ慎重に竹の戸を外すと、そこには幾つかの壺に蓋をしたものが並んでいました。


持ってみるとズッシリと重い。


ゆっくり持ち上げて床に置き、蓋を外してみると、真っ暗な土間に差すわずかな月明かりだけでまばゆい光を放つ宝石が壺にぎっしりと詰め込まれていました。


「おぉ!」

思わず声が漏れて慌てて口を塞ぎ周りを見渡しました。


幸い家主たちには気づかれていません。

しかし、この重さでは一つ壺を持ち出すだけでも大変なことです。


でも、一壺分だけで恐らく一生暮らすだけの金子きんすは手に入るでしょう。


欲をかかずにこの一壺をなんとか持ち帰ろうと若者は決めました。


よく考えると、重さの半分は壺自体にあるとわかり、若者は自ら頰被ほおかむりしていた手拭いと土間で見つけた何枚かの布を風呂敷にして、ゆっくり慎重に宝石を壺からすくい出し、幾つかの風呂敷に小分けにしました。


それをふところ、袖袋、首にも巻き、なんとか一壺分の宝石を身につけることができました。


こうなると欲が出て他のお宝も持ち出したくなりましたが、間も無く夜が明ける時刻に近いこともわかったので、家主が起きる前においとまするに限るとグッと欲をこらえ、家を後にしました。

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