第四章 チョメ子さんx奔走(ガンバ)る!

第18話 VRアイドルの事情

 VRアイドルユニット『モリグナ』が今話題の『チョメ子&モカ』に挑戦状を叩きつけた――そのニュースは恐ろしい速度でネットを駆け巡った。彼女らは『クシナダ』に事ある毎に噛み付く事で有名らしい。知らなかったけど『VR狂犬アイドル』なんて揶揄する人もいるそうだ。ナイトマーチのカナさん達は笑うだけだったけど僕は気が重かった。


 日曜の舞台も問題なく終えて翌日の月曜日。僕は半ば逃避する様に学校へ行くとクラスの中は例の『勝負』で盛り上がっている。ため息と共に机の上にカバンを置くと、クラスメートの中村くん――僕をVRワールドに誘ったクラスメートだ――が駆け寄ってきた。


「おっはーミッキー、聞いた? 知ってる?」

「……おはよう、中村くん……何を?」

「うざいアイドル、通称『ウザイドル』の『モリグナ』が『セクシーチョメ子』に無謀な勝負挑んだだろ!? なに、知らねーの? 流石ミッキー、相変わらず遅れてンなー!!」

 朝からハイテンションな中村くんは僕が知らない事に気を良くすると話し始める。


――ってか『ウザイドル』って何……モリグナの三人、可哀想になってきた……。


 それだけじゃなくいつの間にか『セクシーチョメ子』なんて呼ばれ方をしているだなんて頭が痛い。だけど『X』は『X指定』の意味もあるだけに何も言い返せない。

 僕は一層疲れ果ててがっくりと項垂れるとそのまま置いたカバンの上に頭を載せる。


「……どうでもいいです……もう、本気で……」

「なんだあ、ミッキーお疲れ? 反応うっすいなー」

 やたらハイテンションで中村くんは他の人達の処へ行って話し始めた。大きな声で騒がしく話すクラスメート達の声を聞きながら僕は今後の事で本気で頭を悩ませていた。


 彼女ら『モリグナ』が勝負を挑んできたのは『コンテスト』じゃなかった。星が付いていたからてっきりアバターコンテストだと思っていたけどそうじゃない。参加表明をしたのにアバターは殆どデフォルトのまま。だけど彼女達には参加する事情があった。

 そしてそんな彼女達から昨晩、舞台が終わって寝る直前にメッセージが届いたのだ。


 昨晩、カナさん達『ナイトマーチ』の四人と別れてから僕と桃香は相談してカナさん達に残りの舞台二回を一緒にして貰える様に正式にお願いする事になった。ナイトマーチの演奏はカナさんのピアノを筆頭にカネさんのヴァイオリン、クーさんのヴィオラ、そしてロノさんのチェロで構成されたカルテットだ。何処か懐かしくて切ない旋律は童謡にとても合うし何より演奏が凄く巧くて僕達より遥かに舞台慣れしている。


 クシナダとの一件から桃香はログイン時は必ずうちにやってくる。正直な処僕達にとって一番難易度の高かったパフォーマンスが何とかなりそうで桃香の機嫌もすこぶる良い。

 そして彼女が帰宅して僕がベッドに潜り込んで照明を落とした頃いきなりスマートグラスからメッセージの着信音が鳴った。

 カナさんか、桃香かな……そう思って開くとやたら丁寧な文面で書かれている。

 差出人は――『モリグナ』のリーダー、『モリアン』からだった。



『拝啓 冬枯れの季節を迎えましたが如何お過ごしでしょうか?

 さてこの度コンテストにて肩を並べる事と相成りました。それに際しまして是非とも貴女様のご助力を得たくお手紙差し上げました次第です。大変不躾かと存じますがもし宜しければお話だけでも聞いて頂ければ幸いと思い、失礼を承知でお手紙を差し上げました。

 もし宜しければどうぞ、以下のリンクへご来訪くださいませ。

 末筆ながらご自愛のほど、お祈り申し上げます。 かしこ

                     『モリグナ』リーダー モリアン

 チョメ子様                                 』



 文例集みたいな丁寧なメッセージが逆に怖い。これはグリーティングリストからだ。

 これは無視した方がいい。でも同じ内容で一〇分毎に届く。もう迷惑行為そのものだ。

 スパム指定すればいいけどそのしつこさが怖いし、もし桃香に届けば大問題だ。

 ベッドの中で散々苦悩した末、そろそろメッセージが二桁に差し掛かった頃。

 僕は覚悟を決めて恐る恐るリンクを押す。そして僕は彼女達の部屋へとログインした。


 モカの部屋とは違う意味で女の子らしい部屋だ。シックで落ち着いた印象だけど可愛らしいデザインでアンティークな小物が並んでいる。そんな中テーブルを囲んで三人の少女達がクッションを抱きながら座っている。


「……あの、えっと……すいません、『モリグナ』さん?」

 声を掛けても誰一人として反応しない。もしかしたら待機モードで離席しているのかも知れない――そう思っていたら長髪の少女がピクリと身体を震わせてゆっくり振り返った。


「――ま、マジで来ましたわ!?」

「……いやあの、呼ばれたから伺ったんですけど……?」

「ちょ、ちょ、ちょっと、お待ちくださいまし!!」

 そしてしばらくすると今度は残る二人が動き始めた。ゆっくりと首が動き僕の方を見た瞬間二人は目を丸くしながら声を上げる。


「――うわ、マジだ……」

「――えー、すっごー、本人来た!」

「……いえ、ですから……呼ばれたから伺ったんですけど……?」

 ツーテールとショートの二人にじっと見つめられながら僕は顔を引きつらせた。やがて長髪の少女が再び動き出し二人の一歩前に出て丁寧に頭を下げる。


「……この度はご足労戴きまして、真に有難うございます。私、モリアンと申しますの」

「あ、ご丁寧に……お邪魔してます……」

「いえいえ、本当に急なご連絡に応じて下さって有難うございます」

 そう言いながら長髪の彼女は頭を下げる僕に再び頭を下げる。もしかしたら実は丁寧な人であのメッセージも素だったのかもしれない。


「それで……ええと、どう言うご用件ですか? メッセージは拝見しましたけど、何だかビジネス文例集みたいで正直よく分からなかったんですけれど……」

 だけどそう尋ねた途端三人の動きがピタリと止まった。黙って俯く三人に首を傾げるけど一向に返事が戻って来ない。それで流石に訝しげな顔になって声を掛ける。


「あの、モリグナさん?」

「…………」

「えっと……モリアンさん?」

「……ひっ……あ、あ……そ、その……」

 名前を呼ぶと長髪の少女――モリアンは身を震わせながら顔を赤くした。


「……す、すいません……いいお声過ぎて、つい……」

 やっと反応したモリアンに遅れて二人もブルブルと肩を揺らせる。

「……ゲロヤバ、破壊力、パない……」

「……何これ、なんかチョー気持ちいい……」

「ですわよね!? こう頭の中がぽわわ~んってなってふわ~って感じで!!」

「そうそう! 頭ン中でジンジンって感じで響いてさ!!」

「……モリアン、マッハ、表現陳腐……語彙少ない……」


 三人は僕を放ったらかしのまま興奮した顔で熱く語り始める。それを見て流石に呆れた顔になった。このままじゃ埒が明かない。

「……あの……用事がないなら僕、もう帰ってもいいですか?」

 そう言うと三人は慌てた顔に変わった。リーダーのモリアンが再び頭を下げてくる。


「――じゃ、ありませんでしたわ! 大変失礼致しました!」

「はぁ……それで、用事って何だったんでしょうか?」

 するとモリアンは言いにくそうに話し始めた。


「えっと、その……チョメ子さんに、お願いしたい事があるのです……」

「お願いですか? ええと、何でしょう?」

「実はチョメ子さん、貴女に……アバターの作り方を教えて戴きたいのですわ!」

「ああ、アバターの作り方を教えて欲し――って、ええッ!?」

 空いた口が塞がらない。だけど三人の表情は大真面目でとても冗談には見えない。慌てながら僕は思わず大きな声で尋ねてしまう。


「ちょ、ちょっと待ってください!? え、僕達、挑戦された側なんですけど!?」

 だけどそんな言い分に耳を貸そうとせずモリアンは遠い目で語り始める。

「――そう、あれは……私達がやっと舞台を上手くこなせる様になった頃でした……」

「……って、聞いてくださいよ!? いきなり回想話ですか!?」

「あの頃から……クシナダが私達の邪魔をする様になったのですわ。私達が舞台をしていると必ずソロブースから『ワンオケ』をガンガン響かせながら!!」


 ワンオケ――きっと『ワンマン・オーケストラ』の事だろう。確かにあれはインパクトも凄いしソロでも凄い演奏が出来る点で厄介だ。文句を言うのも忘れて僕は彼女に尋ねた。


「……それで、クシナダが邪魔を始めたのっていつ頃からの話なんですか?」

「丁度、一ヶ月くらい前からですわ!」


 確かコンテストの最終告知が二週間少し前だった筈だ。実際のイベント告知自体はもっと前からあっただろう。クシナダも単純にコンテスト条件であるパフォーマンス参加をこなそうとする筈だし彼女の性格から考えても邪魔する意図は無かったに違いない。

 大体二〇時から二十一時と言えば学生が活動するピークだし彼女自身『高校生』だと言っていたから単純に活動時間がバッティングしてしまっただけだと思う。


「……うーん、多分嫌がらせとかじゃなくて、単なる偶然だと思いますけど?」

「そんな事ありませんわ! だってアンコールが掛かるとわざわざ公衆の面前で私達を下げる物言いをする方ですわよ!? きっと私達をライバル視しているに違いありません!!』

「……アンコール……ああ、あの時の……」


――てかそれ、思い切り僕達がされた事なんだけどな……。


 初めて舞台をやった平日、彼女達『モリグナ』がアンコールを受けて次の出演者を無視したから苦情が出ただけの話だ。それに話を聞く限り『教えて欲しい』としても何故僕に言うのかが分からない。彼女達は僕達に『挑戦』した訳で……頼むのは筋違いの筈だ。


「……あのう、ちょっと言いにくいと言うか、お聞きしたいんですけど……」

「はい、何でもお尋ねくださいまし!」

「そもそも僕、挑戦された側なんですけど……なんでそれを頼むんですか……?」

「……う……」

 だけどそう言うとモリアンは黙って視線を逸らす。その後ろで二人が顔を見合わせるとショートヘアの子がケラケラと愉快そうに笑いながら言った。


「あー……あれさ? アンズが勘違いしたんだよねー。チョメ子さんがクシナダさんの仲間じゃないか、って。あっちはグリーティング出しても速攻消されちゃうからねえ」

「……ひぐっ……」

 ショートカットの子――マッハが言うのを聞いてモリアンがしゃっくりの様な声を上げる。だけどその後にツーテールの少女ネヴァンがげっそりしながら呟いた。


「……アンズ先走って、ペケ子に勝負挑んだ。私ら、ペケ子の舞台が終わった後でエントリーしたし、まさか他のバンドと組んでやってるとか知らなかったし?」

「……ば、暴露しないで頂戴ッ!! 格好悪過ぎましてよ!?」

 そこで羞恥に染まったモリアンの悲鳴の様な声が上がった。だけど僕は本気で嫌そうな顔をすると手を挙げて質問する。

「ま、まあ……ペケ子って僕の事だと思うけど……『アンズ』ってモリアンさんの事?」

「「……あ」」

 途端にマッハとネヴァンが『しまった』と言う顔つきに変わる。

「ちょっ……ルビイ、ミンク!? 勝手に人の本名言わないでくださる!?」

「うわ、アンズもドサクサに紛れて言ったし!!」

「……り、リアル暴露……最低……」


 そう言うと三人はがっくりと項垂れて床に手をついてしまった。それで僕は深い溜息をを付く。僕の傍にいる女の子は自分からリアル情報をばらしてしまう。桃香にしたって僕の個人情報を言っちゃうしクシナダの名前も聞いてしまった。正直堪った物じゃない。

 少し痛い頭を押さえて僕は三人の顔を見回した。


「要するに――クシナダさんに勝ちたいから教えて欲しい、って事ですか?」

「……そ、そうですわ!」

「残念ながら無理です。あの人は勝とうと思って勝てる相手じゃありません」

「そ、そんな!? そのアバターにそのお声、とても素晴らしいですのに!?」

 信じられない様に首を振るモリアンに僕は再びため息混じりに答える。

「……あの人に『勝てる方法』なんてありませんよ。大体何をもって『勝った』事になるんですか? 結局審査員次第ですし、自分を納得させるまでやるしか無いでしょう?」


 それはこのところ僕がずっと思い知らされている事だった。

 クシナダ――鳳龍院サクヤを相手に油断は出来ない。予算、機材から技術に至るまで全てに於いて彼女は遥か上を進んでいる。そんな彼女に勝とうとして準備するにも何をすればいいのか思いつかない。大体それが分かるのなら僕達だって苦労なんてしていない。

 昔から『自分との戦い』と言うけど結局自分を納得させられるかどうかでしかない。


「それに誰かに勝てば本当に良い物ですか? 自分が納得出来なければどんなにやっても終わりません。本気で良い物を作りたいなら争う前にやる事があるんじゃないですか?」

 僕がそう言うと三人は無言になってしまった。それまで曖昧だった表情が曇り始める。


 きっと絵でも音楽でも『創る』と言う事はどれも同じだ。今だからこそ昔の僕は間違っていたんじゃないかと思う。だって他人に評価されて絵を辞めてしまったんだから。

 本当に信じる物があるなら辞めるべきじゃなかった。僕は楽しんで欲しかったんだから。


 そして僕は今『アバター』を創る楽しさにハマっている。これは捨てられない。例え人からどう言われてもきっと僕は辞める事が出来ないだろう。だって僕は評価ではなく誰かが『使いたい』と思う物を目指している。自分の為じゃなくて誰かに喜んで欲しいのだ。


「――チョメ子さん、私はチョメ子さんに教えて欲しい、って思います」


 静かな中、不意にショートヘア――赤毛の少女アバター、マッハが小さく呟いた。

 上辺だけを繕った様な態度じゃない。真剣な眼差しがじっと僕を見つめている。

「私達は音楽の学校に通っています。皆事情があって音楽で生きていきたいですけど結果が出せないと諦めるしかありません。認められないと舞台にすら立てないんですから」

「――ルビイ、それを話すのは……」


 いつの間にかモリアンとネヴァンの二人も真剣な表情になっている。だけどマッハは首を横に振ると二人に正面から向き合う。その表情は真剣と言うより深刻そのものだ。

「アンズ、ミンク……本当に今のままでいいの? 二人だってこの先デビューなり結果を出せなきゃ実家に戻れって言われてるでしょ? 今やらないと本気で後悔しちゃうよ?」

「だけど……ルビイ、リアルの事情を言っちゃうと……押し付ける事になっちゃうよ?」

 ツーテールの少女ネヴァンも気怠そうな話し方から一転して普通の口調で答える。

 多分アイドルの演技だったんだろう。でもマッハ――ルビイは僕を真っ直ぐ見て言った。


「……私、この人は本気だと思う。面倒なら断ればいいのに真剣に答えてくれたし、曖昧に誤魔化して助けて貰おうだなんて都合良過ぎるよ。だからちゃんと説明しようよ?」

 そしてリーダーのモリアンに二人の視線が集中する。モリアンは目を伏せてしばらく考えると決意した顔になって僕に話し始めた。


「――仕方ないですわね。分かりました……チョメ子さん。実は私達デビューの話があるんです。でもインパクトが弱いからコンテストに出て話題の人と張り合えと言われています。私共も音楽だけで頑張りたいのですが張り合うにもアバターが分からないのです」

「え……で、デビュー!? それってアイドルとして、プロデビューって事ですか!?」

「はい。アイドルかどうかは分かりませんが、VR系でと事務所から伺っています」

 そう言うとモリアン達三人は俯いてしまう。僕もそれを聞いて鼻白んだ。


 VR系アイドルと言うのは最近増えている芸能人だ。VRワールドで活動する事が主体で基本的にその正体は一切非公開な事が多い。年齢も何も関係ないし既にデビューしている芸能人でも正体を隠して活動出来るけれどその分歌唱力や音楽的センスが要求される。

 だけど僕はそれを聞いて考え込んだ。


「……それって本当に『アバター・コンテスト』で、なんですか? 幾ら何でも造形コンテストで成績を残せ、だなんて流石に無理筋もいい処だと思いますけど……?」

 僕がそう言うと三人もそれは分かっている様で顔を見合わせて苦笑する。だけど歳不相応な少し疲れた顔になりながらモリアンは小さく頷いた。


「存じています。ただ――多分、あのクシナダさんが出ていらっしゃるからでしょうね」

「え、それってどういう事です?」

「あの方は世界で注目されていらっしゃるんです。海外にもファンが大勢いらして……」

 それで僕も納得せざるを得なかった。


 クシナダは本来歌う為のアバターじゃない。僕達と同じで純粋に造形を楽しみながらコンテストに参加している。でも彼女は造形の品質とボイスのインパクトからメディアではVRアーティストとして扱われているのだ。だからチョメ子とモカも注目されてしまった。


「……うーん……ですけど……」

「……駄目、でしょうか……?」

 似た状況に同情するもののデビューが絡む事を考えて躊躇してしまう。ただの高校生で素人な僕が関わっていいものかと悩んでいると見る見る三人の表情が絶望的に曇っていく。


「……でも僕も参加者ですし……独学の素人なんですけど……あ、あと……」

「あと……何でしょうか?」

「あの、お忘れかも知れませんけど僕、モリグナさんに挑戦されてるんですけど?」

「「「……あ」」」


 どうやら本気で頭に無かったらしい。三人は声をハモらせると黙ってしまった。それでも真っ先に立ち直ったモリアンが真剣な顔で僕をじっと見つめて答える。


「……勿論、勝負を望んでいます。私達も舞台に立つ身ですし、その意味でもチョメ子さん達は越えなければならない相手です。好敵手として競うのは当然の事ですわ?」

「いえ、そう言う意味じゃなくて。それだと僕、手を貸すとマズい事になりませんか?」

 だけどそう告げた途端、モリアンだけでなく後ろの二人もキョトンとした顔に変わった。

「あの……パフォーマンス勝負と、コンテスト参加がどう関係あるのでしょう?」


 その返事に僕は愕然とした。都合が良いと言うか周囲への影響力を考えていなさ過ぎる。

 確かに彼女達が挑戦したのは舞台勝負かも知れないけれど世間の人達は絶対にそうは考えない。勝負を宣言して同時にコンテストに参加すればそれはもう『コンテスト勝負』でいかに本人達にその気がなかったとしても周囲はそうは受け取ってはくれない。

 とは言うものの込み入った事情を聞いてしまって断りにくい。


「……う、うーん……まあ、直接は無理でも、相談とかアドバイスくらいなら――」

 苦し紛れに僕はそんな事を言ってしまった。その途端三人の顔が大きく跳ね上がる。

 モリアンがいきなり近寄ってきたかと思うと突然僕――チョメ子の手を掴み取った。


「ほ、本当ですか、お姉さま!?」

「……お、お姉さま、って……」

 余りに凄い勢いに思わず身を仰け反らせながら後ろの二人を見ると申し訳無さそうな顔つきになっていて、両手を合わせて合掌のポーズを取っているのが見える。


「……ごめんなさい、チョメ子さん。言ってませんでしたけどアンズって凄く惚れっぽい子なんです。頼りになる人に超弱いし、特に男の子苦手で……だからごめんなさい……」

「……こっちに来ない様にあんまりリード出来なかったの。ペケ子姐さん、頑張って?」

「ひ、ヒィ……」


――こうして。僕は対戦相手を助けると言う訳の分からない事になってしまったのだった。

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