NGテイク

尾八原ジュージ

NGテイク

『撮れてる? 明るさ大丈夫? 結構暗いねここ。はいこんばんは、マシコーの心霊アタックチャンネルです! えーと、今回は前回リクエストの多かった***高原ホテル廃墟に、カメラのキバくんとやってまいりました。こちらは一階のロビーです。いや~すごいね落書きが。これなんか結構うまくない? うまいんだけどははは、FACKって書いてある。Uだよねここは。惜しいな~字体オシャレなのに。あ、でね! まずはこのホテルについて説明していくんですけど。まぁ結構有名だから知ってる人も多いかもなんですけど、まぁよくある感じのリゾートホテルですね。バブルのときに建てられて、バブルが弾けてその後潰れちゃったっていう感じのアレですね。もう廃業して二十年以上経つそうなんですけども、建物はまだバリバリ残ってますね。すごいな。結構立派ですもんね、この吹き抜けがホラ、すっごい高くて。もったいないですね。えー、でね。このホテルの怪談というのがこちら……例によってしまじぃさんから本文をお借りしております。えー、このホテルが廃墟になって久しいある夜、三人の若者が肝試しにやってきた。彼らはロビーの階段を上り、食堂や会議室が並ぶフロアに到着した。その途端一人が「女がいる!」と大声を上げた。彼の指さす方を見ると、長い髪を振り乱した女が廊下の向こうから走ってくる。懐中電灯の光に浮かび上がった顔には、なんと目も鼻もなく、大きな口だけがニタニタと笑っている。そこにびっしりと並んだ牙を見て、彼らは悲鳴を上げた。這う這うの体でホテルから逃げ出した彼らは、一人の姿が見えないことに気付く。しかしさすがに恐ろしくて探しにいくことができず、街に戻って警察に助けを求めた。ただちに大人数による捜索が開始されたが、女の姿はなく、ただ食堂の前で仲間の遺体が発見されたのみであった。その遺体にはいくつもの噛み傷があり、鋭い牙で体の肉をむしり取られていたという……えー、というね、話でした。いやすごいですね。ホラー映画なみ。遭遇したくないですね絶対。逃げ切れるかな~もしも僕が食われたら通報してください。ははは。えーとじゃあ早速この階段ですかね、のぼって上の階に行きたいと思います! ん? どしたのキバくん。あ? 藤尾? あれ、藤尾いないの? 何やってんだあいつ。いや~、これ声入っちゃったな完全に。NGテイクだわ。あーいいや、カメラ回しとこ。万が一オバケ的なやつ映り込んだらスクショあげられるから。いやしかし藤尾くんマジでどしたの。二階に隠れてるはずだよな? そうそう、打合せやったべ? 俺がまず、上の階に行きたいと思いますって言うでしょ。で、キバがカメラを階段の上の方へ向けると。そしたら女装した藤尾が映り込むと。そういう感じだよな。な? でもいないじゃんあいつ。まぁいいや上行ってみるべ。走る足音とかも入れたかったのになぁ、帰っちゃったんかな。でもあいつ免許ないのに帰れねーっていうかあの格好で帰るの? 女物のワンピなんですけど。はい二階つきました。藤尾ー! 藤尾いないのー!? いないと困るんですけど! マジでいないのかあいつ。ていうかどこから出てった? 入り口って他にあったっけ? 非常階段かな。あれ、今音した? 足音だよ、走ってるみたいなの。あっ、ほらまた聞こえた。藤尾か? 今やられてもなぁ。おい藤尾! タイミングずれてんぞ! 撮り直すぞー! どこからこの足音聞こえるんだ? スマホは? かけてる? すぐ出ろよなぁあいつ。えっ、どこ? どこにいた? あああれか、おーい藤尾! もっかい最初からやるから頼むよこんっ……いや誰だよあれ。違う違うあれ藤尾じゃない、あんなでかくないってあいつ、うわ、きたきたきた、やばいってやばいやばい、カメラなんかいいから馬鹿! 走れ! 走れ走れ! 速く! 走れって!』

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