チャンスを掴め!

オリオン

チャンスを掴め!

「悠くんってほんとに私のこと好き?」


「…」


「そっか、私たち別れよ」


「え…」


「さよなら」

そう言って走り去る彼女を僕は追いかけることができなかった。




あれから5年が経った。高校2年の終わり、僕は大好きな彼女と別れた。彼女は綺麗で、明るくて、僕にはもったいない人で…僕には自信がなかった。周りから聞こえる“釣り合わない”の声から逃れられなかった。…でも、今も僕は君が好きだ。


高校では、それ以降彼女と話すこともなく、大学は地元から離れた場所を選んだ。その大学も卒業し、地元の企業に就職することが決まった。今日、地元に帰る。彼女に会えるかな…なんて思ってはいけない。


「わ、ごめんなさい」


「すみません…」

ぼーっとしていたら人にぶつかってしまった…。申し訳ない…あれ?


「…悠くん?」


「…うん」

あぁ、出会ってしまった。話したいことがたくさん…


「おい、“まな”行くぞ」

あ…。


「ちょっと待って、知り合い」


「ふーん」

イケメン…さんだ。彼氏…いるよな、そりゃ。


「久しぶりだね」


「今日…こっち戻ってきて」


「そうなんだ、元気そうでよかった」


「そっちこそ」

もっと綺麗になっちゃってさ。


「そろそろ行くぞ」


「うん。じゃ、またね」


「また…」

素敵な彼氏がいて、僕と“また”会うことなんてないよ。




家族と話して、地元に戻っては来たけど、一人暮らしをすることにした。別に家族と仲が悪いわけではないが、自立したい。いつか彼女からも…。


「いいなー、お前はー」

コンビニに向かう途中、公園でイケメンさんらしき人を見かけた。友人らしき人たちもかっこいいなぁ。


「まなちゃん、めっちゃかわいいじゃ〜ん」


「まぁな」

やっぱり、彼氏か。…彼女が幸せなら僕が介入していいことじゃ…。


「あいつモテるしな、ちょうどいい」

え?


「あはは、なんだよー。本命じゃない感じー?」

本命じゃ…ない?


「まぁ、ちょうどいい“アクセサリー”ってとこ?」

アクセサリー…。


「お前、ひっど〜」


\あははは/


…僕が、手を離さなかったら。君はあんなやつの彼女にはならなかった?




「あれ? 悠くん?」

僕は気がついたら彼女の家の前にいた。彼女は実家暮らしだ。今、家から出てきたから知っただけだけど。


「あの」


「どうしたの?」

なにを話せばいい。遊ばれてる…イケメンさんと別れた方がいい…。なにをなにを話せば…。


「昨日の人…」


「あ、あれ…彼氏…」


「別れた方がいい」


「え?」

あぁ、うまく言葉が出てこない。


「えっと、その…」


「…今更、何? 悠くんには関係ないでしょ。ほっといて!」


「違…」

あ。また君は走っていってしまう。今更追いかけたって…。


追いかけたって何もないかもしれない、でも!


「待って、まな!」

僕はまなを追いかけて走っていた。


「まな!」

君の手を掴んだ。


「離して!」

まなが手を振って、僕の手を離そうとする。そりゃそうか、これじゃまるでストーカーだ。急に別れろって言って、家の前にいる元カレなんて怖い。


「聞いて」

でも、今は離さない。


「…」

聞いてくれるってことかな、君が黙っている。


「信じてもらえないと思うけど、昨日公園でイケ…まなの彼氏を見た。友達…?と一緒にいて、まなのこと…」

本命じゃない…アクセサリー…。こんなひどいこと言えない。


「何?」


「えっと、悪く言ってた」


「なんて?」


「…言えない」

君にこんな悲しませることもう言いたくないよ。


「…そう。話は終わり?」


「え…」


「信じないわけじゃないけど、信じるわけでもないから」

あぁ、届かない。


「じゃあね」

君がまた行ってしまう。


「す…すきだ」


「え…?」


「僕は嘘をつかない。彼氏さんの話も高校のとき君のことを好きだったことも…。い、今も好きなことも! 僕は嘘をつかないよ!」


「…今更。またね」

悲しそうな顔…。今更追いかけたって遅かった、あの時じゃないと…。




あれから数日。彼女は元気にしているだろうか。例えイケメンさんに気持ちがなくても…彼女が幸せなら、僕といるよりマシなのかもしれない。


\ピンポーン/

ん? 宅配頼んでたっけ?


「はーい…え?」


「開けて…くれるかな」




「…」


「…」

今僕の部屋に彼女がいる。どうしたんだろう、なんでここを知ってるんだろう。


「お母さんに聞いてきた」

あぁ、なるほど。


「悠くんの言った通りだった」


「え?」


「予定合わせないで家に行ったら女がいた。問い詰めようとしたら、開き直って私の方が浮気相手だからって言われた」

…そんな。


「冷たくしてごめん。信じなくてごめん」

あれ…?


「まな、大丈夫?」

まなが…泣いてる。


「でも、でも! 悠くんは私のこと好きじゃなかったじゃん! 忘れよう、忘れようってせっかく彼氏見つけたのに! なんで!」


「…まな?」


「なんでまた出てくるの!」


「え…」

忘れよう…また出てくる…。僕にいいように勘違いしそうになる…。


「好きなの! ずっと! 忘れられなかった!」


「え」


「何、そのリアクション! 悠くんが好きって言ったし、悠くんが別れさせたんだから…」


「ちょ、ちょっと待って」

え。僕を好き?


「…僕でいいの」


「悠くんがいいの」


「…まなに釣り合う男じゃないけど」


「何それ、釣り合うとか知らない」

あぁ、そうか。僕は周りを気にして、君を見ていなかった…。


「まな、僕ともう一度付き合ってください」


「…いいよ、うわぁ!」

僕は思い切り君を抱きしめた。


「もう絶対離さない」


「…高校のとき、好きって言ってくれなかった理由問い詰めるからね」


「…もう少し抱きしめてからでいい?」


「…いいよ」


あぁ、君のもとに走ったゴールには君との幸せが待っていたんだな。


fin.







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