くねくねと女子中学生 ~デュアルなくねくね~

あさひ

第1話 バカなあいつ

 ただ真っ直ぐに学校に向かい、勉強をし

そのうちに大人になっていく。

 ただ普通にお金を稼ぎ

生活を繰り広げ、跡継ぎを残す。

 学校がただ単にルールと普通を教わる場所で

逸脱した未来は自分で用意する。

 この町ではそうじゃなければ大人じゃなく

夢を追うのは子供だけというふざけた保身主義の世界で

突飛な全ては笑われる。

「はい、確かにいただきました」

「すまないねえ・・・・・・」

 少女は立派な大人からお金を徴収していた。

「私はこれで帰ります」

 淡々と物事を伝え、そして足早に去って行く

それが町長の娘である千香の役目で

地主の定めらしい。

「あの米の等級は下がっていました・・・・・・ はい、次からは

違う農家からが適正かと思います」

 その村では珍しいスマホを片手にビジネスマンの様な

立ち振る舞いで歩いて行く。

 これが学校に行く前の仕事なのだから

もはや独り立ちした方が良い。

 頭が良いわけではないと勉強をサボらないが

熱で寝込んだあとに咄嗟に出た中間テストは

学年どころか中学一の点数で過去にその域に達した者は

村の創設から存在しない。

 学校の勉強は教室だけで

家ではネットにある大学院の論文と暇つぶしのカードゲームで

ランカー狩りの天才と恐れられ、挙げ句には研究施設を自信で建設という

本当の意味で何処を目指しているかが不明そのものである。

 資金はカードゲーム大会の優勝賞金と様々なコンテストでの

コネクションや研究成果の売り上げが主にあたる。

「よっ! 千香様っ!」

 不意に呼び止められたが様付けするのは

親友の路田志雄みちたしおしかいない。

「志雄か・・・・・・ なにか用なんだろうな?」

「冷たっ!」

「用がないなら呼ぶ必要がないだろ?」

「相変わらずにぶっきらぼうだね・・・・・・」

 反応が大きく、わざとらしい千香の唯一の親友で

由所正しい道場娘のくせに相手を手玉に取るという伝統を無視するスタイルが

彼女の持ち味というより性質そのもの。

「傷ついたからまたカラオケ行こうぜ!」

「忙しい」

「そこをなんとかっ! 千香様の美声をお聞かせ願えませぬかっ!」

 千香は一回でも聞いた曲ならプロ並に歌えるし

透き通る中に熱い何かが声に宿るためか

聴いた者の中には涙が溢れた生徒までいる。

 それが合唱大会での事件である「号泣で合唱中止」という案件を

引き起こした能力である。

 生徒の中には金銭を払ってでも聴きたいという要望が多いが

村長の娘に強く言う馬鹿は居るわけがない。

「じゃあ、祖母ちゃんのぼた餅を六つでどう?」

「なっ! 六つもか? それは黄粉も含むのか?」

「もちろんっ!」

「仕方ないな・・・・・・ 今日か? それとも明日か?」

「おおっ! 積極的だね~」

 千香が顔を綻ばせるのは路田堂のぼた餅か新技術の発表しかない。

「じゃあ、今日の放課後に千香の家に行くね~」

「任せろ」

 こうして独占ライブは開催されるのだが

地下の防音室で行われるため、志雄だけしか知らない

何故なら研究所の一室だから。

 仲が良いのだが周りの反感を買いかねないので

あいさつ程度の振りを毎回、披露する。

「あっ! 青海苔のやつも言っておくんだった・・・・・・」

 恐らくだが周りはこの状況だと千香だと気がつかない

完全にそこらの甘い物好きの中学生としか見られなくなっている。


 授業の半分以上が終了した昼休みは

千香の弁当に注目が集まる。

 料理にも精通している天才は

身近な材料を店のクオリティに進化させる

そんな能力まで持っている。

 しかも毎朝、自分で調理しているのだから

いつ眠っているのかという疑問が最初の理由だった。

 今は弁当が何料理でどの様な彩色かを

横目でチェックするのが伝統となっている。

 ちなみに今日は夏ということで

塩レモンの豚肉炒めが主菜で

トマトのごま油和え、和風バジルソースで炒めた豆腐と卵の炒りもの

そうめんの巻き寿司と言ったイタリアンと和食の和洋折衷な弁当だ。

「ふふふ・・・・・・ 後で作ってもらおうかな?」

 志雄の独り言は聞こえてないのかピクリともせず

ただ、時間通りに食べ終わる。

 千香にとって料理は仕事や勉強の為に補給する程度で

栄養を突き詰めたらプロ級になっただけ

別に料理の道など視野にない。

 弁当箱を片付け、教材を確認し

シャーペンと消しゴムの整備をこなす。

 先生が来る頃には姿勢正しく教壇を見ている姿は

まるで会議に挑む会長の様だ。

 その気迫に押されたのか

大概の先生が言葉を噛み続け、笑われる。

「あの・・・・・・ 千香さん?」

「はい、何でしょうか? 階都かいと先生」

「私に恨みでも?」

「その様な感情はありません」

「そうですか・・・・・・」

 渋々と授業を消化し、逃げるように教室を去る女性教師に

疑問が尽きなかった。

「好意は届かないな・・・・・・」

 そっと呟いた言葉は机の下に消えていき

寂しさを呼び込む。


 放課後になり、目で合図を送る志雄に

静かに頷くと知らぬ顔で帰路に着く。

 少しだけオレンジに染まった空を横目に

一定のスピードであぜ道を歩いていく。

 そんな千香は足音があまりにも同じペースで来ていることに

驚いていた。

「痴漢か?」

 一度、停止するとその足音も聞こえなくなる。

「おいっ! 何か用か!」

 その言葉で反応がないのは初めてだったからか

舌打ちを打った。

 その刹那に肩を叩かれ、声が聞こえる。

「ねえっ! 彼女~」

「ナンパならおことわ・・・・・・」

 ひょうきんで若い男かと振り向くと

そこには白い人型に紅点が二つの偉業が格好つけていた。

「おっおぉ・・・・・・」

「どうした? 俺っちがそんなにタイプかい?」

「お前は誰だ?」

「おっ! そこ聞いちゃう~?」

 くるっと周り、決めポーズの後で

声を変質させたそれは一言を発す。

「くねくねさっ!」

「は?」

 思わず素で疑問を吐露するが

町長から聞いたことがあった危険扱いの名称が目の前で

生えてない髪を解いている。

「で? くねくねとやらがなんの用だ?」

「いいね~ 答えちゃおうかな~?」

「早く言え」

「君をカフェに誘おうかな? なんてね~」

 さらに不可思議なことを言う意味不明な存在に

馬鹿馬鹿しくなり、足早に逃げる。

「ちょっ! 待って!」

「用なら町長を通せ!」

「いやっ! そういうのいいから! 連れてって!」

 叫び合いながらチェイスを繰り広げていたが

どちらも体力はない。

 気がつけば喧嘩をした後に認め合うシーンを演じていた。

「おっお前のっ もっ目的は?」

「ぱっパン! ケーキだっ!」

 双方、息を整えて交渉に移る。

「で? 目的はカフェで注文するには見えるやつが居ないと食えないからか?」

「ああ、パンケーキって呼ばれてる旨い菓子が食いたくてなっ!」

「それなら作り方を教えるから自分で調達するんだ! いいな!」

「おう!」

 何処が口かわからないがちょっとした青春ドラマが広がっていた。


 家に戻ると志雄が拗ねながら地面に文字を書いている姿を

見せつけられる。

「もう・・・・・・ 私以外の誰と会ってたのよ!」

「すまないな」

「それだけ? 私とぼた餅のどっちが大事なの!」

「まあ、ぼた餅だが・・・・・・ 本当に申し訳ない・・・・・・」

「ぼた餅め! 私よりも上なんて生意気よ!」

 どこのコントだといわんばかりの掛け合いで

地下に説明しながら入っていく。

「えっ? イケメンだったの?」

「顔はわからなかったな」

「いや~ 隅に置けないな~」

「人の話を聞いてくれないか?」

「異形のアイドルやってます! 夢は異形と人の架け橋です!」

「歌わないぞ?」

「何を言っているのかな~ ぼた餅姫は私の手中ということを忘れたかしら?」

「ぐっ! 卑怯な真似を・・・・・・ って違うから」

 恐怖体験を普通に恋バナに変えてしまう志雄に

憧憬すら覚えた。

「じゃあ、恋愛ソング上手くなってるだろうから

【恋雪】歌ってよ~」

「話がわかっているのか?」

「歌詞とリズムが違うよ~ 

『瞳の奥に僕を置いてくれ~ 愛しき笑顔・・・・・・』 でしょ~」

「ああ、わかったよ! 歌うから後で聞けよ!」

「へーい」

 気のない返事で返されたために聞く気ないなと思いながら

丁寧にしっとり歌い上げるところが千香らしい。

 今は知らない、あの出会いがいずれ将来になることを・・・・・・

 





 

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