第132話 遊楽町を統治する者

「遊楽町?」

 シンが運転する車の中、シンが急に話し始めた。

「京都の北の山の中にある。風俗街だ。京都に住んでいる人間なら誰でも知ってるぞ」

「有名なのか?」

「まあ、風俗だから知る人ぞ知る街だ。特別な条件をクリアしないと入る事すらできない」

「特別な条件?」

「風俗街の嬢から招待状を貰う、又は女王に気に入られるかだ」

 確かに特別な条件だな。そんな風俗街初めてだ。

「あそこは未成年の嬢がいるし、風俗街を守る私兵もいる。条件を付けないと、不埒な輩を招いてしまう。あそこはそういう街だ」

「……御殿場とは違うな」

 シンの話が本当なら、その遊楽町は合法地域だ。

 風営法で、公共施設がある場所から数キロは風俗店を建てられない。

 山の中だとしても、京都府を味方にしないと街レベルまで発展しない。

 だけど、シンから遊楽町が明治初期からあると知らされた。

「明治から遊楽町があるのかよ」

「最初は本当に1個の風俗店だったらしいぞ。そこに来る客のほとんどがお偉いさんで、お偉いさんを抱えて拡大したんだ。一時期は京都一帯に風俗店があったらしい」

 凄っ!そこまで拡大したのか。

「だけど、そこまでやり過ぎて政府から風俗街の縮小を命じられた」

「それでも縮小?消さなかったんだ」

「非公式に取引したんだ。遊楽町を山の中に残す代わりに贔屓にすると。政府の役員は欲が強いからな」

 うわっ。同性でも引くわそれ。

「遊楽町は京都の秘密の観光地だ。政策を施行させる為に他所から来た政治家を遊楽町に招き、味方にする役員だっている。そこの女王がお前を指名したんだ」

「ちなみに……女王って歳いくつ?」

「軽く百は越えてる。それでも若さを保っているって噂だ」

 とてつもないお婆さんじゃん。

 ん?噂……?

「見た事がないのか?」

「遊楽町の嬢でも中々お目にできないな。だから噂が蔓延るんだ」

「そんな奴に名指しで呼ばれたの?怖いなぁ」

「言っておくが、女王が指名するのは滅多にない。光栄な事なんだぞ」

「そうか。だけど、俺は固いぞ」

「遊楽町の嬢は全国でも指折りの実力がある。さっきも言ったが、未成年もいるからな。お前を落としに動くかもしれないぞ」

「楽しみにしとく。てか、遊楽町って駐車場あるの?」

「ない。だから途中から徒歩だ」

 マジかよ。最悪だ。山の中を歩くのかよ。

 それぐらいしないと、客を引き立たせられないのかもな。


 遊楽町に続く階段はとても長く、段差もそれなりにあるから足にくる。

 シンも長く階段を登って疲れている。

 山道の走破経験はあるが、こういうちゃんと整備されてるけど、キツい道は慣れていない。

 しかもこの階段、あまり街灯がない。電柱すらなく、提灯が少しあるだけだ。

 こんな山道に遊楽町があるのか、本当に疑問になる。

 だが、途中から気配を察知した。長年戦闘に身を置くとこういう勘はちゃんと鋭くなる。

「どうした?」

 シンが俺の顔が鋭くなったのを見て、気になっていた。

「囲まれている。左右の木に3人ずつ、後ろにも3人いる」

「分かるのか?」

 残念ながら、俺はクローン製造で色々発達させられたんで。

「恐らく、遊楽町のアサシンだ。9人は多いな」

 暗殺者も遊楽町にいるのかよ。

 気配を感じているが、流石に場所の特定は難しい。

 後ろのアサシンも距離を取っていて、どのくらい離れているのか分からない。

「このまま行っても大丈夫か?」

「多分……俺に聞くな。あくまで俺は同行するだけだ。お前を指名した理由は分からん」

 だろうね。

 しばらくアサシンを好きにさせて、気配を感じて様子見していると、後ろの気配が強くなった。

 近づいているみたいだが、足音は全く聞こえない。

 だが、殺気の濃さは分かる。

 タイミングを合わせ、首を傾けてデカイ刃のナイフを避ける。

 うおっ、何てナイフだ。

 振り向いてアサシンのナイフを叩き落とし、アサシンの後ろを取って拘束した。

「動くなよ」

「…………!」

 アサシンの服装は黒の和服。忍者のような感じだ。

 ナイフの他に手裏剣やくない、まきびしなんかも所持していた。

 本当に忍者だな、と思いながら危険物を捨てていく。

「おっと」

 拘束を腕で突っぱねて逃げようとしたが、すぐに拘束した。

 その時に上半身を触ったのだが、アサシンの性別が女だと分かった。

「くの一かよ。悪いけど、しばらくこのままだ」

「…………」

 アサシンの女が観念したのか、抵抗しなくなった。

 そのまま先へと進みながら警戒していると、俺に赤いレーザーが向けられた。

「シン、俺やり過ぎた?」

「ああ。ほら、来たぞ」

 前から鉄甲鉤を装備したアサシンが4人現れ、後ろからもアサシンが姿を現した。

 挟まれてしまい、俺やシンは何もできなくなった。

「仲間を離せ」

「だったら謝ってくれない?殺されそうだったけど」

 この女アサシンは人質として使う。いざという時の盾として。

 だが、左右のレーザーは的確に俺の頭を狙っている。

 変な動きを見せたら、間違いなく蜂の巣だ。

 緊迫した空気が漂う中、暗い山道に着信音が鳴り響いた。

 前の忍者が腰の携帯を取り、電話に出る。携帯は市販の使い捨てだった。

「はい……発見しましたが問題が……。はい、え?いいのですか?……分かりました」

 電話を終えた忍者は合図を送ると、他の忍者達は武器を下げた。

 俺を狙っていたレーザーも消えた。

「無礼をお許し下さい。主はあなたを試す為に部下に奇襲を仕掛けたそうです」

「じゃあ、この子はお前ではなくボス直々の命令で動いたのか?」

「そういう事です。もう我々は攻撃しません。彼女を離して下さい」

 忍者にそう言われ、渋々女アサシンを解放した。

「おい、忘れ物」

 俺が叩き落とした大型ナイフを彼女に返す。

 女アサシンは驚きながらも素直に受け取り、前の忍者達と合流した。

「では案内しましょう。遊楽町へ」

 忍者達に連れられ、俺とシンは数十分歩いて、大きな門の前に着いた。

 門の高台に2人の男がAK-74を俺とシンに向けている。

 忍者が何かのサインを送ると、男達は銃を下げた。

 数秒後、大きな門の扉が開かれた。

 中に入って、俺は目を見開いた。

 昔ながらの建物が並ぶ街が俺達を歓迎したのだ。

 周りの人……というか女達が俺達をまじまじと見ている。

 全員嬢か?誰が嬢なのか分からない。

 しばらく大通りを歩くと、奥にそびえ立つ小さな城のような建物の前に着いた。

 風格があり、どう見ても地位の高い人間が住んでいる建物だ。

「ここは?」

「不知火様の家だ。本来、我々でも滅多に来ない場所だ」

「不知火ってここのボスの名前だ」

 ほう。ここまで部下を使って連れて来させた夜の女王か。

 どんな奴か楽しみだ。

「主と会う前に、まずは危険物や貴重品を預かる」

 忍者にそう言われたので、素直にナイフと財布を渡した。

「スマホもお願いします」

「そこまでやるのかよ」

「ここは外界と離れた街です。ここは撮影禁止、SNS

 に載せるのも禁止です」

 仕方なくスマホを忍者に預けた。

 スマホがないと仲間と連絡が取れなくて困るんだが。

「チェックしろ」

 さっきの女アサシンがボディーチェックを行った。

「手つきが良いな。さては風俗嬢もやってるな?」

「…………」

 無視か。プロだな。

「怪しい物はありません」

「分かった。では、お前は入る事を許可する。ただし、シン様はここに。主の建物に入れるのは一部の人間と主が指名した者だけだ」

 おいおい。ここでシンと離れてしまうのかよ。

「ゼロ。俺はここで待ってる。多分、奴らがお前に何かする事はない」

「とても不安だが?」

 全然フォローしないじゃん。

 ため息をついていると、建物から来た使用人に案内され、夜の女王の家に入った。

 中々豪勢な中をスタスタと進むと、客室みたいな部屋に案内された。

 ここの椅子に座れと言われたので、俺は従った。

 後から緑茶を貰い、少しだけ飲んだ。

 それにしても、内装が明治時代みたいだな。作られたのが明治初期だから、当時の内装を再現したのか?

 あの忍者もそうだ。武器は銃を使ったりしているが、武装は忍者が使っていた者ばかりだ。

 という事は、ここのボスは昔の方が好きだったのか?

 色々考察していると、入ってきた扉がノックされた。

 使用人が向かうと、俺に不知火様が来ると告げた。

 くれぐれも不敬な事はしないようにとか色々言われ、部屋から去った。

 遊楽街のボス、長寿でカリスマのある女性。

 一体どんな奴だ?

 扉が開かれ、俺は入ってきたソイツを間近で見た。

「お、来たようじゃな。歓迎するぞい」

 まさかのロリババア!?

 思わず口に出しそうになった。

 部屋に入って来たのは茶髪にグリーンアイの10歳前後のロリ少女だった。

 そのロリは前の椅子に座り、足を組んで俺に名乗った。

「私がここのボス不知火ほのかじゃ!敬うがいい!」

「……はぁ」

 本当に遊楽町のボスなんだ。信じられないけど、信じるしかない。

「ふむ、お前を初めて見たが、中々イケメンじゃな」

「ど、どうも……」

 とりあえず適当に相槌を打ってるか。

「それで、何故俺を呼んだので?」

「おお、そうじゃった!実は頼みがあっての。遊楽町存続の危機を助けてくれんかの」

 思ったより真面目な頼みで俺はびっくりした。まあ心の中で済ませたが。

「実は世継ぎがいなくての。後継者がいないと、遊楽町の長の座を渡せないんじゃ。しかも、このワシと血縁でないといかん」

「はぁ……」

「だが、時代の流れは恐ろしいの。ポンポンと弱いのが誕生し、強い者はだいたい隅に追いやられたから、中々良い相手が見つからなくて困っとる」

 遊楽町の跡継ぎは不知火と血縁関係でないといけないんだな。

 昔ながらの方法をやっているんだな。

 てか、このロリババアいくつだよ。

「不知火……だっけ。ちょっと聞きたいけど、歳いくつ?」

「うーん、正確には分からんが、まあ昭和に産まれたと言っとくぞ」

 本当に100超えのロリババアじゃん。とても口にできないが。

「これでも、現役の頃はお偉いさん方をもてなしとったんじゃぞ」

「経験豊富なんだ。アハハ……」

 長く生きているのに、子どもらしさが残っているのは謎だ。

「この体型でもモテてたぞい。ああいうのを……何と言うんじゃ?」

 ロリコンですね。お偉いさんはロリコンが多いと聞くけど、こんな形で知りたくなかった。

「お前の事は調べたぞ。中々面白い戦歴や生き様じゃな」

 ああ、もう俺の事は調査済みなのね。

「顔も好み。ステータスも文句なし。改めてお前に決めたぞい!」

 俺を指で差し、そして衝撃の頼みを告げた。

「お前、ワシの跡継ぎを作っとってくれ!」

 ………………………………。

 ……は?

「分からなかったか?分かりやすく言うなら、ワシと子作りしよう!」

「デケェ声で言うな!」

 何言ってんのこのロリババア?頭おかしくなったか?

「ワシに親や兄弟はおらん。だからワシの跡を継げるのはワシの子どもしかないんじゃ。じゃが、ワシの跡継ぎはそこらの人間より強くないといかん」

「だからって何で俺?他にもいたんじゃ?」

「おらん。ちゃんと調べて、該当したのがお前なんじゃ」

 嘘だろ。

「な!どうじゃ!ワシと子作りせんか?」

「そんなワクワクして言うなロリババア!」

 あ、つい言っちまった。まずい、死んだか?

「ほう。このワシに悪口か、じゃが許そう!」

 思ったより器広くて良かった。

「どうしてもダメかの?頼みを聞いてくれたら、お前の欲しい情報を何でもやろうと思ったのだが」

「あんたとヤるのと情報が等価交換なんて理不尽過ぎる!もう少しまともな頼みにしてくれ!」

「ダメじゃ!ワシが決めたからには、もう逃がさないぞ!ちなみに逃げたら死刑じゃなからな」

 職権乱用しやがったこのロリババア!そこまでしてまで俺とヤりたいのか!?

「悪いが、俺はあんたを知らない。知らん奴なんかとヤれるかよ」

「ほう?2人の女と体を重ねたのにか?」

 どこで調べたそんな情報!いらん事まで調べてやがる!

「ふむ。確かにお前はワシの事を知らん。なら、ワシがお前をもてなし、お前の心を掴んでやるぞい!」

 意気揚々と俺にそんな事を言った。

 コイツ面倒くせー。

 不知火ほのか、歳取ってるからかなり高齢な婆さんかと思ったらまさかのロリババア。

 しかも遊楽町のボスで、なりふり構わず俺を使って子どもを産みたいらしい。

 断りたいが、引き受ければ情報を与えると言われた。

 クソ、今までの相手より厄介かもしれない。

 長く生きている奴は経験豊富で勘が鋭い。ちゃんとしいとこのロリババアに呑まれるかもな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る