第131話 警備会社との友好

 何で、事務所から射撃場に移動したんだよ。

 しかも普通にサバゲーショップの地下にあるし。

 来たかった場所って言うから何かと思えば、ここかよ。

「悪いな。日頃から馴染ませないと、腕が落ちるんでな」

 そう言ったのはラミアン。

 彼女はシンの次に年上のお姉さんで、警備会社唯一の外国人だ。

 日本語もそうだが、アラビア語やスワヒリ語、英語、中国語、韓国語の6ヶ国の言語を話せる。

 そんなラミアンが神楽組と繋がっている店主から貰ったのはM16A3アサルトライフル。

 フルオート機能を持つアメリカ製の5.56ミリアサルトライフル。

 3倍スコープ、フラッシュブレーキを着けている。

「どれどれ。とりあえず50でやってみるか」

 的が自動で50メートルまで動き、ラミアンが弾倉を装填する。

 肩で保持して構え、数発ずつのバースト射撃で的に多くの穴を開けた。

 後から的を見せてもらうと、ほとんど胴体の中央に当たっていた。

「ま、こんな所か」

「凄いです!ラミアンさん!」

 ラミアンの射撃の腕にこよりが賞賛する。

 今度はこよりが店主から銃を貰った。

 RO991サブマシンガン、M16の9ミリSMGバージョンの銃だ。2.6ぐらいしか重量がないから、女性でも扱いやすい。

 こよりはRO991にドットサイトにショートグリップ、サプレッサーを装着している。

 細長いマガジンを装填し、こよりもバーストで的を撃った。

 こよりも中々命中精度の良い結果を残した。

「どうですか?悪くありませんよね」

「ま、確かにな」

 ここまで2人に見せられたんだ。少し披露するか。

 俺はエマを呼んで、M4A1を出してもらい、店主からマガジンを借りて、的の距離を100まで引き離した。

 いつも使っているスコープを外し、アイアンサイトで的を狙う。

「ねぇ、エマ。どうやって銃を出したの?」

「エマは四次元ポケット持ちだ」

 ポケットではないけど、空間は持っているな。

 こよりは驚いていたが、ラミアンは面白そうに笑っていた。

 俺もバーストで撃ったが、長く射撃して的を撃ち抜いた。

 的を自動で引き寄せると、まずまずといった結果だった。

「ほう。的確に急所を撃ち抜いてる」

「凄い。よく金属照準器で当てられますね」

「こういうのは慣れだ。それか練習あるのみ」

 スコープを取り付け、マガジンを落とし、弾が残っていない事を確認してエマにしまわせた。

「面白いものをみせてくれるじゃないか。どうだ?私と勝負してみないか?」

 店主から拳銃を受け取ると、射撃台の前に立った。

 使っている拳銃はデトニクス・コンバットマスターだった。

 本家のガバメントとの互換性のある45口径自動拳銃だ。

「リロード勝負だ。銃に1発だけ装填し、撃ったら早くマガジンを装填して1発撃つ。この動作が速い奴が勝ちだ」

「面白そうだが、それは響子の得意分野だ。響子、やれるか?」

「任せて」

 エマにP30Lをもらい、薬室に弾を込めるとマガジンを抜いた。

 ラミアンと響子は射撃台にマガジンを置く。

「使い込まれてるな」

「あなたのデトニクスも」

 互いに言葉を交わし、こよりの合図でほぼ同時に的に弾を撃ち込む。

 スライドが下がり、2人は素早く台のマガジンを装填する。

 そして2人がもう一度発砲。

 結果、僅かに響子が速かった。

「強気な割には大した事ないわね」

「……言ったな。もう一度だ。次は勝つ」

 ラミアンは負けず嫌いなのか、余裕の響子にもう一度勝負をもちかけた。

 響子は快く返事し、もう一度リロード勝負をした。

 何度もやっていたので、俺はこよりと話す事にした。

「体操やってたんだよな。どうして戦闘員に?」

「……シンさんに恩を返す為です。私は両親に虐待を受けていて、体操に才能があると分かると、有無を言わせず体操を続けさせました。その結果、私は見事に壊れました」

 こよりも両親から虐待を。しかも俺より期間が長いから、苦労が計り知れない。

「借金もしていて、気づいたら当時はまだ若衆だったシンさんが取り立てに来ました。シンさんを見るや、真っ先に私を売りました。女だから稼げると思ったのでしょうね」

 酷いな。優子と同じく両親に売られたか。

「シンさんは、私だけ救いがあったのか、私を貰って、両親を地下労働行きにしました。それからシンさんに色々させてもらって、多大な恩を貰いました」

「だから恩を返す為に戦闘員に。体操での柔軟な動きを活かして、シンの頼れる仲間になったのか」

「はい。ところで、ゼロさん。響子さんとはどのような関係ですか?」

「……複雑だ。仲間として、女として気に入っている」

「恋人ではないと?」

 それはどうだろう。あの日からどんな関係になったのか分からない。

「だけど、これだけは言える。俺は響子が好きだ」

「……っ!」

 響子が盛大に外した。

「嘘だろお前……分かりやす」

「うるさい!」

 響子にうるさいと言われ、若干傷ついた。

 何とか落ち着かせると、ラミアンが嬉しそうに響子と話していた。

「お前、面白いな!良いライバルになれそうだ」

「そう?あなたも中々上手いわよ。たくさん訓練したみたいね!」

 2人が射撃勝負で仲良くなってる。

 その事に俺達は苦笑すると、エマがM500を出して、ラミアンと響子以外の的の中央を撃ち抜いた。

 大口径のリボルバーの銃声が大きくて、思わず皆エマに顔を向けた。

「…………(プクー)」

 頬を膨らませているのを見ると、2人に加わりたいようだな。

「なあ、あの子は何でM500を片手で撃てるんだ?」

「力がゴリラ以上にあるから……ごめん!謝るから向けないで!」

 エマが不満げに響子にM500を向けた。

 今、M500は弾切れだが、それでも銃口を向けられて響子は急いで謝った。

「ハハッ。本当に俺の妹か?」

「え?妹さんなんですか?」

「ま、生き別れの妹だな。似ていなくてびっくりだろ?」

「はい……」

「でも、アイツの繋がりはそこらの兄妹より深い。腹割って話したからな」

 エマも俺達と出会って変わった。これからもエマには新しい世界を見てほしい。


「凄い!あなたの人工知能、多機能過ぎるよ!」

「そうか?」

 事務所の1階で、由美は自分はアンドロイドだと教えてくれたクレアのAIをパソコンで見ていた。

 クレアの思考ルーチンが異次元過ぎて、由美が興奮気味に調べていたのだ。

 クレアはそんな由美に対してただ反応するだけ。

「……ふむ。ここはそんなプログラムで良いのか?元々クレアの素体はスペックが高いから、単純なプログラムで事足りるのかも」

 ブツブツとパソコンに向かって呟く由美。

 クレアはふと名案を思い付いて、由美に頼んでみた。

「なあ、私を造った身元を割り出せるか?」

「ちょっと待って…………え。削除されてる」

 由美はクレアの頼みで調べたが、肝心な所は意図的に削除されている事が分かった。

「どうして……普通企業が開発したアンドロイドは製造場所、製品番号、開発者などの項目を示さないといけないのに。不正に造ったから?でも、それなら……こんな正規品より高スペックなアンドロイドをわざわざ造った理由は……?」

「…………」

 また自分で推察してしまい、クレアに謝る。

 しかし、クレアは由美の思考を読み取っていた。

「由美の脳波……凄い考えてる。私の事で、こんなに脳が働くなんて」

「私の脳波が分かるの?」

「見ていたら、脳波を通して感情を読み取れた」

 クレアの目を近くまで見て、人工眼球である事が発覚した。

 よくできた目玉だが、明らかに人工的な手が加えられた形跡がある。

「面白い……まさか間近で高性能なアンドロイドに会えるなんて……」

 ワクワクしてクレアを調べる由美だったが、不意に学校の事を思い出した。

「良いなぁ。学校辞めて、あなたと一緒にいたいな」

「学校は楽しくないのか?」

「まあね。ずっと1人だから、今はこの会社に入って1人じゃなくなったけどね」

 由美はまだ高校に通っているが、今までずっと1人で過ごしてきた。

 一度は友達を作りたいと思ったが、もう高校3年生なので諦めた。

「正直、これからどうするのか分からない。まだ将来が決まってないの」

「…………」

「ごめんね。愚痴っちゃって」

「……相談したか?」

「え?いや、人にあまり言えなくて……」

「決まっていないなら、決まるまでこの警備会社で働け。いつか自分のなりたい事が決まる。絶対だぞ」

 クレアの言葉に由美はただ呆然としていた。

 アドバイスされたのが仲間以外で初めてだからだ。

「私はお前の意思を尊重する。人間の意思は最終的には自身で確立しないとダメだ。もし本当に困ったら、仲間を頼れ。力になるぞ」

「……誰を参考にしたの?」

「ゼロだが、この判断は自分で下した。自分の意思でお前に言ったんだ」

 クレアの判断した答えに由美はクレアに嫉妬した。

 人工知能で人間味のある答えを出したクレアに、何だか負けた気がした。

 だから、もう少し将来について考える事にした。

「ありがと、将来について、もう少しだけ頑張ってみる」

「ああ。また誰かの役に立てて光栄だ」

 由美の悩みを解決したクレアは、年相応の笑顔を見せた。


「よう。お前だけ戻ったか」

 事務所に戻ると、シンが待っていた。

 響子とエマはラミアン達と射撃勝負している。

 俺だけ一度事務所に戻ったら、シンが俺に声をかけた。

「丁度良い。夜、一緒に来てくれ。"夜の女王"に会う」

 何だその名前は?

 だけど、そいつが情報を持っていそうだな。

「詳しくは後で話すが、その夜の女王がお前を指名で会いたいらしい。俺が仲介人として同行する」

「分かった。ちなみに、武器持ち込んでもオッケーな所?」

「……銃以外なら」

 ちぇ。流石に警備が固い所か。とりあえずナイフは忍ばせるか。

「なあ。ソイツは信用できるのか?」

「ああ。何せ京都で長生きしているお方だ。全てを見通せている」

 どれだけお婆さんなんだ、その女王。

 シンが余程信頼してるなら、結構格の高い奴なんだろう。

 俺は出掛ける前に、クレアを由美に任せた。

「頼むぞ。しばらく戻らないみたいだ」

「分かった。気を付けろよ」

 クレアと腕を合わせ、互いの幸運を祈った。

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