第128話 京都観光
翌日、浜松にある高速道路のサービスエリアで俺達は朝食を食べていた。
あの後、キャンピングカーに乗り込んですぐに御殿場を出た。
警察と黒幕の追跡を警戒しての行動だったが、奴らは事態の収拾に追われていたから俺達を追跡しなかった。
敵の追手が来ない事で安心した俺達は転々とサービスエリアで仮眠を取ったり、わざとサービスエリアに留まって敵を確実に振り切った。
ニュースでは、金野の死は大まかに偽装されていたが、死んだ事については偽りなく公表していた。
そこからの政府の対応は早く、金野の悪事を暴き、関係者を片っ端から逮捕して、御殿場を取り戻した。
しかし、私兵部隊の事はどの番組でも報じていない。
どうやら紅蓮姉妹と私兵部隊は政府にとってタブー扱い、隠蔽してなかった事にされてる。
ま、御殿場が実質金野の支配下、政府は最近まで放置していた事を国民が知ったら、信用に関わるからな。
朝食を食べ終わると、クレアが皆に報告する事があると言った。
昨晩に金野のパソコンを解析していたクレアが重要な情報を手に入れたらしい。
「金野は最近、誰かと頻繁に連絡を取っていた。相手は分からなかったけど、発信履歴で沖縄から連絡していた事が分かった」
沖縄からわざわざ金野に誰か電話していたのか?一体誰が?
それから、クレアは金野のネットにある金庫から大金を回収したらしい。あの短時間でよくそこまでできたな。
その額は五億。俺達はそんな額の大きさに驚いたが、これでも数割らしい。
「五億って……ローンを幾つか返せるわよ」
母さん、思ったより現実的な使い道だな。
「ねぇ、そのお金は今ゼロの口座の中?」
「ああ、私の方で洗っておいたから怪しまれないぞ」
俺の口座に五億……今までの依頼でもそんな大金を得た事はない。
流石銀行の頭取だ。金は本当にいっぱいあったんだ。
金を手に入れ、目的地もはっきりした。
後は沖縄に向かうだけだが、浜松から御殿場まで結構な距離がある。
それに両親が交代しながら運転しても、精神的にキツいのは目に見える。
どこかでフェリーに乗れれば良いが、ここで問題が発生した。
テロ対策の一環で沖縄に通じるルートがほとんど潰されていた。
これに関しては皆も疑問に思った。
沖縄以外の都道府県は問題なく行けるのに、どうして沖縄だけシャットアウトしているのか?
テロ対策とはいえ、1つの県を封鎖するなんておかし過ぎる。
これらの事から、沖縄に何かがある事が確実になった。
だが、沖縄に行ける手段が幾ら調べても分からない。
「うーん。どうする?」
「……だったら、分かるまで観光しようぜ」
そう言ったのは父さんだ。
「皆疲れてるだろ?だったらリフレッシュに京都に行こうぜ。清香と行ってみたかった場所なんだよな」
「……変に考えるより、遠回りして頭を冷やし、それから皆で考える。そう言いたいのか?」
「ああ。それに、まだお前と響子、傷が痛むだろ?」
……変な所で勘が鋭いな父さん。
傷は零の能力で修復したが、痛みはまだ残っている。
父さんは俺と響子の身を案じて、この提案を伝えたのだ。
「いいわね。京都はたくさんの観光スポットがあるし、久しぶりに行ってみたいわね」
刑事時代、事件の捜査で京都に行った事がある母さんは今回は観光で行ってみたいそうだ。
「お兄ちゃん、修学旅行以来だね。今度は兄妹で歩いてみようよ」
「……周りのお嬢さん方を説得してくれよ」
俺と零は中学の時の修学旅行で京都に行った。
その時は班の皆と京都を回ったが、今回は零は俺と行きたいらしい。
2人で回りたいなら、仲間達を説得してからにしてくれ。俺がやると争いが起きる。
「他の皆は?」
「別に行く所もないし、賛成よ」
「問題ありません」
「……!」
満場一致。決まったな父さん。
「よし、じゃあ京都まで突っ走るぞ。途中休憩で何個かサービスエリアに寄る。今の内に京都について予習しとけよ」
こうして、皆で京都へ行く事が決定した。
仕事ではなく、観光で京都か。いずれ仕事に戻るだろうが、それまではリフレッシュだな。
京都は歴史的に有名な場所が多い県だ。
794年、当時の首都平安京を基礎とする都市で、1080まで皇室や公家が集まっていたから、千年の都と呼ばれていた。
歴史的文化財や祭りなど、国内外の観光客を集める観光都市、国際観光文化都市法に基づき、国際観光文化都市に指定されている。
また京都大学などの学校も多い事から、学園都市とも呼ばれている。
文化も有名だが、工業都市としても名が高い。
先端技術を持つ企業や、日本でもトップクラスの大企業の本社集まり、日本の産業を支えている。
そんな京都へと午前中に着いた俺達は、先に腹ごしらえを済ませた。
京料理は野菜や大豆、乾物などの質素な食材が多かったが、中々美味だった。
アンドロイドで人間の器官を持ったクレアは興味深い味だと評した。
その後は観光地巡りをした。
金閣寺をまた生で見ると、エマが金閣寺を撮った。どうやら初めて金閣寺を見て印象に残ったらしい。
銀閣寺に行くと、優子が何故銀閣寺は金閣寺みたいに銀箔を貼らないのか疑問に思っていた。
当然の質問だが、優子にはまだ和の美しさが分からないみたいだ。
和の事を説明しようとも思ったが、これはこれで良いと優子が嬉しそうに言ったので止めた。
建仁寺には方丈の石庭という有名スポットがある。
石だけで川を表現したもので、俺が中学の時に桜とここに来た事がある。
桜から風神雷神図という国宝があると言われ、それを見たら早口で説明した時はちょっと驚いた。
桜は博識で、しかも楽しく知識を増やすから少し羨ましく思った。
色々観光地を回り、本日最後に向かったのは日本人なら知らぬ者はいない清水寺だ。
法相宗系の寺院で、京都には数少ない平安京以前からある建物。
古都京都の文化財としてユネスコ世界遺産に認定されている。
皆と本堂から見える京都の景色を見て感嘆の声を上げた。
昼でも綺麗な町が青空と太陽とマッチングしていて、俺達の他にも写真を撮る者が大勢。
でも、この本堂では恥ずかしい思い出がある。
それを父さんが皆にバラした。
「この景色を背景にな、ゼロが当時の彼女の桜に痛々しいセリフを言ったんだよ。何だっけ、『綺麗だな』って桜に向かって言ったり、『また来ような』とか言ったか?」
「父さん!?」
父さんがベラベラと当時の俺と桜の恋愛話を語り、それを聞いた女性陣がニヤニヤとした顔を向けた。
最悪だ、マジで死にたい。
で、こんな俺に響子が私にもそれを言えと命令した。
そんな度胸はないと断ると、俺を下に突き落とそうとした。
「やめろ!死ぬ確率が低いからって本気で落とそうとするな!」
清水寺塔頭、成就院に残っている成就院日記には、「清水の舞台から飛び降りるつもりで」ということわざを言葉通りに実行した者達がいる。
病気の治療などの願望を飛び降りを通して観音様に願いを叶わせるという熱い信仰心で、未遂も含めて200件以上も起こした。
今は飛び降り対策用の柵やネットがあるが、だからといって落ちる気はない。
「あの時の責任取ってよ!」
「それを言われると強気に出れねぇ!」
今でもあの夜の出来事を思い出し、羞恥心と後悔が混ざる。
しかもそれを優子に見られ、軽くヤンデレ紛いな事を言った。
仲間の複雑な関係で苦労する中、両親は若さって良いねぇと面白がって笑う始末。
ううっ……本当に俺は女に弱いな。
「ふぅー……」
観光地を巡り回り、夜に京都の宿に着いた。
その宿は和室が良くて、外からの風景も最高。
今は夕食を食べ、父さんと温泉に浸かっている。
「ジャパンのホットスプリングは良いなぁ……。リラックスできる」
「そうだな。俺は二度目の温泉だが、ここも悪くない」
父さんも気に入ったようで何よりだ。
「お前、響子とはどこまでいったんだ?」
「その質問は止めてくれ。掘り返すな」
「何だと?一回寝てそれで終わりか?彼女の言う通り、責任を取れ」
……そう言われてもな。今更どんな顔をして響子と話せばいいんだ?
「実は清香との結婚はスムーズじゃなかった。何度も喧嘩した。張り倒されたりもした」
張り倒されたの?父さんが。
「ても、ちゃんと向き合って。互いに愛してると分かり合い、結婚した。そして、零が産まれ、お前と会った。だから、ゼロ。男になれ」
急にシリアスな顔でまともな事言いやがって。
でも、父さんに言われて目が覚めた。
俺は響子とそれ以上の関係になるのが怖かったんだ。
だから、無意識に女関係を一定の距離にしたんだ。
「……分かったよ。ただ、それは片付いてからにしてくれ」
「おお。良い結果を期待してるぞ」
父さんは俺の返事に満足し、後から入ってきた爺さんと話した。
相変わらずのコミュ力の高さにため息をつく。
のぼせそうだったから俺は先に出た。
更衣室に向かおうとした時、壁から微かに声が聞こえた。
この壁の先は女湯……ダメだ。出よう。
そう思ったが、妙に気になってしまい、盗み聞きしてしまった。
『響子さん。ゼロさんと一線を越えましたから、そろそろ彼と付き合って下さい。じゃないと、私が彼を獲ります』
『ちょ!まだアイツとはそんな関係になるのは……』
『ええ?お兄ちゃんと響子ちゃん、お似合いだと思うけどなー』
『ええ!?』
『私はゼロと響子の関係を知らないが、付き合っても問題ないと思うぞ。ゼロは優しいからな』
『クレアまで……ってどさくさに紛れてエマも応援しないでよ』
『明日は調査に入ると思いますので、その時に勇気を持って迫ってみて下さい』
『……まだアイツが私の事、意識してるって決まった訳じゃない。絶対あの事後悔してる』
『もう!響子ちゃんは素直じゃないなー!ほれ!私がサポートしてあげる!』
『ちょっと!どこ触って……ヒャン!』
『おお、新しい遊びか?付き合うぞ』
『皆……やめて……死ぬから……っん!』
…………。
そっと温泉から出た。
更衣室で着替えた後、邪念を払う為に自分の手で頬を叩いた。
ロビーで牛乳を買い、それを静かに飲む。
結局、盗み聞きした女子達の会話を思い出し、吹き出しそうになった。
後から女性陣や父さんが出てきたが、
「…………」
「…………」
俺と響子は互いに目を合わせられなかった。
クレアは俺の気持ちを知ってか、顔が赤い事を知らせた。
クレアの知らせに皆が笑いを堪え、俺と響子は更に顔を合わせられなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます