第122話 裏組織への奇襲
その日の夜、紅蓮姉妹に会った事を皆に伝えた。
響子達はこれといった成果がなかったので、そっちで収穫があって良かったと言った。
零は学校帰りの生徒に金野の事について聞いたら黙秘されて逃げられたと報告した。生徒にも金野の手が及んでいるのか。
「で、響子。紅蓮優依はどんな奴なんだ?」
「妹は軍事経験のある人間を部隊として動かしている。いわば金野の私兵、半グレの兵隊ね。どんな国籍でも経歴でも問わないから、強者揃いになった」
「歳は?」
「17よ。しかも、彼女も軍事訓練を受けてる。アジトで仲間達とリアルな戦闘訓練を行っているそうよ」
あの優依が戦闘員ね、想像がつかん。
「紅蓮姉妹は金野に買われた"商品"よ」
人身売買か。
聞けば金持ちオンリーの人間オークションというのが秘密裏に開催されているらしい。
紅蓮姉妹はそのオークションで金野に買われた。
以来金野の用心棒として育てられ、姉は半グレ組織のリーダー、妹は私兵部隊の隊長となった。
男達がファミレスで隊長と言っていたから、優依の周りにいた男達も私兵だろう。
「普段は表に出ない姉妹。今日姿を現したって事は……」
「金野からの指示を受けているな。何を考えているのかは分からないが……」
「そういえば、金野の方はどうでした?」
響子が父さんに目を向ける。
「片手間で調べたが、表の顔は優れた頭取だ。実績もあるし、グループの規模も大きい」
父さんがどこからか仕入れてきた盗聴器も今のところ反応はない。
銀行や半グレ、金野に関わる人間が使っている通信は盗聴器で傍受できる。
「あなた達……明日はこの家に居なさい……。顔バレしているから、奴ら探しに動いてるよ……」
「分かったから、さっさと二日酔い治して」
「うう……飲み過ぎた……」
母さんはまだ二日酔いでダウン中だ。
明日になってもこのままとかないよな?流石に困る。
次の日、母さんの言い付け通りに家で待機した。
一応優依からのメールを見たが、挨拶しか来ていない。
この時間を利用して仲間達とトランプで遊ぶ。
クレアのせいで皆負け続きだ。予測がほとんど当たってるんだ。
クレアは申し訳ないと謝るが、一緒に遊べて嬉しいと伝える。
仲間達も同じ思いだった。
しばらくトランプやゲームで遊んでいると、盗聴器が起動して傍受した通信を流した。
『おい、例の仕入れは?』
『あと半分です。集まったら会場に送ります』
『急げよ。金持ちやお偉方はロリコンだ。絶対に良い商品を用意しろよ』
通信が終わったのか、盗聴器が停止した。
「今のは……」
「男の方は分からないが、もう1人の女の声は里美だ。今の話は……人攫いの話か?」
「多分そうです。最後の言葉はそれを裏付けると思います。これから子供を売るつもりでしょう」
そんな外道な真似させるか。
俺は盗聴器に接続されているタブレットを操作して、今の通信の場所を特定する。
短い上にすぐに切ったから中途半端だったが、裏山の古びた木材置き場だと分かった。
「ここか。車ならそう遠くないな」
「すぐに行きましょ。準備するわ」
「待ちな」
現場に向かおうとする俺達を父さんが止めた。
「俺も行くぜ。ただ、クレアとエマは残れ。家を見張れ。零にもやらせる」
「それだとかなり少ないぞ」
「金野はコネが多い。いつここがバレてもおかしくない。それに、アイツはまだダウン中だ」
「ゼロのお母さんの事ですか?」
「ああ。それに、特殊作戦なら俺の方が慣れてる。何がなんでも俺は行くぞ」
父さんから凄まじい気迫を感じる。断る理由はない。
「分かったよ。父さんが来るなら心強い」
「そうこなくっちゃな!エマ、俺の武器を見繕ってくれ」
父さんが出るなら、今回は父さんに任せてもいいだろう。
もう何年もブランクがあるが、各地で特殊活動を行ったスペシャリストだ。不足はない。
現場に向かうメンバーは戦闘準備の為に着替えに向かった。
家の守りは任せたぞ、エマ、零。
真夜中、現場から2キロ離れた山道に車を停め、そこから目標地点まで徒歩で進む。
暗視装置で暗闇でも見えるとはいえ、この森は木々が多くて待ち伏せ場所が多い。
でこぼこな地面で歩くのに苦労する。
俺達は銃にサプレッサーを着け、なるべく銃声で敵にバレないようにしている。
父さんはHK416A5アサルトライフル、優子はM240B軽機関銃を持ってきている。
俺と響子はいつも通りのM4A1とAR-15だ。
『そのまま進めば着くぞ』
無線機からクレアの声が流れる。
後方支援としてクレアと母さんがオペレーターを務める。
とはいえドローンを飛ばせないから、俺達のヘッドカメラでモニターするしかない。
しばらく進むと、父さんが手を挙げ、俺達は止まって待機する。
「どうした?」
「足跡を見つけた。軍用のブーツだ」
「俺達以外に潜入している連中が?」
「かもな。とにかく進むぞ」
第三者に警戒しながら先へと進む。
周囲から虫の鳴き声が響き、羽虫がウザい程顔の周りに飛び回り、手で払う。
山の戦闘は久しぶりで、響子も優子も慣れていない。
しかし、父さんはスイスイとでこぼこな地面を歩いている。
父さんの方がもっと久しい筈なのに、この差は何だろう。
ガサッ。
前から何かが通る音がして、俺達は銃を向ける。
暗視装置で皆が音がした方にレーザーを向けている。
「誰だ?出て来い」
父さんが息を潜めて隠れている何者かに言う。
反応はない。しかし、気配は感じる。
「安心しろ。敵じゃない。お前達と同じ仕事人だ」
父さんが銃を下げ、俺達も続けて銃を下げる。
そうすると姿を現してくれた。
自衛隊の迷彩服に制式装備、20式小銃にミニミ。
顔は目出し帽で隠し、目元しか素顔が見えない。
彼らは6人、全員男だった。
「民間人が何故武装を?」
「何故って?男なら誰しも銃を持ちたいだろ。ま、俺は使い慣れてるが。お前ら、もしかして特戦群か?」
特戦群、陸上自衛隊唯一の特殊部隊特殊作戦群の略称だ。
見た目も噂通りの装備、本当に特殊作戦群の分隊のようだ。
「そっちは?出方次第では拘束するぞ」
「待てよ。狙いは金野だろ?」
図星なのか、急に黙った。
「目的は同じなんだ。協力しようぜ。俺以外はお前らみたいな作戦を経験している」
「…………」
「上に掛け合えよ。待っててやるから」
分隊の隊長であろう男は渋々無線で司令部と相談した。
何度か揉めてたが、1分後に返事が来た。
「上がお前達の事を不問にすると。協力を許可すると」
「助かるぜ。潰し合いは御免だ」
「我々は日本政府から与えられた特殊任務を遂行している。詳しくは話せないが、狙いはそっちと同じだ」
「政府としても御殿場の惨状を看過できないのね」
「だから極秘に俺達を派遣した。基地が近いんでね」
「奴らがいる場所は木材置き場だ。そこまで案内する」
「助かる」
父さんが先導して進み、それから俺達と特殊作戦群の部隊が後を追った。
思いがけない遭遇だが、日本政府の依頼も受けていたから撃たれずに済んだ。
自衛隊は手出ししないと思ったが、どうやら極秘裏なら可能らしい。
部隊はハンドサインで連携し、互いにカバーし合っている。
そんな彼らを見ながら進むと、奥の坂から光が見えた。
左右に展開し、上に登ると木材置き場を一望できた。
発電機で明かりを点けて、木材置き場が明るい。
その木材置き場にはAKで武装した半グレが大勢いた。
中央にBMWを3台停めていて、車の近くにも半グレがいる。
『ビンゴだ。ここで子供達を監禁している』
『……特殊作戦群は知らなかったみたい』
てっきり把握していると思ったが、まあいい。
俺は双眼鏡で木材置き場を監視する。
100メートル先の2つの建物。それぞれ10人ぐらいは詰め込める大きさだ。
「建物に子供がいるかも」
『調べたいが、敵が多い。様子を見よう』
確かにあの半グレの多さは厄介だ。どうしようか。
半グレ達を見ていると、建物から里美と2人の半グレが出て来た。
「里美だ」
里美は携帯でどこかに指示を飛ばしている。
それが終わると脇のホルスターからピンクと水色のUSPコンパクトを出した。
『カラフルな銃ね。そこに女子力詰め込むの?』
「ま、年相応だな」
『左から車両2台』
優子の無線を聞き、確認すると木材置き場に車が2台停まった。
中から重装備の私兵達と優依が降りて、私兵がどこからか誘拐した少女を連れて建物に入った。
「優依だ」
『中々良い装備してるわね』
優依はボディーアーマーにパット、腕にプロテクターを着けている。
手にしているのはアタッチメントを色々着けたXM8アサルトライフル。タイプはカービン。
ドットサイトにライト、レーザー、マズルブレーキと部下と同じく多くアタッチメントを着けてる。
腰に拳銃とポーチ、ナイフ。
「よくXM8を軽々持てるな」
『華奢な腕だけど、案外腕力あるかも』
恐ろしい姉妹だ。そんな姉妹が半グレ、私兵を率いているとは。
携帯型の集音マイクを確認すると、問題なく使えそうだった。
「お、ここからなら通信を拾えそうだ」
俺は無線機にマイクを繋げ、皆に声が聞こえるようにした。
無線から、姉妹の声が流れる。
『……これで全員?』
『うん。ノルマは達成。後は運ぶだけだけど、まだトラックは来てない。あと十分はかかるって』
『そう。なら待つわ』
『それにしても、何で護衛が多いの?』
『例のターゲットが見つかったの。私も会ったわ』
『へぇ!私も会ってみたい』
『すぐに会えるわ』
あれ?優依は俺の事知らないのか?一度会っているが。
もしかしたら優依には情報が伝わっていないかもしれない。
『私は頭取と話す。優依は休んでて』
『はーい!』
優依は元気よく返事すると、車の中に消えていった。
姉の里美は建物の中に入った。
「どうする。先に子供達の保護だ」
『まずは半グレ共を片付けよう。明かりを撃ち抜いて……』
『どうしたの?』
『特戦群の部隊はどこに行った?』
そういえば見かけないぞ。いつの間にどこかに移動したのか?
双眼鏡で探していると、右手の草むらの陰に特殊作戦群の部隊を確認した。
よく見ると、ハンドサインを送っている。
(ライトを破壊しろ……?勝手に行動して、更に命令するのか)
確かに政府の命令を受けているあいつらは俺達と違う。
俺達が敵だと疑うのも無理はない。
だが、だからって自分達で解決しようと急ぐのはよくない。
『仕方ない。奴らを援護しよう。ただし、最小限だ。姉妹の実力を確かめる良い機会だ』
『了解、レーザーで撃つライトを示す』
レーザーを利用して各々が撃つライトを伝える。
3カウントで合図し、素早く全てのライトを撃ち抜いた。
暗闇になり、半グレ達は慌てている。突然の奇襲で混乱していた。
「半グレを始末しろ。なるべく全員だ」
セミオートでライフルを撃ち、照準に定まった半グレを手当たり次第撃ち殺す。
あまり動かない人間など、始末するのに時間はかからない。
他の皆も狙撃して、半グレの数を減らしている。
数がどんどん減っているのを感じていると、急に半グレ同士で撃ち合った。
パニックになって誰か味方を殺したな。それに伴って周りの半グレが敵が来たと勘違いして味方を殺してる。
「潰し合うのもいいが、こっちの事を忘れるな」
俺は冷酷に引き金を引き、同士討ちしている半グレの頭を撃ち抜く。
それらの半グレを倒した頃には見える限りの敵はいなかった。ほとんど排除したようだ。
それに乗じて部隊が草むらから出て、真っ直ぐ建物に向かう。
もうすぐ建物に着くと思ったその時、部隊の足元から地面が隆起して隊員が上に飛んだ。
『何!?』
それと同時に車から優依達が現れ、落ちてくる隊員へ発砲した。
俺達が射撃したからすぐに止めたが、落ちた隊員の4人がピクリとも動かなかった。
私兵達は車から激しい銃撃を行った。
弾がこっちに飛んできて、木に隠れる。
『敵は暗視装置を着けてる。位置がバレてるわ!』
道理で当ててくる訳だ。車の中でタイミングを伺ってたな。
今の地面の隆起は恐らく里美の能力。建物からでも能力が使えるのか。
私兵と交戦し、銃弾の雨の中少しだけ体を出してセミオート射撃する。
私兵は銃撃されるとすぐに隠れられ、別の私兵がカバーして厄介だった。
優依がフルオートで発砲してきて、咄嗟に木に隠れる。木にバチバチと弾が撃ち込まれる。
顔を出して様子を見ると、建物から里美と半グレ、私兵が出て車に隠れた。
『里美達が外に出た!』
『クソ。攻撃が激しくて撃てねぇ』
私兵の精密射撃でこっちの攻撃がやりにくくなってる。
特に優依のフルオート射撃は厄介だ。どうやって反動に耐えてるんだ?
2つ目のマガジンを交換し、再び射撃すると、私兵の数が減っている事に気づいた。
1人が車に乗り込んでいるのを目撃してすぐに理解した。
「逃げる気だ。優子、車を撃て!」
優子のマシンガンの弾が車へと撃ち込まれる。しかし、どこに撃ち込んでも壊れる気配がない。
『防弾仕様です!タイヤも窓もそうです!』
『里美は車に乗り込んだ!残ってるのは優依と私兵数人!』
もう逃げられそうか。せめて、優依は止めるか。
俺は優依に向け射撃するが、反射的に避けられ、反撃された。
すぐに隠れ、顔を少し出すと数人の私兵が狙撃されて倒れた。父さんと響子がやってくれた。
後は優依だけだ。俺は優依に照準を向ける。
すると、車の上から私兵が現れた。しかも搭載された武器も一緒に。
『嘘だろ。ありゃミニガンか?』
『隠れて!』
ミニガンの銃撃で身動きが取れなくなり、俺は悪態をついた。
車が動き出し、ここから逃走しようとしている。
俺はM203を発射するが、避けられてしまい、車は遠くへと消えてった。
ミニガンの銃撃もそれに伴ってなくなった。
「クソ。逃げられた」
『とりあえず隊員の状態を確かめましょう』
逃げられて悔しいが、まだやるべき事が残ってる。
俺達は木材置き場に向かい、俺と優子で倒れている隊員を調べた。
動かない4人は頭と肺を撃ち抜かれて即死だった。残り2人は生きているが、背中を打ったのかとても痛がってる。
俺と優子は隊員を安全な場所に移す。その間に父さんと響子が建物に突入した。
『ガキ共を発見。全員無事だ』
『こっちも発見。怯えてるけど怪我はない』
良かった。子供達は無事だったか。
俺は安心し、近くで倒れている私兵の死体を見た。
私兵は軍事訓練を受けていて厄介だった。そんなのを優依というリーダーが束ねてる。
「奴らを逃がした。絶対に追っかけてやる」
「今は子供達の安全を確保しましょう。それから帰って休みましょう」
「……そうだな。おい、大丈夫か?」
俺は気持ちを切り替え、ようやく落ち着いた隊員の肩に手を置いた。
「あ、ああ。片付いたのか。他の皆は?」
「もう一人は生きているが、他は死んだ」
「そ、そんな……」
仲間の死を悔やんでいるが、それは後だぞ。
「今から応援を呼べ。子供達を見ていてくれ」
「お前達は?」
「俺らがここに留まるのは危ないから、今から撤退する。後から捕まえに来るなよ、いいな?」
「あ、ああ。分かった。だが、この事は司令部に報告する。これは必要だからな」
「構わない。子供達を頼んだ。家族の元に返してやれ」
俺は優子と隊員から離れると、建物から子供達を出した父さんと響子と合流する。
「さ、帰るか。後はお国に任せるとしよう」
「そうですね。またこの森を歩くのですか」
「車まで競争だ。お先に失礼」
俺は皆よりも先に走り出す。
「あ、待って!」
すぐに仲間達が追いかける。
走っている間、何事も考えなかったから気分が良かった。
これで悔しさも消える。次は必ず追い詰めてやる。
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