第119話 生還

「……んん?」

目を開けたら家の自室の天井が見えた。

何で家に……キラリの手下に気絶させられて……あ。

そこまで考えて思い出した。

キラリは何の目的かは知らないが俺を助け、恐らく家まで運んでくれたのだろう。

体を見たが傷はすっかり癒えていた。まだ痛みは残っているが。

体を起こし、周りを見回す。

そういえばこの部屋で寝るのも久しぶりだな。中学までこの部屋を使ってた。

内装は変わっていなかった。アニメのポスターの位置も変わっていない。テレビもゲームも位置は同じだ。

よく友達と遊んだな。死にそうになってから部屋を見ると感慨深い。

写真が貼ってあるボードには小学生の頃の写真、中学時代の俺と桜の写真、仲間達と撮った写真もあった。

よく良い感じの写真を部屋に貼ってたな。今思い出した。

「あ、俺のスマホ」

傍にスマホを見つけ、手に取って操作する。

すると、画面にクレアが現れた。2次元のクレアみたいな少女が俺を見つめている。

『目が覚めたな。おはよう』

「何で俺のスマホにお前が?」

『スマホに私のデータを入れたからな。子機としても使えるぞ』

もうクレアの機能について何も言うまい。

「皆は?」

『下にゼロの母親がいるぞ。他は出掛けてる。呼ぶか?』

「いや、大丈夫だ。少し休ませてくれ。てか、お前の本体は?」

『昨日探すのにかなりの電力を使ったから、今充電中だ。だから子機としてゼロのスマホで活動している』

そうか。それを聞いて安心した。

「あれから何日経った?」

『一日だが?』

「……約2日眠っていたのか。今が最高の目覚めだな」

『ゼロを届けてくれたのはキラリという少女だ。わざわざここまで運んでくれた。届けたらさっさと帰ったが、どこか嬉しそうだったぞ』

「俺が面白いらしいからな」

この言葉をクレアは理解できないだろう。あの倉庫で話したアイツの昔話は黙っておこう。

このまま寝ようと思ったが、一応家族と話したいと思うようになった。

「やっぱり母さんを呼んでくれ」

『了解。コールする』

スマホの画面からクレアがいなくなり、少し経つと部屋に母さんが入ってきた。

「ようやくお目覚め?心配したのよ、公安から拷問を受けたらしいわね」

「危うく死にかけた。それは?」

母さんが手にしているお盆に乗っている皿に目を向ける。

「うどんよ。食べれる?」

「ああ、2日ぶりの飯だ。美味しく食べるよ」

母さんが作ってくれたうどんを食べる。空腹の俺には何よりも美味いと感じる。

勢いよく食べる俺を見て母さんは安心していた。

「公安から母さん達がマークされてると聞いた。今は大丈夫なのか?」

「ええ。その公安だけど、絶賛活動休止中よ。監察が公安を調査しているわ。その間、公安は一切の活動ができないわ。マトワリも消えて、せいせいしてるよ」

「そうか……キラリがやってくれたのか……」

多分だが、キラリは俺を助ける為に動いてくれた。

公安を動けなくしたのもその一環だろう。

「まだ痛む?」

母さんが心配そうに俺の腕を触る。

安心させないと母さんが病院へ運びそうだ。

「大丈夫だ。動けるさ。よっと」

俺はベットから立ち上がるが、膝に痛みが走り、床に転んだ。

「ちょっと!まだダメじゃない」

母さんが俺の肩を支えてくれた。

「あの刑事め。寝ている間にボコしやがって」

「もうちょっと寝てなさい。後で皆を呼ぶから」

母さんが俺をベットに戻すと、お盆を持って部屋を後にする。

「後で飲み物くれ」

「分かったわ」

出る前に母さんに頼むと、返事をして母さんは下に向かった。

膝の痛みを調べると、歩ける程度には動かせるが痛みが激しかった。

腕も同じだった。骨にヒビが入ってないといいが。


数時間後、夕方になると皆が俺が起きた事を聞いて、部屋にやって来た。

響子からはビンタされた後に抱き締められた。何この飴と鞭。

優子とエマは俺に触れて安堵していた。

クレアは一度話しているからそんなに表情は変わっていなかった。

零も部屋に来ていて、涙を流して俺が生きている事に喜んでた。

皆からどれだけ心配されていたのかが理解できる。

「キラリから事情は聞いたわ。生きてて良かったけど、まだ終わりじゃないわ。黒幕に繋がる手掛かりが御殿場にいるのね」

「刑事の話だとそうだ。どうも公安も詳しくは知らないらしいが、黒幕と繋がっているのは間違いない。痛みが引いたら調べに行こう」

「どうやって行くのですか?」

「そりゃ、交通機関で」

「…………」

エマが残念そうな目で俺を見た。え?急にどうした?

「無理よ。公安が引いたとはいえ、テロ対策期間で警官が多く配置されてる。それにバスも人目につくから止めた方がいい」

そうか。まだ諦めてなかったか。

「どの警官が黒幕と繋がっているか分かりません。それにゼロさん、あなたはまだ非公式ですが指名手配中です。まだ警察に見つかるのは危険です」

「それに、まだ万全じゃないでしょ。時間はあるから、治している間に準備しよ、ね?」

仲間に宥められるとは、焦りすぎたか。

確かにまだ万全じゃない。ゆっくり休んで治す事にしよう。

「…………」

「母さん?」

母さんが難しそうな表情で何か考えていた。

聞いてみるが、はぐらかされて何を考えていたのか分からなかった。

「お兄ちゃん、今日はお休み。夕飯は私が食べさせてあげる」

「別に、そんな事しなくてもいいんだ、痛っ!!」

優子に腕を捻られ、激痛で断れなくなった。

「ダメですよ。今日はしっかり休んで下さい」

「しかしな……」

「……ぁ?」

「いや、ちゃんと休むから」

一瞬優子が素の鋭い目つきになり、俺は即従った。

どうやら仲間達と零で俺を交代で看病する計画を立ててたらしい。

寝ている間にそんな事考えるなよ。

「じゃ、私はちょっと出掛けるから。淑女の皆、息子をよろしくね」

『はーい!』

元気良いなお前ら。まあ仲間の笑顔を見れて良いが。

それにしても母さん、何か様子がおかしいな。

考えている様子だったし、気になるな。


「あなた、ゼロが起きたわ」

『そうか。ま、あの息子はタフだからな。信じてたぜ』

「そうね。ねぇ、私決めたよ」

『何をだ?』

「息子を痛め付けた連中を潰すって」

『……理由は?』

「1つは警察が誰かの言いなりになってる事に怒りが湧いた。もう1つは、息子が傷だらけになっても頑張ってるからよ。覚えてる?昔、あの子は不良と喧嘩して、ボロボロになって帰ってきたよね」

『ああ。今でも覚えてるよ。後から俺らで不良を懲らしめたよな』

「その時、ゼロは友達を守る為にやったって話してくれたわ。今回もクレアの為に体を張ってる。今では私達は干渉しないと決めてたけど、話を聞いてたら、ね?」

『お前のやる気スイッチが入ったか。お前がやるなら俺も手貸すぜ。愛する息子とお前の為だぞ』

「フッ、ありがとうね。さて、明日から動くわよ」

『分かった。必要な物を言ってくれ。最短で用意させる』

「ありがとう。まずは…………」


静岡県御殿場市のとある銀行

「ふん。警察は役立だずだ。しくじってるじゃないか」

『申し訳ございません!』

「今後は対応を改めないとな。俺は失敗が大嫌いだ。もういい、こっちで対応する」

『じゃあ我々は……』

「役立だずに金を与える暇はない。もう連絡すんな」

男は電話を有無を言わせずに切ると、部下に指示を出した。

「とりあえず様子を見るぞ。監視の人員を回せ」

「かしこまりました、頭取」

部下は頭取に丁寧に頭を下げ、部屋から去った。

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