第118話 公安の尋問

痛い。身体中が痛い。

爆発でやられたのか分からないが、身体中から激痛が走る。

その痛みで目が覚めたが、そこはホテルではなかった。どこかの倉庫の中だった。

いつの間にかこんな場所に運ばれたのか?仲間ならこの場所には運ばない。

という事は……。

俺はとある仮説を立て、自分の体を見た。

椅子に座り、手首は何かで拘束されていた。恐らく手錠だろう。感触からそう思った。

周りには誰もいないが、照明は点いたままだ。誰かがこの中にいた痕跡がある。

奥の扉を見ると、その扉が開いた。

外からスーツを着た男2人と、都市型迷彩の戦闘装備を身につけた戦闘員6人が入ってきた。

訳が分からないまま入ってきた男達を見つめる。

戦闘員はM4カービンライフルを手にしている。銃規制が厳しい日本で、よくゴテゴテにアクセサリーを着けたライフルを持っているな。

「目が覚めたか。ちょうど良いタイミングだ」

スーツの男が俺に近づくと、急に膝を蹴られた。

「ぐっ!」

「寝ている間に楽しませたが、まだまだイケるな」

身体中が痛いのはこの男に暴行を受けたからか。納得した。

「酷い姿だな。医者に見せないと危険だ」

「なら救急車を呼んでくれ。ま、呼べないだろうな。普通ならとっくに病院へ運んでいる筈だ」

「フフフ。頭がキレるな。我々が何者なのか把握できているだろう」

多分だけど、スーツの2人は刑事だ。貴島と似た雰囲気を持っている。

だけど、戦闘員は残念ながら素性が分からない。

「一応言っておくが、あれから丸一日経っている。事件は反日思想のテロリストが起こしたと処理した。隠蔽には少々手間取ったが、お前を秘密裏にここに運べた」

「流石だな。もう手は打っていたか。で、何で俺を警視庁に移送しなかった?逮捕もしないと考えると、俺から聞きたい事があるみたいだな」

「そうだ。だが、その前に質問だ。何故隊員を殺した?お前なら、すぐに気づいて逃げ出せただろう」

「仕方なかった。逃げても包囲した警官から逃れられないと考えて、戦うしかなかった。見つからず移動するのは難しかった」

俺が気づいた頃には警察は完全に包囲していた。

俺も褒めたい程逃げ道を塞ぎ、交戦しないと抜けられなかった。

まぁ、結果警察よりもヤバい奴に捕まったが。

「ふむ。やはり、公安から聞いた通りだ。捕まるくらいならリスクを負う。トラップを利用し、一階まで逃げ仰せた。裏の世界で名を轟かせているだけはある」

「別に、周りがどう思っていようが関係ない」

仕事しているだけだ。周りがどれだけ騒ごうが関係ない。

「公安って言ったな。あんたら公安の刑事か?」

「その通りだ。表では我々は存在しない事になっているがな」

なるほど。それなら警察署や警視庁に運べないな。

「君はある少女を保護し、自宅で生活させているな?」

「悪いが、ウチには居候の少女が多くて誰だか分からん。丁寧に、詳しく教えてくれ」

わざと挑発するような言葉を言うと、別の刑事にぶん殴られた。

「すまないが、言葉は慎重に選んでくれ」

「……今時暴力や脅しの尋問は禁止されてる筈だが、公安は許可されてるらしいな」

「話を逸らすな。その少女を我々に引き渡せ。そうすれば見逃してやる」

「え?何で?嫌だよ、可愛らしいアイツをお前らに渡すの。理由を教えてくれよ。な?」

もう一回ぶん殴られ、更に腹を蹴られた。

「……君は今の状況が分からないのか?ここは我々が所有する建物だ。偽装してあるから助けも来ない。ここなら殺しもできるんだぞ」

「……焦ってるな。誰かから圧力がかかってるのか?アイツを奪いたいなら家を襲撃すればいいのに、わざわざ俺に取引を持ちかける。その理由は、家にいる父さん達だろ?」

元デルタに元刑事、元殺し屋、最強種の能力者、戦闘経験が豊富なメンバーが多い。

公安はリスクを1つで負いたくないのだろう。人が減るのも、事を大きくするのも嫌だから俺を拷問して、引き渡すようにしているんだ。

「警察は正義に溢れ、潔白で自信に溢れてないといけない。普通の警察が無理でも、公安なら手を汚しても事を済ませる」

なら、公安を利用する黒幕は何としてでもクレアを手に入れたいようだ。

その理由は何なのか、聞いてみよう。

「アイツを狙う理由は?ただのアンドロイドじゃないのは知ってる。それでも公安が動く理由にはならない、誰かが手を回したな。誰の仕業だ?」

「あまり強気になるなよ。お前の命を握っているのは我々だ。少し威勢を弱らせてやる」

そう言うと、刑事2人が警棒を出した。

その警棒で強く俺を叩いた。手を拘束され、体がボロボロで抵抗できない。

殺す気はないのか、わざと殺さない程度で止めた。

「…………こんなに痛め付けられたの、生まれて初めてなんだけど……」

「まだ喋れるか。タフだな。だが、元カノが狙われたらどうだ?」

「……あ?」

「桜という高校生がいるな。その子は比較的守りが薄い。その子を捕らえ、引き渡せるよう虐めたら、考え方を改めるな?」

「……そういう事かよクソッタレ」

家族や仲間以外を攻めるつもりか。

桜や桃を誘拐して、俺にクレアを引き渡すよう2人を尋問するだろう。

例え2人をどうしてもだ。

「友人であれば、君も考えを変えるかな?」

「……やっぱりお前らクズだな。日本人の風上にも置けない」

「それは、正義を執行する我々に対するクレームかな?」

背後の戦闘員が俺の首を短時間絞め、俺は酸素不足で頭が働かなくなる。

そして、刑事がまた暴力を振るおうとした時、尋問していた刑事の携帯が鳴った。

すぐに刑事が電話に出る。その間、戦闘員から銃口を向けられる。

「もしもし。……はい、今行っています。……ええ。中々強情でして、我々に屈しません……。どうしますか?……はい、分かりました。終わりましたら撤収します。では」

電話を切ると、懐から小口径のリボルバーを出した。

「残念だったな。『先生』がお前を殺せと命令した」

「先生……?相手は政治家……か……」

公安が1人の政治家の言いなりになるとは。それだけ影響力が大きいのか?

刑事がリボルバーを俺のこめかみに突き付け、ハンマーを下げる。

俺を殺して、処分するつもりだ。

「心配ない。お前の親しい人間も、すぐに送ってやる」

「…………無理だ……お前らじゃ……アイツらを殺せない……」

そろそろ限界が来た。頭がボーっとしてきた。

よく見たら出血が思ったより多いじゃないか。話に夢中になりすぎた。

「じゃあな」

刑事が憎たらしい顔で引き金に指をかける。

その時、扉から大きな音が鳴った。

その音に刑事達が反応し、4人の戦闘員が扉の方に向かった。

「何だ?ここに来る人間は我々以外いないぞ」

刑事2人はリボルバーを構え、俺の後ろで待ち構える。

その横には残った戦闘員2人がM4カービンライフルを構える。

扉の方に向かった4人は扉の前でライフルを構え、1人が声を上げる。

「誰だ?」

その問いに反応はない。

戦闘員の1人が扉を開けようと手を伸ばした時、扉から大量の弾が貫通して飛んできた。

その弾で4人はなす術がなく倒れ、刑事達が慌てて扉に向け発砲する。

俺は冷静に顔を動かし、上の天井に黒い戦闘装備をした男達を発見する。

ロープを体に着けた男達は合図と同時に降下し、戦闘員を射殺し、刑事2人の手と足を撃ち抜いた。

男達は着地するとロープを切り離し、刑事2人を拘束し、残りは倉庫の安全を確保する。

銃の取り回しや装備、動きから特殊部隊だと察する。

「何者だ……?」

俺の質問に答えず、俺の手錠を刑事から強奪した鍵で外してくれた。

扉から俺を助けた男達と同じ装備の男と、メキシコで共に作戦を行ったキラリが現れた。

「おやおや?思ったより元気ですな、ゼロ♡」

「……キラリ」

「おお。でもその複数の傷は痛々しいね。とりあえず処置して」

1人の男がバックから医療道具を出し、献身的に俺の傷の処置をしてくれた。

その間、キラリは男に取り押さえられた刑事2人と話していた。

「ねぇねぇ。刑事さんって、こんな場所で拷問するんだね。意外だなぁ」

「何だ小娘!こんな事して、ただじゃ済まないぞ!」

「うるさいなぁ。ねぇ、立たせて」

取り押さえている男2人が刑事2人を立たせると、キラリは腰の刀を抜いた。

「ボスのお気に入りをボコるなんて、勇気あるねオジサン。殺される覚悟ある?」

「ハァ?脅しならもう少しマシなのを頼むぜ」

俺を殴ったり警棒で叩いた刑事がヘラヘラとキラリに言った。

キラリは笑顔でその刑事に近づくと、刀で耳を切った。一瞬だった。

耳をなくした刑事は悲鳴を上げる。

「ギャアアアアアアアア!!」

「うるさいなぁ。男なのに、みっともないねー」

今度は頬に切り傷を何個もつける。

キラリは真顔なのに対して、刑事は泣きじゃくっている。

もう一人の刑事は顔面蒼白になり、下に顔を向けている。

「キラリ……何故来た?」

「ああ待って。ちょっとうるさいの黙らせる」

キラリは刀で男の腹を横一文字に斬り、男の臓物を出した。

「がぁ…………あぁ……!」

「アハハ!リアルな腸出てる!バズるわー!」

刑事から腸がはみ出たのにキラリははしゃいでいる。

これには俺もドン引き。

刑事が事切れたのを確認すると、取り押さえていた男は床に刑事を置いた。

「で、今度はそこの刑事さん。離していいよ」

男は刑事を突き放し、AK-12アサルトライフルを向けた。

キラリは布で刃に付いた血を拭いながら刑事に語りかける。

「刑事さんも仕事だよね?表沙汰にできないけど、これも立派な仕事。真面目だよねー♪」

「…………」

「真面目と言えば、小学生の頃の私も真面目ちゃんだったな~」

刀を鞘にしまい、今度は死んだ刑事のリボルバーで遊び出す。

急に過去の事を語り始めて、どうしたんだ?

「一応その頃は文武両道でね。極道に育てられたことを隠し、真面目に学業に励んだよ。テストは毎回一番、スポーツも男でも勝ってた。そんなもんだからモテたんだよねー」

「…………」

「ある日、家の近くに捨てられた猫を拾って育てたの。名前は忘れたけど、その猫を大切に育てた。飼う気なんてないのに、一生懸命育ててさ。お父さんと猫と遊んだり、猫と寝たなぁ」

すると、明るかったキラリの顔が無表情になる。

「でも、人気者には必ず妬む者が出る。その猫、学校でも手を焼くいじめっ子3人に殺されたよ。偶然、その瞬間を見ちゃってね。助けに来た頃には手遅れだった……悲しいなぁ……。しかも、その猫は親友の女の子には教えてたんだけど、いじめっ子にその猫を生け贄にしたんだよね」

何て話だよ。充分胸糞悪いな。

「帰ってから部屋で怒ったなあ。泣いたなぁ。そして決めたなぁ。殺してやろうって。でもタイミングを考えないと私が捕まる。だから、休日の日、そのいじめっ子3人と親友を呼び出して……した」

「……?」

最後、何て言った?

「誰が殺ったから分からないぐらいぐちゃぐちゃにして殺した!特に主犯格は目玉をくり貫いた!解剖もした!アハハハハハハハハ!」

狂ったように笑い出すキラリ。

俺は息を飲んだが、周りの男達は平然としている。

「事件はお父さんが警察と交渉してサイコパスによる猟奇事件として処理したの。私は事件後に心身に支障が出たと言って、転校したけど。その小学校、いじめ問題で潰れたんだよねー。隠蔽はよくないねぇ」

「……な、何が言いたい?」

キラリに質問した刑事はこの状況を打破しようと考えているみたいだ。

だけど、今精神がおかしいキラリに頼めるのか?

「公安を動かした黒幕について話して。さっさと」

「それはダメだ!そんな事をしたら、消される」

「その前に私達が消してやろうかな?」

キラリが男に視線を送ると、刑事を強く蹴った。

「話してよ。ねぇ、男でしょ?あの悪ガキみたいに泣かないでよ?殺す前に泣かれてうるさかったから★」

キラリが刑事を足で踏み、Five Seven自動拳銃を向けた。

キラリ達が交渉しても無駄だと悟り、刑事は観念して答えた。

「黒幕は知らない。私には教えてくれなかった。だが、先生の金庫番は少し知っている」

「金庫番?その先生に金を与えてるの?」

「詳しくは知らない。ただ、静岡の御殿場の銀行で頭取をしていると」

情報を聞いたキラリはウンウンと頷くと、拳銃を下げた。

安堵した刑事が立ち上がるが、男に襟を掴まれた。

そして、また床に倒された。

「な、何で?」

「逃がすと言ったかな?まぁ喋ってくれたのは感謝するけど。ファイブ、離さないでよ」

キラリが再び刀を抜き、刑事の喉元に刃を向ける。

「過去を思い出してちょこーっとムカついてるから、サンドバッグになってね♡」

「嫌だ……止めてくれ……」

「その言葉はあの世で言ってね」

キラリは刑事の体をスパスパと切り刻み、最後に首を落として刑事の生命活動を終わらせた。

刑事が最後に殺されるのを目撃した俺はただ見守っていた。

そして気がつくと傷がだいぶ治っていた。

「じゃ、これで仕事おーわり。ゼロを仲間の所に送ればそれでオッケー」

「おい、せめて答えろ。何で俺を助けた?」

「え?だって、その方が面白いから。また会えたら遊ぼうねー」

キラリが笑顔で手を振ると、男にライフルのストックで頭を打たれ、俺は気絶した。

何とも言えない理由で俺は助けられた。死神部隊に。

変な所で俺は運が良い。できればその運の良さを別の所で活かしたいよ。

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