第3話 窃盗団の謎

「……やっぱすぐには来ないか」

 計画を立てた翌日にはすぐに実行し、三日で事務所を使えるようにした。

 事務所は二階建てで一階を何でも屋として使い、二階は寝室として使う。

 三日の間に広告を出して、いつでも準備万端にしてたが、今日まで誰も来ていない。

 現実はやっぱり厳しい。流石に16の子供は見向きもされないか。

 響子と優子も暇を持て余している。

「看板に便利屋って書いたから客が来ないんじゃない」

「それは違うだろ」

 別に何でも屋の看板としてその名前にしたから問題ない筈だ。

「そろそろ夕方になります。お客さんは来なさそうなので、これで二日連続ですね」

 三日で事務所を使えるようにしたのに、苦労が報われないぜ。

「仕方ない。じゃあ一旦……」

 夕飯の買い出しを提案しようした時だった。

 二日開かなかった来賓用の入り口が開いた。

 俺達はすぐにそっちの方向を見た。

 来たのは零と桜と同じ高校の制服を着た少女だった。

「あの、ここが、最近できた便利屋さんでしょうか?」

「はい。どうされました?」

 優子が丁寧な口調で少女に尋ねる。

「依頼を……したいのですが」

 今日の買い出しは後回しだ。初のお客さんが来たんだから。

 優子が少女をソファーに案内させ、響子が少女にお茶を出した。

 少女が響子に礼を言うと、俺は少女に話しかけた。

「今日はどんな理由でここに?」

「友達の零さんと桜さんがここを紹介してくれて、悩み事があったのでここに来ました」

「そうか。妹と桜の同級生か。あいつらに感謝だな。で、その悩み事とは?」

「実は……学区内で起きてる窃盗団に物を盗まれたんです」

「窃盗団?物騒だな。盗まれた物は貴重品か?」

「はい。財布を盗まれました。家にほとんどお金を置いていたので、少ない額で済みました」

「その窃盗団は有名なのか?」

「はい。ここら辺で知らない人はいないと思います」

 優子がスマホでその窃盗団の事が書かれたネットニュースを見せてくれた。

 主に学生や若い女性を狙って金目の物を盗んでいる若者集団らしい。

 てこずったらバットやバールで脅し、それでもダメなら袋叩きにする。

 警察も捜査しているが、窃盗団は逃げ足が速くて苦労してるそうだ。

「で、依頼はその窃盗団に盗まれた物を取り返せってか?」

「そうですが……私の他にも盗まれて悲しんでいる人がいます。その人達の物も取り返してくれると助かります」

 少女が金の入った袋を渡した。

 中には50万入っていた。これが依頼金か。

「私は被害者を代表して依頼しています。どうか、お願いします」

 少女が俺に頭を下げる。彼女の意思の強さが伝わる。

「……一応聞くが、注意書は見たか?俺達は依頼を成功させる為に時にはグレーな事もする。それで警察に通報するならこの話はナシだ。許容するなら依頼を引き受ける。どうだ?」

「……許容します。警察は頼りになりませんから」

「分かった。引き受けよう。ただし、あんたは初めてのお客さんだ」

 封筒の中の十万だけ取って、後は少女に返した。

「割引してやる。後の金は被害者に返してやれ。生憎と金には困っていない」

「……変わった人ですね」

 少女が封筒を回収して、俺が金を返した事を変わり者として見てる。

 変わり者だと言われるのはもう慣れた。

 そういえば、依頼者の名前を聞いていなかったな。

「名前を聞くのを忘れてた。名前は?」

「花梨です」

「とりあえず明日またここに来い。窃盗団を詳しく探る。報告も兼ねて聞きたい事もある」

「分かりました。よろしくお願いします」

 花梨は俺達にお辞儀して事務所から出た。

「初の依頼だね」

「ああ。今から忙しくなるぞ。優子、窃盗団の事をもう少し漁れ。警察が役に立たないと言ったのが気になる」

「分かりました」

「響子。窃盗団のアジト探しだ。一緒に来い」

「十万貰ったなら仕事しないとね」

 二人のやる気は充分だ。俺もやる気で満ちている。

 じゃ、やるとするか。何でも屋の初の仕事だ。

 絶対成功してやる!


 翌日、窃盗団のアジトを探す事にした。

 これはネットの掲示板で噂になっていたから、すぐに場所が判明した。

 位置は銀座の廃ボーリングセンター。

 裏取りもしたからそこが窃盗団のアジトかもしれない。

 昼間、響子と一緒にビルの屋上でその廃ボーリングセンターを見下ろしていた。

 一見ただの建物だが、誰かが出入りしていた形跡があった。

 だがそこに入るのは目立つ。

 だから市販で買える秘密兵器を使う。

「その小型ドローン。使えるの?」

「ある程度姿勢制御ができて、スマホで操作可能。音が小さいエンジンを搭載した8000円のドローンだよ」

 2035年現在、ドローンの進化は凄まじく、米軍は拳銃弾を撃ちまくれる機関銃を搭載した攻撃ドローンを開発した。

 それが民間にも普及され、民間用のドローンが手軽に買えて遊べるように開発された。

 コレはその一つ。

「じゃ、コイツの機能確かめるか」

 スマホのアプリからドローンを操作するシステムを起動させ、ドローンを動かす。

 本当に音が小さい。1m以上の範囲なら音は聞こえなさそうだ。

 ドローンを飛ばし、廃ボーリングセンターの中に侵入する。

 中には20代ぐらいの男達がたむろしていた。

 数は二十ぐらいか。平日にしては数が多いな。

 ボーリング場にドローンを飛ばすと、男の一人が仲間に財布を見せびらかしていた。

 財布の中身を見て金を取ってる所から、他人から奪った財布だと分かった。

「ビンゴだ。ここが窃盗団のアジトだ」

「多分大学生ぐらいの年齢の集団でしょ?何考えんのかしら?」

「今時の大学生なんてそんなもんだろ。それよりも、気になる物があった」

 しばらくドローンを飛ばしていると、倉庫みたいな部屋に軍用の物資箱が五個あった。

 その内三つは開かれ、中には銃が入っていた事が伺える。

「これ、自衛隊の物じゃないよね」

「ああ」

 ケアパッケージを調べていると、開けられていないパッケージの上部に『US ARMY』と白く書かれていた。

 米軍の物が何故窃盗団のアジトに?

 気になるが、それは後で調べよう。奴らが盗んだ物を探さないと。

 そう思っていたがすぐに見つかった。

 それはケアパッケージの隣の部屋に保管されていた。

 段ボールの中に乱雑に入れられていた。

 思ったより保管場所雑なのね。探す手間が省けたから良しとするか。

「謎が残ったが、物は見つかった。事務所に戻ろう」

「ええ。もう優子も戻っている筈よ」

 数時間後に花梨とまた会う。それまでに戻らないといけない。

 俺と響子は廃ボーリングセンターの写真を撮って、その場を立ち去った。


 夕方、依頼者の花梨と調査を終えた優子と一緒に事務所で合流、俺達と優子が調べた事を報告し合った。

 優子の調べによると、窃盗団を警察が捕まえないのは別の圧力がかかったという説と、そもそも捕まえる気はなかった説が有力らしい。

 まず別の圧力とは、警視庁公安か政府機関、そして外部勢力のどれか。

 警察が多くの人に被害を与えた窃盗団を一人も捕まえないのはおかしい。

 相手は大学生だと一目見たら分かる筈だから、交番の警官でも軽い犯罪で逮捕できる。

 なのに何故警察は逮捕に消極的なのか。

「窃盗団の素性ですが、都内の大学生だと分かりました。歳や学部はバラバラですが、大学にあまり行っていない不登校生です。その大学の関係者から調べました」

「大学に行かない理由は?」

「つまらない、と言っていたそうです。先の事はあまり考えていないとも」

 よくある大学生が不登校になる理由だな。

 まあ選択社会の今の時代、先の事を決めるのは漠然としていてどうすればいいのか決められない。

 窃盗団に入ったのは平凡だった人生を変えたかったかもな。

「ゼロさん。警察が動かない理由ですが、窃盗団のリーダーが能力者だという噂が出ています。窃盗団の仲間はリーダーの力に憧れて、協力しているそうです」

「力の憧れ?無いものに憧れるのは、ただのファンよ。よく百人規模の窃盗団ができたわね」

「花梨、学校で窃盗団の話を聞くか?」

「はい。ですが、先生がうるさくその話をするなと言われてたので、隠れて聞いています」

「もし生徒が窃盗団に入ったら、学校の信用に関わる。気持ちは分かるがな」

 とりあえず、窃盗団が逮捕されない理由はだいたい分かった。

 後は、夜窃盗団のアジトに潜入する計画を立てないと。

「潜入は俺一人だ。ドローンで廃ボーリングセンターのマップを頭に叩き込んである。優子と響子はバックアップだ」

「一人で大丈夫なの?」

「チンピラに負ける俺じゃない。任せろ」

「はいはい。私達はドローンで監視してるわ。何かあったら連絡する」

「分かった。花梨、また明日も来てくれ。そうすれば、物を渡せる」

「はい。よろしくお願いします」


 夜、暗く静かな廃ボーリングセンターの近くを陰で観察していた。

 ここは窃盗団のせいで人通りが少ない。そのおかげで一般人、窃盗団には見られていない。

 盗まれた物を入れる用に背中にバックを背負っている。

 一応拳銃は脇のホルスターにぶちこんである。

 万が一に備えて、ポケットにはサプレッサーを入れている。

 せいぜい拳銃を使う機会がない事を祈るよ。

 正体を悟られないように目出し帽、暗い色のパーカーのフードを被る。

 近くの建物の屋上にバックアップの二人がいるのを確認する。

 そして、ボーリングセンターの塀を越えて潜入した。

 駐車場を通り抜け、ボーリングセンターの裏口から侵入する。

 廊下には窃盗団の男が歩き回っていたが、気配を消し、物陰に隠れながら進む俺を発見できなかった。

 二階に上がり、誰にも見つからずに昨日見つけた倉庫に入る。

 段ボールの場所を移されたと予想していたが、昨日のまま倉庫に残っていた。

 さて、思ったより物が多いな。

 金目の物なら何でも良かったのか、バックにも入らなさそうな物もある。

 困ったな。これは手掴みでも、動きが制限されるぞ。

 仕方なく、バックに入らない大きい物は放置する事にした。

 盗まれた物をバックに入れ、財布や携帯などの小さな物は回収した。

 後は出るだけだが、気になる物も一応調べよう。

 隣の部屋に行き、あの米軍のケアパッケージをくまなく調べる。

 開いていない箱の一つを開けると、ソビエト製のアサルトライフル『AK47』とイスラエル製のサブマシンガン『UZI』が入っていた。

 紛い物ではない、モデルガンでもない。全て本物の銃だ。

 だけど何で米軍の物にテロリストが使う銃が入っているんだ?

 もう一つの箱を開けると、拳銃が幾つも入っていた。

 そういえば二人の銃はまだ届いていないな。

 父さんを通じて響子の姉メリーに二人の銃の配送を頼んだが、まだ二人の手元にない。

 とりあえず、箱の中身の写真だけスマホで撮って、警察に出す証拠にしよう。

 写真を撮った俺は部屋から出て裏口から出ようとしたが、窃盗団の男がそこで立っていて行けなかった。

 クソ。危険だが、正面玄関から出るか。

 裏口からの脱出を諦め、正面玄関に向かっていると、ボーリング場から騒いだ声が聞こえた。

 声が聞こえる扉に近づき、扉の窓から様子を伺う。

「やっぱり本物はすげえや。重みがあるわ」

「撃てないのがツラいわ。まあ撃ったら通報されるからやらないけど!」

 おいおい、集団で銃の見せ合いでもやっているのか。

 窃盗団が持っている銃はあの箱に入っていた銃だろう。

 手に馴染ませているようだが、持ち方が危なくてつい注意したくなる。

 だけど、これも証拠になるよな。とりあえず撮るか。

 スマホで窃盗団が銃を所持している証拠を撮る。

 すると、写真の中に一人だけ椅子に座って仲間に指示している男がいた。

 コイツが窃盗団のリーダーか?腕に蠍座の刺青あるし、尖ってるが。

 何だか嫌な予感がして、ボーリング場から回り込んで正面玄関に着いた。

 一応後ろを振り返るが、誰もいない。

 ホッとして正面玄関から外に出る。

「食らえ!」

 後ろから声が聞こえ、迷わず俺は横に転がる。

 その後、コンクリートに硬いものが当たる音が聞こえた。

 誰かに攻撃されたようだ。

 俺に攻撃してきた奴を見る。裏口で立っていた音だった。

 手にはバールを握って俺に構えている。

「お前、俺達の戦利品どこに持っていくつもりだ?」

「……それはお前には関係ない。俺を見逃せ」

「そうはいかない。なあ皆!」

 ボーリングセンターからぞろぞろと銃や近接武器を持った窃盗団が現れた。

 あのリーダーみたいな男も一緒だ。

 参ったな、まさかもうすぐ仕事を終われると思ったのにこれかよ。

 しかも、どうやら途中で俺に気づいて奇襲を仕掛けたようだ。

「リーダー、コイツうちの戦利品のほとんど盗んでます。どうします?」

「殺して取り返せ。あれは必要な資金だ」

「へへっ。分かりました」

 おいおい。外で殺り合う気か?通報される事をちゃんと考えてるか?

 逃げようとして一歩後ろに下がったら、足元に銃弾が当たった。

「動くな。そのまま殺す」

「最近の大学生はやる気があるなぁ。ある意味尊敬するよ」

 二人の男がAKを構えて近づいてくる。

 俺の間合いに入ると、一人の男に肘を顔にぶつけ、もう一人の男がAKを向けようとした所を狙ってライフルを掴んで強引に奪って、AKを構えた。

 銃を取り返しに来た男の腹を蹴り、後ろを向かせて男の脇から左腕で首を絞め、右手で男を盾にしてライフルを窃盗団に向けた。

「悪いけど、帰らせて貰うよ」

 窃盗団が仲間を人質にされて動けない。

 その内に脱出しようとすると、リーダーの男がバットでボールを力強く打った。

 ヤバッ!速い!

 俺の顔の前に男の頭が被さる。

 その瞬間、男の顔面に豪速球の球が当たった。

 ボキッ!という骨が折れる音が鳴って、ボールは左に逸れて街灯の柱にめり込んだ。

 マジか。仲間盾にしても攻撃すんのか。

「運が良いな。死なずに済んだな」

「お前の仲間だろ?コイツ、死んだぞ」

 おそらく鼻と頭蓋骨が折れてショック死だ。

 盾となった男をそっと置いた。

「悪いが戦利品を持ってかれたら俺らヤバいんで。殺してでも取り返す」

 リーダーのあの気迫、能力者特有の雰囲気が出てきた。

 あのバットを使って能力を使っているな?

 やれやれ、ここで戦闘になるか。依頼人に応える為にも勝つぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る