第2話 家族、親友との再会

「……ただいま」

「あら?もう戻って来たのねゼロ」

家の玄関に会ったのは母さんだった。

「ちゃんと仕事頑張った?」

「ああ。だからこうしてここに来た」

「なるほどね。……あら?後ろの二人は?」

「海外で仲良くなった友達」

二人が何故友達だと言ったのかと目で質問してきた。

「ふぅーん。ゼロが口説いた女の子ね。良い子ゲットしたじゃない」

「違う。話聞いてたか?友達だよ」

「はいはい。そういう設定でしょう?二人がただ者じゃないのは分かってるわよ」

なら尚更誤解を招く発言をしないで欲しい。

「上がっても?」

「ええ。今は私しかいないけど、上がって頂戴。荷物ならゼロの部屋に置いといて。部屋はそのままにしておいたから」

「助かるよ母さん」

「ウフフ。早く荷物置いてきて、リビングに来なさい。お茶とお菓子用意しておくから」

それは楽しみだ。

俺は二人を二階の自分の部屋に案内して部屋に荷物を置き、リビングに着くともう机に麦茶と菓子が用意されていた。

「相変わらず準備が早い事で」

「久しぶりに息子が帰って来た上に女の子二人連れて来たのよ。話したくて早く準備しちゃった」

「聞かなきゃよかった……」

この母さんが考えている事はだいたい分かるが、だからこそ何言われるか怖い。

椅子に座り、麦茶を飲んでいると母さんが響子に質問した。

「あなた、お名前は?」

「響子です」

「アメリカ人ね。ニューヨーク育ち?」

「生れは分かりませんが、育ちはそうです」

「ニューヨークの殺し屋稼業はどうだった?」

「え?」

まさか自分の古巣を言い当てられるとは思わなかった響子。

思わず質問を質問で返してしまう。

「どうして私の正体を……?」

「その指輪、ニューヨークで売っている物だね」

確かに響子は左手の薬指に指輪を付けている。初めて会った時から付けていた。

「ニューヨークの殺し屋ビジネスはよく出来てる。所属する殺し屋は必ずその殺し屋が経営するアクセサリー店で指輪なりネックレスなり売られている物を買わないといけない。それはその殺し屋が売っていた物ね」

「よくご存知で……」

「それに殺し屋は大体目を見たら分かる。人殺しの目をしてるから」

響子は母さんの推論にただただ驚いていた。

ニューヨークは殺し屋のネットワークが出来上がっている。

円滑に殺し屋達の動きをコントロールする為だ。

ニューヨークの殺し屋達は必ずアクセサリーを付けるのは自分がその集団に属している事を示すから。

付けていない殺し屋は自然と消える。

「響子……この名前は偽名ね」

「そうです。本名はありません。響子というのはお姉ちゃんとゼロが付けてくれた物です」

「そう。メリーは元気?」

「……!お姉ちゃんを知っているのですか?」

「ええ。何せスパイ技術……というより、その基礎的な技術を叩き込んだの私だから」

それは初耳だ。

響子には血の繋がった姉がいる。唯一の家族だ。

その姉は世界中を飛び回る凄腕スパイだが、ほとんどの者が素性を知らない。

姉とは一度仕事したが、あの警官っぽい動きに似てたのは母さんの技術を参考にしてたからか。

「次は……そこの可愛らしい青髪の女の子。お名前は?」

「優子です。名前は響子さんと同じです」

「あなた、イギリス系の中国人ね。こんなにマナーを気にしないイギリス人はいないもの」

「流石ゼロさんのお母さんです。よく私が中国人だと……」

「日本語、若干中国訛りよ。後、あなた二丁ガンマンね。両手の人差し指がちょっと前に出てるし、豆ができてる。ガンマンの癖ね」

「……凄いです。こんなに私の事を当てたのは二人目です」

「すると、一人はゼロかしら?」

優子は静かに頷く。

「ゼロ。やるじゃない。可愛い上に腕の立つ女の子をゲットして」

「そういうのいいから。響子、優子。これがうちの母さんだ。この人、司法試験首席合格して更に教員免許取ったから」

「凄いと言うので精一杯よ。色んな資格持っているのね」

母さんがポケットから当時の警察手帳を見せる。

「それ、まだ持っていたのか。それとも自作?」

「ええ。警察の桜がないから、何の効力もない飾りよ」

だが写真は刑事になってからすぐの物だ。

その頃当時25歳。警視庁第一課のエースだった頃の母さんだ。

「今は教員免許活かして塾の先生やってる。講師も悪くないわね。皆真剣に私の話を聞いてくれるし」

「母さんが美人だから皆聞いてくれるのさ」

「まあ。お世辞が上手いわね」

からかうなよ母さん。美人なのは事実だから。

何故なら塾内でとびきり美人の女講師がいるって噂が広がっていたからだ。

ここで優子が母さんに質問する。

「どうして刑事を辞めたのですか?」

「零が産まれそうになったら辞めると決めていたから。入院まで仕事してたから後悔はないわ」

「だから……しばらくは主婦に?」

母さんが塾の講師になったのは俺が中学に通ってからだ。その前はごく普通の主婦だった。

「フフフ。キャリアが私の全てだった世界をあの人が変えたわ。恋って凄いわ」

母さんが当時の事を思い出しているのか、クスクスと笑いながら話した。

母さんが父さんと出会わなければ零は産まれなかった。運命的だな。

「父さんはまだ仕事?」

「いいえ。アニメイトでCD買いに行ったわ」

マジかよ。それで家を出ているのか。

「警備の仕事は?今日は休みなのか?」

「そうみたい。夕方までには戻るって」

「分かった。零は?」

「部活。水泳部で頑張っているわ」

「水泳部?あいつ、中学は陸上部じゃなかったか?」

「部活を幾つか掛け持ちしてるみたい。入部届けに水泳部と書いたから一応零は水泳部よ」

初めて聞いたぞそれ。

零が……水泳部……?てことは、水着を着て泳いで……ヤバい、変な想像……もとい妄想をしてしまう。

「ゼロ、エロい事考えてたでしょ」

「いや、まさかな」

「真顔で返事しても無駄ですよ」

真顔で答えたのに秒でバレた。

響子と優子には騙せなかった。母さんは最初からバレてる。

「ウフフ。少しは大人になったかと思ったけど、やっぱり思春期の男の子ね」

「笑顔で言うな!恥ずかしい……」

「はいはい。零は友達の桜ちゃんと夕方には帰るって……一緒に家で食べるとは聞いていなかったけど」

「メールで知ったか?あいつはメールで済ませるからな」

「そうなの。だから今日は賑やかになりそうね」

「和室使うか?」

俺の家は普通と言えど敷地面積が大きい。

大人数で宴会ができる和室があるぐらいに。

和室なら全員で食べれるし、話を一気に済ませられる。

「そうね。準備しているわ。響子ちゃん、優子ちゃん。うちの物使ってもいいから。これからゼロの事をよろしくね~」

「早く行け!準備してろ!」

もうニヤニヤモードの母さん嫌だ!


それからリビングで話していると、部活帰りの零と桜が帰って来た。

ショートヘアーの黒髪に綺麗に整った顔、そして高校生にしてはスタイルの良い零。

肩まで下げた茶髪に知的な顔立ちの桜。

二人共学校の制服で、零の髪は少し濡れていた。

「あ!お兄ちゃん!帰って来たんだ。結構早いね」

「おう零。それと桜」

「お帰りと言っておこうゼロ」

零と桜に軽く挨拶していると、響子と優子が急に俺に質問してきた。

「ちょっと。ゼロって本名なの?」

「ああ。ちゃんとカタカナでゼロだ。偽名とは言っていなかった筈だが」

「キラキラネームですね」

それを言ったら終わりだから止めてくれ優子。

「お兄ちゃん、その女の子誰?」

「ああ、海外で仲良くなった友達……怖い顔向けんな」

まだブラコン気質治っていなかったか。

「まあ。お兄ちゃんが女の子連れて来るのは当たり前か」

「それは私の事を言っているのかい零?」

「さあね」

絶対桜を見て今の台詞言ったな。わざとらしいからすぐに分かった。

「まあ、ゴホン。私はお兄ちゃんの妹の零。友達として仲良くなろ」

「私は佐々木桜。ゼロが連れて来た友達、実に興味深いね。仲良くしようじゃないか」

二人が響子と優子に挨拶し、軽い雑談をする。

同年代で女同士だから、話は盛り上がっている。

俺は外した方が良いな。

一旦廊下に出て一息つくと、玄関の扉が開かれた。

父さんがアニメイトの袋を下げて帰って来た。

「お帰り父さん」

「お?もう帰ったかゼロ。もつ十年はかかると思ってた」

「そんなに俺、低く見られてたんだ……」

ちょっとショックだ。

「冗談だ。五年だよ」

「そんなもんか。皆中にいるよ。友達も連れて来た」

「そうか。じゃ、俺も行くか」

父さんが靴を脱いで廊下に上がる。

袋を見たらCDが五枚、ミリタリーものの美少女フィギュアが入っていた。

「父さん……もうアメリカ軍人の面影もないじゃん」

「その方が日本人らしいだろ?」

「父さんの中で日本人はオタクなのかな!?」

後で父さんに日本に対するイメージを変えさせよう。

変なイメージを持つのはよろしくないから。


初めて会う俺の家族に明るく話す響子と優子と一緒に父さん、母さん、零、桜と話していたらもう暗くなっていた。

母さんの気遣いで零、桜、響子、優子はうちの風呂でゆっくりしていた。

うちの風呂場が大きくて良かった。おかげで父さんと母さんに話す機会が現れた。

「あの二人、中々良い友達じゃないか。ゼロが海外でどうしてるか気になっていたが、楽しそうで何よりだ」

「そう言われてホッとしたよ。半年前、父さんに猛反対されたから。当たり前だよな、海外で裏仕事やるって聞かされたらそうなるよな」

「それで新年明けて翌日に家を出て行ったな。いつの間にパスポートや海外に行く準備を整えやがって」

あの時はガチで親子喧嘩してたな。夜だったから騒音トラブルになっていたかも。

「あの時は悪かった。だけど、俺は普通の人生を歩めない。人を殺しているからな」

両親が黙って俺を哀しい目で見る。

俺は両親と零とは血が繋がっていない。

俺は養子でこの家に来た。その前の家は最悪だった。

父はアル中で母は毎日浮気。二人共俺に暴力を振るう。

いつも機嫌が悪いと俺をサンドバッグとして使う。

おまけに母に産まなければよかったと言われた時はショックを受けた。

だから五歳の時、両親を毒殺した。

運良く母が父を殺したくて用意した青酸カリが役に立った。

二人が俺をパシりにして飲み物を用意させるからすぐに毒を入れられた。

毒で苦しんで死んでいく両親の光景は今でも忘れない。

その後、警察が来て俺は養護施設に入れられた。

犯罪者になるかと思ったが、無罪になった。

五歳児が両親を毒殺するというニュースを世間的に流したくなかったからだろう。

だがそれでも地方ニュースで軽く事件として放送された。

その後、俺は今の父さんに引き取られた。

まさかあの父の兄が父さんだったとは思わなかった。

「父さんには感謝してる。初めて俺は愛を感じられた。俺を一人の息子として育ててくれた。母さんも俺に色々サポートしてくれた。ありがとう」

「よせよ。俺が勝手にやった事だから」

「それでも父さんにデカイ恩ができた。返しきれないぐらいに」

二人は真剣に俺の話を聞いてくれた。

勝手に家を出た俺を受け入れてくれた。その事が嬉しかった。

「だから、その恩を返す為に一つ頼みがある」

俺は覚悟を決め、両親に言った。


「どんな事でも引き受ける何でも屋を開かせてくれ」


それを和室の夕食の中でもう一回言った。

事前に聞いていた父さんと母さんは平然としていたが、他の皆に驚かれた。

まさか俺がそんな事を夕食の場で伝えると予想しなかったからだろう。

「元々、前からやろうとは思っていた。だけど、それには経験と知識、仲間が足りなかった。だから半年響子達と仕事したのはその為」

「お兄ちゃん、また変な事考えるね」

「響子と優子の給料、あと零の高校の学費を稼ぐにはコレしかなかった」

ちなみに俺が出て行く前に零の入学費を親に出してある。

あそこの高校は公立とはいえそこらの都会より高い。

両親は一応払えるが、その後の負担が大きいと思った俺がちょくちょくやってた裏仕事で稼いだ金で払った。

「それに、両親と桜に恩を返したいしな。止める気はないよ」

「まったく、お前は昔から義理を重んじてるな」

「で、建物が欲しいって言ってたけど。お母さん一つ借りられそうな所あるよ」

マジか。それなら大助かりだ。

「どこ?」

「秋葉原の空き事務所。そこなら私のコネで借りれる」

「母さん、その事務所の人に何した?」

「別に?事務所を私に渡す代わりに脱税見逃すって言ったら本当に渡してくれた。事務所の名義は一応私」

「……それって刑事時代にやった?」

「まさか。まだ出産後の休暇中にやっただけ」

産後疲れなのに違法経営してる事務所脅すなんて、やっぱり母さん怖い。

「ま、まあこれで拠点は確保できたね。次は?」

「あそこをアパート代わりにすれば何でも屋やっても怪しまれない。最近は起業の規制が緩いから、偽装履歴で何とかなる」

「じゃあ、後はやるだけですね。細かな準備は私がやります」

「いつも悪いな優子。頼む。後は……武器だな」

俺の何でも屋は裏の仕事も引き受けるから、最悪悪党と戦う時がある。

その時に身を守る武器が必要だ。

だけど銃の規制が厳しい日本だと、銃の調達は難しい。

警棒などの近接武器で何とかするしかなさそうだ。

「やっぱり日本は悪事をするのは難しい国だね。武器の調達でも苦労する」

「他の国だとやり易いのですが……」

響子と優子は外人だから日本での銃の規制に舌を巻いている。

ここで難関が現れるとは……。

「……しょうがない。父さんからプレゼントしよう」

父さんが一旦和室から出て数分後、戻ってくると小さなケースを持ってきた。

父さんがケースを俺に渡す。

このケース、拳銃を収納する物だ。まさか?

俺はある事に勘づいてケースを開ける。

「……すげえ」

入っていたのは《M19》9ミリ自動拳銃。

アメリカ軍制式採用で、装弾数は17+1。色はブラック。

俺は拳銃を手に持ち、動作チェックを行う。

この拳銃はかなり手が加えられている。

マズルブレーキに拡張バレル、軽量トリガー、粒状グリップ、ドットサイト。

俺でも凄いと思う程カスタマイズされた拳銃だ。

だが何でコレを父さんが持っていたんだ?

気になって拳銃を見ていると、スライドに白くEMAと刻印されているのを発見する。

「父さん、これは……」

「当時の部隊の女性隊員のエマが持っていた拳銃だ。俺の罪を忘れない為に今まで持っていた」

「父さんの罪?」

「詳しくは言えない。だが、エマは最後俺を庇って死んだ。その時の悲しみは忘れられない。あの時、俺が死んでいたら……!」

父さんが自分を責めている。何があったかは知らないが、そのエマっていう兵士を死なせた事を後悔している。

周りの皆が父さんの顔を見て下を俯いている。

この空気を変えないと。

「父さん。この拳銃、使わせて貰うよ。これで仲間を守れるなら、エマも喜ぶんじゃない?」

「…………」

「それに、父さんは自分を責めているけど、それは全然違う。どんな行動にも責任が伴う。払うのはその人次第。どんな結果になろうとも、それはその人が選択した。だから選択に拘るな、父さんの言葉だよ」

俺はこの言葉は良いと思っている。

人は誰しも選択する時が来る。望まずともそれはやって来る。

その時、必ず選択しなければならない。どんな結果になろうとも。

だが良い結果でも悪い結果でも、選択したらその責任を取って前に進まなければいけない。止まってたらダメなんだ。

「だから父さん。もう自分を責めるなよ。俺の尊敬する人が立ち止まってたらダメだろ」

「……そうだな。そうだよな。前に進むか」

父さんの表情が良くなった。空気も明るくなった。

「まさか息子に諭されるとはな。俺を越えたな、ゼロ」

「勘弁してくれ。俺はまだ父さんに追い付いていない。まだまだ教えて貰いたい事がある」

「ゼロ……」

「あなた?話が逸れましたわよ」

母さん!口出しするなよ!良い雰囲気が台無しだ!

「……それはゼロが使ってろ。お前自身の為に」

「……ああ」

「じゃ、他の事も決めましょ」

その後、俺、響子、優子で何でも屋をするにあたっての計画を立てる。

一時間で何でも屋をする計画が整っていく。

時々両親がアドバイスしてくれたから思ったより早く終わった。

「明日、その事務所に行くか。今日はここで過ごす」

「ゼロ。寝る部屋は?」

「俺と零の部屋を使え。俺は久しぶりにソファーで寝る」

「それだと疲れが取れないわ。あなたは零と寝なさい」

妹と寝ろ?何を言っているんだこの少女は?

「待った。私を忘れたら困る」

「桜?」

「私も君と一緒に寝たい。中学の時のように」

待て待て。お前までどうした?バグったか?

「桜は響子達と寝てよ。私はお兄ちゃんと寝る権利があるから」

「ほう?そんな権利はどこにもないんだが。嘘はよくないな」

「何ですって……?」

零と桜の間で稲妻が走っているように見える。

そういえば中学の時もこんな感じだったな。俺の取り合いで喧嘩してるの、半年振りに見る事になるとは。

「ゼロ、面白そうだから間に入りなさい」

「狼狽えているゼロさんは貴重ですね」

様子を見ていた二人は助ける気は微塵もない。

両親はニヤニヤしながら様子を伺っている。

味方がいない、何てこった。孤立無援で泣きそうだ。

孤立した俺はしばらく、零と桜に振り回されるのだった。

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