モヤシな俺と体育祭
黒うさぎ
モヤシな俺と体育祭
体育祭。
それは高校生活において、最も盛り上がるイベントの一つだろう。
とはいえ、盛り上がるのは主に運動部の連中であり、モヤシな俺には関係ない話なのだが。
「ああー、面倒くせぇ。
なんで体育祭なんてやるんだよ……」
洋太が手札で顔を扇ぎながら愚痴る。
「種目にテーブルゲームがあったら、少しはやる気も出るんだけどね」
苦笑した壮介が一枚捨て、手札を補充した。
「もうそれじゃあ、体育の要素皆無だけどな。
あ、俺はパスで。
ほれ、モヤシの番」
手札が揃っているのか、智輝はテーブルに手札を伏せたままカード交換を拒否する。
ブラフか、それとも……。
「モヤシって言うな。
まあ、一種目だけでれば、あとは自由参加だし我慢だ、我慢」
俺は少し悩んだ末、二枚カードを交換する。
「降りる奴は……、いないな。
よし、オープン」
俺の声に合わせて、一斉に手札を公開する。
「なっ!
智輝お前、ストレートフラッシュってマジかよ!?」
目を見開いた洋太が智輝に詰め寄る。
「いやあ、悪いね。
今日の俺はついてるらしい」
「配布された段階でそれが揃ってるのは、さすがに勝てないや」
壮介が手札を投げ出しながらあきれた顔をした。
「くそっ。
次だ、次」
「ちょっと待て、お前の手札はなんだったんだよ」
「おい!」
智輝がひったくるようにして俺の手札を奪い取った。
「モヤシ、お前、三のワンペアかよ。
よく降りなかったな」
「うるせぇ、モヤシって言うな。
お前のがブタだと思ったんだよ」
「そりゃ、残念だったな。
ほらお前ら、出すもんだしな」
調子に乗っている智輝に、渋々掛け金である購買の食券を渡す。
手汗で若干へたっているが、渡すのは智輝なので悪く思う必要もないだろう。
窓は開け放たれているというのに、蒸し暑さが酷い。
狭い部室に男四人でこもっているのだから、自業自得なのかもしれないが。
俺たちはテーブルゲーム部に所属している。
普段は持ちよったテーブルゲームをして遊ぶか、文化祭に向け自作のテーブルゲームを作成するかのどちらかをしていることが多い。
今日は原点回帰という名の暇潰しに、ポーカーに興じている。
智輝が独り勝ちしており、このままでは食券のストックが底をつく。
悔しいが、そろそろ退き時なのかもしれない。
「そういえば、お前らはなんの競技に出るんだ?」
俺たちはみんなクラスが違う。
そのため、まだ誰がどの種目に出るのか把握していなかった。
「俺は棒倒しだな」
洋太が答えた。
洋太は良く言えば体格がいい。
悪く言えばただのデブだが。
だが、素人の棒倒しなら、動けなくてもその巨体は立派な壁になることだろう。
なかなかの人選だ。
「僕は借り物競争だね」
壮介の答えに、俺たちは納得した。
壮介は俺たち地味なメンツの中でも、いっそう頼りなく見える。
だが、物腰が柔らかく、それでいて見た目以上に物怖じしないため、この中で一番コミュニケーション能力が高い。
運動部の陽キャや、女子たちと仲良さそうに談笑できるのは、この中でコイツだけだ。
「俺はサッカーに出る」
「「「無理だ」な」ね」
「やってみなけりゃ、わからねぇだろ!?」
心外そうに智輝が声を荒らげる。
俺も友人として応援してやりたい。
だが、智輝にサッカーは無理だ。
コイツなら、止まっているボールを空振りしかねない。
それほどまでに、運動音痴なのだ。
これはあくまで客観的な事実であり、決して食券を巻き上げられたことを根に持っているわけではない。
「そういうお前はなにに出るんだよ?」
「俺か?
俺はクラス対抗リレーに出る」
「お前、それはダメだろ……。
お前が晒し者にされているところなんて見たくねぇよ」
「僕もちょっと……」
「俺もそれは、な」
「うるせぇ。
活躍してやるから見てろよ」
まったく、失礼な奴らだ。
「つってもよ。
色白でヒョロガリなモヤシのお前がリレーって。
周回差つけられる未来しか見えないぞ」
確かに智輝の言うとおり、俺は色白でヒョロガリだ。
林という名字も合わせて、俺以上にモヤシのあだ名が似合う男もそうはいないだろう。
だが、これでも足の早さには定評があるのだ。
「お前、俺のことをモヤシ、モヤシ呼ぶ割に、モヤシのことを知らないようだな」
「どういうことだよ?」
疑問符を浮かべる面々を見渡しながら、俺はキメ顔でこう言った。
「モヤシはなあ、足が早いんだよ!」
その時、部室が凍りつくのを俺は感じた。
ちなみに、体育祭本番では、俺は見事周回差をつけられて醜態を晒すことになった。
モヤシは足が早くても、足は速くないらしい。
モヤシな俺と体育祭 黒うさぎ @KuroUsagi4455
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