第6話 再会

ハガキを手に、アパートの部屋へ戻る。

と、靴を脱ぐ前に、『近くにお越しの際はぜひ遊びに来てください!』の印字の横に手書きの文字を見つけ、俺は思わず吹き出した。

【来たくないなら、来なくていいけど!】

(これって・・・・)

笑いながら靴を脱ぎ、部屋に入る。

(来い、って事か?)

ミカのハガキのせいか、あの頃ミカとよく聴いた曲が無性に聴きたくなり、俺は棚の中からCDを漁る。

やっと見つけてケースを開くが、そこにCDは無かった。

名誉の為に言うが、俺は聴き終わったCDを適当なケースにしまってそのまま放置するような性格では無い。

それが、大事な思い出のあるCDなら、尚更だ。

とはいえ、手当たり次第にそこらを探してみたものの、やはり目当てのCDは無かった。

運悪く、そのCDはPCにも取り込んでおらず、音源データは無い。

(一体どこに・・・・?)

ベッドの端に腰掛け、記憶の糸をたぐり寄せる。

最後に聴いたのは、いつだったか。

1人で?それとも、ミカと?

どんなシチュエーションで?

そして、やっと思い出した。

(あいつ・・・・)

最後に聴いたのは、大学卒業間近。

この部屋で。ミカと一緒に。

俺の1番のお気に入りのCDを、やはりミカもいたく気に入ったらしく、もう1度ゆっくり聴きたいからとさんざんせがまれて、ケースごとミカに貸したのだった。

そして迎えた、あの日。

俺の前から去ったミカは、律儀にもCDを送り返してきた。

空のケースを。

(返す前に中身くらい確認するだろ、普通・・・)

そう思いながらも、どうにも腑に落ちない自分がいる。

やはり名誉の為に言うが、ミカは呆れるほどに律儀な奴だ。

たまに抜けている所もあるが、人から借りた物をぞんざいに扱うような奴じゃない。

ましてや、中身を入れ忘れてケースだけ返すような奴などでは・・・

(まさか、な。)

ふと脳裏に浮かんだ虫のいい想像を全力で否定し、俺は立ち上がった。

ハガキに書かれた住所は、ここからそれほど遠い場所では無い。

「聴けないと思うと、余計に聴きたくなるもんだな。」

言い訳のように呟いて、さっき脱いだばかりの靴を履きなおす。

「【来なくていい】なんて言われたら、余計に行きたくなるもんだ。」

今買ってきたばかりの缶ビールとハガキを手に、俺はアパートを出た。


「よっ。」

「・・・・ショウ?」

インターフォン越しに、ミカが息を飲んでいるのが分かる。

「ちっ、ちょっと待ってて!」

ほどなくしてドアが開き、3年ぶりのミカが姿を見せた。

(髪、切ったんだな。)

いきなり来ないでよ、などと文句を言いながらも俺を招き入れるミカの後ろ姿に、俺はぼんやりと思っていた。

(意外と似合ってるな、短い髪も。)

相変わらずのクセ毛ではあったが、短くしたせいか更ににフワフワとした柔らかい印象を与えている。

「何か飲む?って言っても、お茶くらいしか・・・」

「持ってきた。」

俺は、手にしたビニール袋をミカに手渡した。

「ごめん、つまみは無いけど。」

ビニール袋を受け取って、そこにある缶ビールを目にしたとたん。

ニッと白い歯を見せて、ミカは笑った。

「ちょうどさっき、焼き鳥缶詰買ってきたとこなんだよねー。で、ビール買い忘れてたんだ。ナイスタイミング!」

その笑顔に、俺はようやく安堵した自分を感じていた。

やはり、緊張していたのかもしれない。

何しろ、3年間も会っていなかったのだから。

「今用意するから、ちょっと待ってて!」

でも、バタバタとキッチンへ駆けていくミカの姿に、懐かしいという気持ちは不思議と起こらなかった。

(変わったのは、髪型だけみたいだな。)

ようやく緊張が解けたからだろうか。

その時になって初めて、俺は部屋に流れている曲に気付いた。

(これって・・・)

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