第5話 離別

それからだった。

ミカと俺がつるんでよく遊ぶようになったのは。

映画に行ったり、ライブに行ったり。

俺が「行きたい」と思うものは、ミカも「行きたい」と思うところで。

ミカが「観たい」と思う映画は、俺も「観たい」と思う映画で。

結果、お互いの感想についてよく意見を戦わせたりもした。

ふんわりとした柔らかい雰囲気からは想像もつかないほど、ミカは自分を曲げない。

最終的には、いつも俺が折れていた。

けど。

悪くない。全然、悪くない。

俺を言い負かすほどの相手の中で、ミカは唯一そう思える相手だった。

俺たちは多くの時間を共に過ごし、いつのまにか卒業の時期を迎えた。


あの日。

肩まで伸びたクセ毛を春風に弄ばれながら、ミカはまっすぐに俺を見て、言った。

「ショウは、どう思ってるの?」

薄々感づいていながら、避けて通っていた事を目の前に突き付けられた気がした。

(どう・・・・思って・・・・)


『ねぇ、ほんとは、私にめっちゃ惚れてるんじゃないの~?』

『バカ言え。』


『モノは相談だけど、このまま私と付き合ってみ見る気とか、無い?』

『お前、気は確かか?』


『私、マジでショウが好きだよー。これって、もしかして片想い?』

『どうせなら、もっとイイ男に片想いしろよ。』

『うん、私も、その意見に賛成♪』

『おいっ!』


他愛のない軽口なら、いくらでも出てくる。

だが。

(無理だ・・・俺には無理だ。お前の相手は、俺じゃない。)

明るくて、気が強くて、負けず嫌いで、時々口が悪くて。

でも、誰より気遣いができて、驚くほどに優しくて。

実はこっそり泣き虫で、寂しがり屋。

ミカは、そんな奴だ。

俺には、もったい無いほどに、いい女だ。

でも。

一緒に居ればいるほど。居心地の良さを感じれば感じるほど。

怖くなってもいった。

これからは、お互いに社会人になる。

時間的な自由は激減して、今までのようにはいかないだろう。

今までのような関係ではいることは、きっとできないだろう。

俺はきっと、自分の立場も考えずに、ミカを束縛する。

ミカの周りの奴らに嫉妬する。

何よりも面倒だと思っていた【嫉妬】という感情を、ミカに向けてしまう。

それが、怖かった。

ならば、いっそ。

息の詰まりそうな沈黙の中。

両の拳を握りしめて、俺は言った。

「もう、行けよ。友達、待たせてるんだろ?」

ふぅっと、ミカの息を吐き出す音が、意外なほど大きく耳に響く。

「そだね・・・じゃ、また。」

まるで何事もなかったかのような言葉を残して、ミカはその場から去った。

そしてそのまま、俺の前から去って行った。

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