第4話 相棒
プシュッ。
缶を開ける音にハッとして顔を上げると、ミカが目の前で旨そうに缶ビールを飲んでいた。
「それ、私の本なんだけど。」
「あぁ・・・悪い。つい。」
慌てて本を閉じ、ミカへ返す。後ろ髪をひかれながら。
「好きなの?」
「えっ?」
コンビニのビニール袋に入った缶ビールをもうひと缶取り出し、俺に押し付けながら、ミカは言った。
「この人の本。」
「あぁ、うん。」
「そ。」
本をバッグにしまい、いつのまにか目の前に並べられていたつまみの中から、ミカは唐揚げをつまようじで器用に口に運ぶ。
「じゃ、あと2日待って。」
「2日?」
「読み終わったら、貸す。」
「・・・・あぁ。ありがと。」
何だか色々と驚きながら、俺は素直に礼を述べていた。
本当に、色々驚きだ。
本のことから始まって、ミカが買ってきたビールにも。つまみの数々にも。ミカが「読み終わったら、貸す。」と言った事にも。
(なんだこれ?)
すべてが、俺の嗜好と一致している。
プシュッ。
小気味よい音を立てて缶を開け、冷えたビールを一口。
すきっ腹に染み渡る、快感。
「なぁ。」
「なに?」
相変わらず旨そうにビールを飲み、旨そうにチーかまを頬張っていたミカが、俺を見る。
「どんな曲、聴くんだ?」
「は?」
不審者でも見るような目で俺を見た後。
ミカは少し俺との距離をとるような体制で、言った。
「なに?私に気があるの?」
一瞬、間が空いた。
何故即答できなかったのか、わからなかった。
「んな訳ないだろ。」
「な~んだ。」
つまんないの、と言いながら、ミカは笑った。
冗談だろうとは思う。
だが、その笑顔が愛想笑いじゃないことだけは、俺にも分かった。
それから、サークルの仲間がチラホラと顔を見せ始めるまでの時間は、驚くほどに早かった。
本当に、驚くことしかなかった。
好きなアーティストに好きな曲。好きな映画。テレビ。お笑いから気になるニュースまで。
ミカと俺の嗜好は共通点ばかりだった。
話をしている間に、あっという間に時間なんて過ぎて行った。
まだまだ足りないと思えてしまうほどに。
2日後。
サークルの集まりが無い日にも関わらず、ミカは俺の居所を突き止めて、本を届けにきた。
「明日でも良かったのに。」
翌日はちょうど、サークルの集まり、つまり飲み会のある日。
だが、ミカは言った。
「だって、約束したし。」
「え?」
「2日待って、って。」
ニッと、白い歯を見せて、ミカは笑った。
まるで、子供のような、邪気の無い笑顔。
今までだってサークルの集まりでミカの笑顔は見ていたはずなのに、こんなミカの笑顔を見たのは初めてだった。
そんな気がした。
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