第2話 出会い
「来たぜ、あの子だよ。男とっかえひっっかえ、って話。まぁ、モテそうだしな。」
俺が所属していたサークルは、ただの飲みサークル。
そのサークルに、『噂のお姫様』が入ってきたのは、確か大学2年の夏も半ば頃だった。
「誰が勧誘したんだ?」
「知らね。男の誰かじゃねぇの?確かに、可愛いし。可愛い子は多い方が、飲んでて楽しいしな。」
”俺も声かけてこよっかな~。”などと言いながらフラフラと『お姫様』に近づいていく仲間から離れ、俺は当時の彼女と他の仲間と共に、先に集合場所の店へと向かった。
「ショウくん、て言うんだよね。よろしくね。」
飲み会が始まって1時間くらい経った頃だっただろうか。
気付くと、『お姫様』が俺の隣に座っていた。
「あ、あぁ。」
いつの間にか向かいの席に移動していた彼女が目ざとく気付き、不機嫌そうな顔を見せる。
彼女は少し、嫉妬心が強い。たまに、面倒になるくらいに。
気付かないフリをして、俺は『お姫様』に目を向けた。
「つーか、いきなり下の名前で呼ぶ?」
「えっ?」
「初対面だよな。ちょっと、馴れ馴れしくないか?」
「そうかな。せっかく同じサークルに入ったんだし、初対面の人の懐に飛び込むには馴れ馴れしい方がいいかと思ったんだけど。」
悪びれもせずに、『お姫様』はペロリと舌を出す。
可愛い・・・のかもしれない。この仕草は。
だが、俺はこの手の女は苦手だ。
「悪いけど、俺、馴れ馴れしい女は好きじゃない。」
「別に好きになってもらいたい訳じゃないけど。私、彼氏いるし。」
俺の言葉が癇に障ったらしい。『お姫様』の顔から、愛想笑いが消えた。
「もしかして、声かけてくる女がみんな、自分に気があるとか思ってるタイプ?」
口元だけに笑みを浮かべ、冷ややかな目で俺を直視する。
「大丈夫。私もそういう男、好きじゃないから。」
”ミカー!こっち来いよ!”
少し離れた席から声がかかり、『お姫様』は立ち上がった。
「お邪魔しました。」
硬い声で言うと、すぐにまた笑顔を貼り付け、『お姫様』は呼ばれた方へと顔を向ける。
「うん、今行くー!」
(・・・・二重人格なのか、こいつ?!)
パタパタと小走りに遠のく『お姫様』をしばし呆然と眺めて。
(変な奴。)
軽く頭を振り、向かいの席の彼女を隣に呼ぶ。
「何話してたの?」
ソッコーで聞いてくるってことは、よっぽどヤキモキしていたんだろう。
そんなところは、可愛いんだが。
「別に。あいつ、変な奴だな。」
「何それ。」
彼女は予想通り少し不機嫌で。
(・・・めんどくせ。)
そうは思いながらも、俺は彼女の肩に手をまわして引き寄せ、耳元で囁いた。
「なぁ、もうそろそろ抜けようぜ。」
「・・・もぅ。」
酒のせいでほんのり染まった頬が、さらに色を増す。
いつもならもう、この時点で俺の考える事なんてたったひとつだけ。
だが、この時はなぜだか、あの『お姫様』の冷ややかな目が俺の頭から消える事は無かった。
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