2話:伝承者2

―――――



 なんだ、この娘は……

 俺の【摂理プロビデンス】、“無条件服従の伝承フォークロア”が利かない、だと?

 有り得ない。有り得ん事が起こっている。

 娘の従者共には、いつも通り当然、利いている。俺の言葉通り、その指図通り動くべく、次の言葉を待っている――俺のめいを。

 だのに、この娘は、その少女は、正気。いいや、寧ろ狂気。

 その心を捕らえてない。意志を奪えてない。俺の言葉に応えていない。

 支配できていない!!


 以外に、まさか俺の“摂理”が通用しない者がこの世に存在するとは思ってもみなかった。

 思いも寄らない事態に無論、衝撃を受けはしたものの、だからと云ってふさぎ込む程落ち込みもせず、あわてる程焦ってもいない。

 確かに多少驚きはしたが、寧ろ、興味深い。

 伝承を使ったのは、それが最も手っ取り早いからに過ぎない。

 俺自身、そして、標的も含め、無駄な時間の浪費を抑え、余計な考えを巡らす必要性をなくす。故に効率的。

 そんな優れた生産性を、いとも容易たやすく打ち破ったのだ。少しばかり、面倒に付き合ってもらうとするか、嬢ちゃん。


 左目の時辰儀じしんぎを頂点にリセット。摂理を解く。

 示指ひとさしゆびを軽く曲げ、第二関節を甘噛むように口に含む。

 ――フィーッッッ!


 甲高い指笛の響きに呼応するかのように、辺り一面、異国の装束をまとった物騒な連中が次々と姿を現す。岩陰から、木陰から、地面から、沼から、枝の上、灌木の合間、背後から横から、あらゆる場所から。10人、20人、30人、いや、50人、100人……いや、もっとだ!

 村、違う、街。街並みを作り上げる程の人群れ、それは最早、集落。一体、今迄どこに隠れていたんだ、という程の規模。

 膨大な人波が、息を殺し、気取けどらせず、潜んでいた。

 その事実だけでも驚異。


 服従の術式が解かれ、我に戻っていた従者が驚嘆し、叫ぶ。

「な、何者だ、お前達はっ!!?」


トムライ!」

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吐き気を催す程の邪悪に立ち向かう非道なる覇王は相対的に英雄たり得るのだろうか? 武論斗 @marianoel

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