第6話 幼馴染 兼 生徒会長

俺には幼馴染がいる。今は亡き母と昔から仲が良かった、いわゆるママ友がいて、その娘が俺の幼馴染であるわけだ。


幼馴染は友達よりもなにか深い関係で、かといって家族よりかは遠慮気味というのが一般的かと思う(俺は家族とも遠慮気味である)。


深い関係で長い間共にいると、その、幼馴染の変化というのは顕著に感じるものだ。実際、俺の幼馴染も変化していき、俺はその過程を、定期的に観察していた。


俺の幼馴染を松平まつだいら 明乃あけのという。

昔からなにをやらせてもダメなやつで、弱虫の泣き虫だったが、あれは確か俺の母が亡くなった頃、即ち小学5年生の頃、急に泣き虫ではなくなり、気が強く、偉そうな口を聞くことになった。

短かった髪も長く伸ばし、急に女っ気を増していった明乃は、自信をつけたのか、今や、気づけば俺になにかと命令するようになっている。


現在、俺の通う高校の生徒会長をしている明乃。

朝の「挨拶運動」とやらにも毎日参加している。


対照的に俺は、母が亡くなった頃から卑屈になっていったように思う。喪失感、というか虚無感。それを隠すために取り繕うようになり、脳内では人の陰口を考えて、インスタントな快楽に浸る、性格偏差値Gランクのクズになっていった。

今現在に至るまで、俺には親友と呼べる存在に出会った試しがなく、また、作りたいとも思わない。

「何もいらない」。それが俺の根底に潜むものだ。


そうは言っても人間、何もしないなど不可能だ。

「挨拶運動」に毎日通う明乃は論外としても、俺のような人生観的怠惰な人間にさえ、最低限の行動はしている(俺のような人間と比べられて、明乃はさぞかしうんざりだろう)。


つまり、何が言いたいかと言うと、相対的に見ても、全体的に見ても、松平明乃は「何かする」に関して度を抜いているということだ。



「おはようございます」


「「おはようございます」」


「おはようございます」


「「おはようございます」」


毎朝毎朝、校門前では生徒会長、風紀委員会が挨拶運動をしている。

中でも生徒会長は率先して挨拶、指導を行っており、生徒間でも評判だ。


「おはようございます」


「あ、おはようございます」


幼馴染に面と向かって挨拶するのが恥ずかしい。高校生になれば尚更だ。

しかし以前、俺が適当な挨拶をした際は、こっぴどく怒られたものだ。そういうリスクを減らすために恥を捨ててでも挨拶をしているというわけ。

しかし…


「新島くん、ネクタイが曲がっているわよ」


この生徒会長、松平明乃は毎日毎朝俺の粗探しをしては注意をするのだ。


「…曲がってないって」


「曲がってるんだってば。大人しく締め直させなさいよ」


明乃は、『ぐい』と身を寄せるとネクタイを一度ほどき、慣れた手つきで結び直す。なお、ネクタイを結びなれているのは、単純に俺がネクタイ直しを何度も食らっているからである。しかし、この体制は明乃の『たわわ』が俺の胸下に当たってなかなかに悩ましい。


「なに、あなた顔色も悪いわよ?…朝ご飯、ちゃんと食べてるのかしら」


「あー、いや。時間なくて。今日だけだから」


「齋、あなたもう高校2年生よ?朝ご飯くらいちゃんとしなきゃダメじゃない。お父さん、また帰ってきてないの?」


「また、っていうか…。あの人が帰ってこないのはいつものことだろ」


「…そうね。昼晩もいつも通りコンビニ?」


「いや、自炊始めたんだ。今日の夜はカレー」


「あら、すごいじゃない。…もちろん、レトルトじゃないわよねぇ?」


「…」


「まったく…。今日、家行くから。チャイム鳴らしたら出てくるのよ?」


「いや、いいって。迷惑だろうし」


「行くって言ったら行くの」


面倒だな。

だが、逆に断っても機嫌を損ねるだけだ。

今日のところは我慢するとしよう。


「わかった。ありがとう」


「ん。ちゃんと待ってるのよ」


こうして俺の夕方からの予定は明乃に占領されることとなった。

まぁ、家も近い。夕食を取ったらすぐ帰ってもらうとしよう。



あれって新島くんと、生徒会長の松平さん…?

また何か話をしてる。


私とはあんな感じじゃないのに…。

それにあの松平さんの顔。男の子に媚びる女の子の顔をしてる。きっと考えていることは私と一緒だ。


悔しい。

私だって、新島くんとああやってくっついて色々したいのに…。


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星3が増えて嬉しい。いい感じのレビューを誰か書いて欲しいですね。


読者アニキたちは幼馴染生徒会長は好きかな?

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