第5話 ルカの変化

しばらくして、地震が止んだ。

余震の可能性も鑑みて、部屋の中央に移動した。


「…あっ。…離しなさいよ、バカ」


「悪い」


とにかく、ルカに怪我がなくてよかった。

もし障害などが残ろうものなら、非難されるのは俺だ。それだけはごめんだ。


『離れなさいよ』。そう言ったのにもかかわらず、俺の服の裾をずっと摘んでいる。


「おい、お前こそ離せよ。服が伸びんだろ」


「んぁっ。え、でも。まだ地震来るかもだし…」


「んなこと言われてもな」


さっきから腕が痛いんだよ。誰かさんを庇ったせいで右腕に激痛が走っている。服を引っ張られるたびに変な汗すら出てくる。


「えっ、あ、ちょっとアンタ。それ血、出てる…」


気づくの遅すぎ。

いったい誰のおかげで無傷だと思っているんだ。


「ん?あぁ」


「アタシのこと、守ってくれた…の…?」


「あぁ、別に。ケガされちゃ、都合が悪いしな」


「そっ、そう………………ありがと///」


そう言って、頬を染めるルカ。


「気にしなくて良いよ。今日限りの付き合いなんだし」


「えっ……あ」


そうだ。

今日限りだ。俺にはこんなわがまま女、身に余る。親の決まりなら我慢だが、こいつのわがままで開かれた見合いだ。はっきり言ってどうでもいい。


「ほら、立てる?廊下に出よう」


「あ、えぇ……あれ」


「ん?」


「……………腰、抜けちゃった」


…はぁ。


「ん、手、伸ばして。おぶるから」


「ん。…ありがと。アンタ、いいトコあるのね///」


「いや、そうでもないさ」


本当に、そんなことはない。親の機嫌が取れれば、後はなんでもいいからな。


そっとおぶると、彼女の軽さに驚く。

女なんて妹や幼馴染しかおぶったことはないが、この年齢の女はこんなに軽いのか…。


持ち上げると「んっ」とルカがつぶやく。

尻を触ると怒号が飛びそうなのでなるべく膝に近い場所を抱える。


「…あの」


「ん?なに…?」


「あっ、いや…。アンタのこと、『いつき』って、呼んでもいいかしら」


「あぁ。お前の好きなように呼べばいいから」


「っ。…うん、い、つき……っ!❤︎///」


心なし、声色が変わった気がする。

柔らかいというか、緩やかというか、女の考えていることはよくわからないな。

そういえば天川由良も男と話す時はこんな感じだ。もしかしたらあいつも、人によっては声色を変えているのかもしれない。おそろしいな。


「齋」


廊下を歩いていると、奥から人影が。


「…父さん」


名前を呼ばれたのはいつぶりだろうか。なんとも思っていないはずなのに、名前を呼ばれたことに、どこか喜んでいる自分がいる。

それが腹立たしい。


「「ルカ…!!」」


ついで花谷夫妻が走り出てきた。

ルカの地震恐怖症を知っているのか、すごい慌てようだ。

そろそろ右腕が限界だ。

花谷父に代わってもらおう、俺より筋肉質だし。


「イツキクン!ウチの娘をありがとうネ!恩に着るヨ!!」


「…はぁ」


「ありがとうねぇ、齋くん♪…まぁ、腕を怪我してるわ。介抱してあげるからおいでなさい?」


続いて花谷母、弓美さんだ。

「ほら、パパ?」といって、ルカのおんぶを代わるよう、花谷父、レインさんに促す。レインさんはニコニコ顔で俺からルカを担いでくれた。


「あっ、ママ?いっ、齋の治療は、アタシがやるから!…パパ、齋の隣まで連れてって!!」


レインさんは大声で返事をし、俺の後に続く。弓美さんは「あらあら〜」などと言いながら見守っている。



「ほっ、ほら。上の服、脱ぎなさいよ!」


「…いや、別に一人でできるって」


「だめよ、怪我人が意地張らないで。ほら、ほらっ!」


だめだな。これは脱ぐしかない。

そう決意した俺はゆっくりとシャツを脱いだ。


「あっ…」


「…?なんだよ」


「うぁ、あ。…何もないわよ!」


顔を真っ赤にするルカ。


「この子ったら。男の人の裸を見たのはこれが初めてなのよ〜。初々しいわねぇ〜」


「ちょっとママ!あっちいっててよぉ!」


「うぅ、ルカ。パパ以外の男の子に触れてマス…!大人になりましたネ…」


「っ!!パパぁ〜!」





その後、なんやかんや包帯を巻いてもらい、見合いは終了した。

交際は中止、ということをルカから伝えることはなかったが、俺から父に言うのも気まずいので、保留という形になった。


帰りにルカが言った「…また、会いましょぅ…」という言葉と、笑顔には天川と似た何かがあったが、その表情はすぐ忘れてしまった。しかし、花谷ルカの、この穢れない笑顔は、最初で最後のものとなる。


_________________________________________


見ていただいてありがとうございます。

読者アニキたちはどんな性格の女の子が好きかな?コメントで是非教えてね。(ストーリーに参照しても、結局メス堕ちヤンデレヒロインになるんですけどね…)


レビューと星3、いっぱいくださーーい。もっと広めてほしい



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る