第4話 きっかけ
見合いは単純に進んだが、途中からは父親同士の商談に入ってしまった。
相手の母親である弓美さんは、俺と見合い相手であるルカに、別室へ行くよう手配してくれた。
この部屋まで案内をしてくれた女将さんにまた違う部屋を案内してもらう。
女将さんの後に続く俺とルカは歩幅が合わないまま、無言で個室に入った。
二人が入った部屋は、明かりこそあるものの薄暗く、少し陰湿な雰囲気を纏っていた。
電球を覆うランプシェードが桜色の千代紙でできていて、漏れる光もその色になる。即ち、ピンク色の薄暗い部屋だ。
俺とルカは、最初の自己紹介以外、一言も話していない。父同士の会話に相槌を打ったりしていただけだ。
横を見下げると、ルカが気まずそうにスカートの裾を握っている。
「っ…。なによ…」
俺の視線に気づいたのか睨んできた。
さっきは『オホホホホ』と談笑していたくせに、これがこいつの本性か。
「…いや。結婚とはいっても所詮は形だけ。時間を潰すだけなんだから緊張しなくてもいいよ」
「は、ハァ!?」
俺がそう言うと、ルカは激昂した。
なにか、俺の言ったことが間違っていたのだろうか。
「アンタねぇ、ワタシのことなんだと思ってるの!?」
「…は?なんだよ。なに怒ってんだ。ただの結婚相手だろ?」
「ただの…じゃないわよ!結婚するってことはアンタは生涯の伴侶になるのよ!?」
「あぁ。でも親が決めた相手だろ?」
「ハァ!?そんなわけないでしょ!親が勝手に決めるなんていいわけないじゃない!」
訳がわからない。俺は二週間前、父から『再来週の土曜の夜、見合い』とだけ伝えられていた、メールで。
さらに両父は商談を行っていた。
となればこれは政略結婚ではないか。
だがしかし、花谷ルカの『親が勝手に決めるなんていいわけない』という言葉はそれに矛盾している。
「じゃあ逆に、お前は俺のことなんだと思ってんだよ」
「そ、それは…。結婚相手…予定の人、よ//」
「俺を見合い相手に選んだのは、お前か?」
「…」
無言で『コクッ』と頷くルカ。
「なんで…。俺のことなんも知らないだろ」
「それはっ。そうだけど…」
「いったい俺のどこを見て結婚相手に選んだ?」
「それは。…………顔よ」
顔…。
「かっ、勘違いしないでよね!?別に顔目当てってわけじゃないんだから!」
いや、顔目当てだろ、それは。顔で結婚相手を選ぶのは十分な面食い女だ。
「ただ、恋愛なんてしたことないから…。ほら、私って女学に通ってるじゃない?」
「そうなのか」
「っ…!!さっき話してたじゃない!聞いてなかったわけ!?」
「…ごめん」
「…まぁいいわ。それで、ワタシ、男の人との出会いがないのよ。で、なにもわからないなら客観的な情報から選ぶしかないじゃない?そこでね、パパに情報を集めてもらったのよ。顔が良くて、なんでもできて、お金持ち。ワタシに見合う殿方をね」
「それで、俺ってわけか」
「そ。許嫁になってから育む恋も、あってもいいでしょ?」
つまりは、この見合いは花谷ルカのためのもので、商談はたまたま、ついでだった…と。
「でも期待外れね。アンタ、性格が論外よ。お見合い相手へのリスペクトがまるで足りないわ!」
「いや、そもそも俺は政略結婚だと思ってたから」
「政略結婚なら手を抜くの?サイテー!」
はぁ、だめだこいつ。人を一度否定したら、し尽くすタイプだ。聞き流そう。
…
そこからルカの説教は続いた。
俺の人生観を根底から否定されているようだったが、言っていることはあながち間違いではなかったので、タチが悪かった。
ルカは俺に期待していたのだろう。途中からは涙を浮かべて説教をした。
怒って、怒って、起こり尽くして、ついに言葉が尽きた。
「…そろそろ戻りましょ。今回の話は、ナシってことで」
そう言って立ち上がった時だ。
『ガタンッ!!』
部屋の棚やランプが大きく揺れた。
地震か。それもかなり大きい。震度4〜5弱程だ。
立つことが困難で膝をついてしまう。
「い、いゃ…。助けてぇ…!」
ルカは地震が苦手なのだろうか。身体を腕で抱き、絶望するように呟いた。
「おっ、おい。そんなに棚の近くにいたら危ないぞ。こっちにこい!」
「む、無理よ!!足が動かないの!」
そして、俺の予想通り、棚の近くはとても危ない状態であった。
ガタガタと揺れる棚の天井は瓶がグラリグラリと落ちそうになっており…。
ちょうどルカの頭上に落ちる。瓶が頭に落ちれば怪我どころでは済まないだろう。最悪の場合、死ぬこともあり得る。
「…っ!!」
その時俺は…
ルカに覆い被さった。
『バリンッ!!』と音がし、右腕に鋭い痛みが生じた。
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