第3話 見合いと許嫁

父と二人で見合い会場まで来た。

日本有数のお高い懐石料理店で、着物姿の女性二人が父と俺の荷物を預かり、スタスタと道を案内してくれる。


「粗相はするなよ」


今日、父が俺に話しかけたのは、この一言だ。

父は大学3年で起業し、その後、新たに外資関係の会社を設立。都市計画、輸送業、食品、家庭用品など様々な分野に手をつけていき、一代目にして超一流企業に育て上げた『やり手』だ。

そして俺は、その息子。跡取りとして英才教育を施され、父の敷いたレールの上を歩く、父の傀儡だ。


今日は、見合いだ。

見合い相手は父の取引相手。まぁ、政略結婚だ。

父の金で育ててもらったので、結婚相手が決められていようが、別に構わない。

ただ、父がたまに見せる意地汚さが気に食わない。

昔は父が好きだった。孤高で、しかし、俺を見てくれる、そんな父を好んでいた。

嫌いになったきっかけは、まぁ、いろいろあるがここではやめておこう。


とにかく俺は今日、父と、ビックな取引先との交渉をうまく進めるために相手方の娘と見合いをする。


廊下を渡ると、だんだん奥の部屋から聞こえる声が鮮明になっていく。

男性、は父親だろうか。低い声で英語を話している。外国人なのだろう。『君の見合い相手はナイスガイだそうだよ?よかったじゃないか。パパは安心だよ、はっはっはっはっ』と言っている。


「こちらになります」


と案内してくださった女将さんに軽く会釈し、襖の前に立つ。父は遠い、光のない眼差しで、前を見ている。


この中に、俺の結婚相手…となるかもしれない人がいる。できれば静かで、俺に文句を言わず、無関心なヤツならいいが…。



襖が空いた。父と揃って会釈し、ゆっくりと席まで歩く。


「お久しぶりです。レインさん。今日はよろしくお願いいたします」


父がそう言った。

するとレインさん、と呼ばれた男(見合い相手の父である)が威勢よく答える。


「久しぶりデスネ!空いたかったですヨー!…oh君が息子さんのイツキくんデスカ?写真で見るよりもナイスガイデスネ!」


「初めまして。新島 齋と申します。本日は、よろしくお願い致します」


「ヨロシク!!あ、ほら、こちらも挨拶をしないト…。弓美、ルカ、挨拶をしまショウ」


レインさんがそう言うと、隣の女性二人が立ち上がった。


「初めまして。花谷はなや 弓美ゆみと言います。ヨロシクね、齋くん?」


一人目は母親。弓美さん。お淑やかで綺麗な人だ。色々大きい。整った目尻をスッと細めて慈愛に満ちた表情で俺を見つめている。


「ほらルカ、貴女も挨拶なさい?」


花谷弓美は真ん中にいる女性、というか少女を優しく撫でながら呟いた。


「花谷 ルカです。本日はよろしくお願いいたします」


二人目は俺の婚約相手…予定のルカ。母親とは対照的にキツそうな性格だ。西洋と日本のハーフということで、人形のように整った顔をしている。サイドテールで括られた金髪はキラリと光を反射して靡いている。


これが、俺と花谷ルカとのファーストコンタクトだ。この出会いが色々な縁を巻き込み、非常に厄介な事件へともつれ込むのだが…それはおいおい話すとしよう。


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