スニーカー

シュタ・カリーナ

走れ

 スニーカー――それは運動靴。


 スニーカー――それは人を走らせるもの。


 スニーカー――それは、子供の翼。


 ◇◇◇


 今日は雲一つない晴天。花が散り緑色となった桜。暑くはなく、寒くはない心地よい暖かさ。それは5月。多くの小学校では運動会が開かれる、そんな時期。

 そしてとある小学校では待ってましたとばかりに運動会が開かれていた。片田舎の決して大きくはない小学校だ。児童数も少ない。だけれども観客席の保護者たちは熱気に包まれていた。


 ザワザワと観客席が騒がしい中、5人の児童がそれぞれ自分のスニーカーの紐をぎゅっと締める。軽く準備運動をする。それはもう、今から始まる競技にやる気満々な様子だ。

 そしてザザッとマイクの入る音がしてアナウンスが鳴る。


『プログラム10番、6年生による徒競走「走れ走れ、どこまでも」です』


 徒競走――それはただ走る。誰よりも速く走る。そんな競技。

 6年の児童らはこれが最後の運動会、これが最後の個人種目とあって児童らのやる気は満ち満ちていた。そしてその保護者たちも児童たちと同じぐらいに、いやそれ以上にやる気に満ち溢れていた。


 第一走者がスタートラインに立つ。先生がピストルを構える。児童はクラウチングスタートで構える。

 そして――。


パンッ!!


 5人の児童は一斉に地を蹴り上げて走り出す。

 地を強く踏みしめる。

 地を強く蹴り上げる。

 砂埃が舞う。


 6年生の徒競走はコースを半周と少ししてゴールだ。

 5人はコーナーを曲り後は一直線。

 体を前に、足を前に、腕を前に。


――いけー!!

――頑張れー!!


 保護者たちの応援が児童の背中を押す。

 そして、先頭がロープを切った。少し遅れて残りがゴールする。一位だった児童は手を空に掲げて喜びを表している。


 そして第二走者がスタートする。

 観客席は再び盛り上がる。

 応援が児童の力となって、走る。速く走る。

 彼らのスニーカーは地を蹴り上げて、子供の翼となる。速く速く、もっと速く。

 そして第二走者がゴールする。


 喜ぶ者、悔しがる者、まあまあかと満足する者。

 スニーカーは彼らに笑顔を与える。


 そして第三走者、第四走者と続き、いよいよ最後の走者となる。四人がスタートラインに立つ。彼らは6年の中でも特に足が速い子供たちだ。誰が最も速いのか、これで決まる。

 パンッ、とピストルが鳴る。

 児童は地を思いっきり蹴り、走る、走る、ただ走る、少しでも速く、走れ。

 コーナーに差し掛かり外側の児童が内側に入る。まだ決着はわからない。

 最後の直線だ。保護者たちの盛り上がりはピークを迎える。頑張れ、いけ、走れ、その応援は子供の力となる。

 そして――


「っしゃあああぁぁぁぁぁ!!!!」


 ――ゴールする。

 一位だった少年は勝鬨をあげる。惜しくも二位だった少年は非常に悔しがる。あと少しだった。もう一歩、あと一歩先に出ていれば……。しかし彼は負けを認め、一位の少年にただ「おめでとう」と一言。彼もまた少年に「お前もすげえ速かったぜ」と返す。二人は実に良いライバルだ。

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