04 : Be Proud - 02
魔獣を狩る為には魔力を込めた武器が必要だ。魔力を持った鍛冶師に武器を精錬してもらうか、魔術を使えるものに術式を付与してもらうかのどちらかが最低条件で、それ以外の方法で魔獣と戦えたという前例はシジェド王国が始まって以来三百年の歴史を辿っても一つもない。
今日にしてもそうだ。リアムは魔力を持たないが、魔力を帯びた害獣と対峙出来た。それはひとえにサイラスの補助魔術があったからこその結果だ。リアムもそのことは理解しているだろう。だから、彼はサイラスの助力を乞うて学院の研究室まで来た。
魔術師の知り合いはいないのか、と軽口でリアムに問うたことがある。
淡白な彼らしくなく、妙に口ごもって、結局「お前がいるからいいだろ」と言って口を噤んでしまった。だから、触れられたくないのだろう、と思って今の今までリアムに干渉したことはないが、ことはソラネンの治安に関わる。
もし、魔獣を狩るなどという事態になるのであればリアムの戦力は当然必要になるだろう。
言外に緊急事態を告げるとリアムの顔色が変わった。
ただ、彼が何かの返答を寄越すよりも早く口を挟んだものがいる。
その声にサイラスは自らの失態を知った。ここはまだ騎士ギルドの正面だ。
「トライスター、聞き捨てならんぞ。貴様、我らソラネン騎士ギルドが脆弱であるかのような物言い、非常に不快である」
「私は別にお前には何の相談もしていないだろう」
口を挟んできたのは騎士ギルドにおいて最もサイラスに敵愾心を抱いているシキ=Nマクニールという若者だった。マクニールは勲功爵家であり、シキの父親がその功績を評価され一代限りの貴族の地位を手に入れた。一代限りの勲功だから、当然、シキは爵位を持たない。シキ本人が何らかの勲功を得なければ父親の死後、平民に戻ることが確定している。焦りもあるだろう。子爵家の生まれであるサイラスのことを妬んでいるのも知っている。
だから、シキの言動は始終風当たりが強い。
「逃げるのか腰抜け。これだから学者などというのは卑怯千万この上ないのだ! 傭兵風情の手を借りんでも我らは魔獣と戦える。至急討伐隊を招集するゆえ、貴様は魔獣の住処を我らに示せ」
「だからお前たち騎士は頭がおかしいと言うのだ」
「三年連続三科目満点の天才にはわからずともよい。ソラネンを守っているのは我ら騎士ギルドであるのだからな」
理想に燃えるある意味において非常に正しい青年の在り方だ。正義感があり、責任感があり、使命感がある。そんなものを一々全部持ち合わせているのでは生きづらいだろうにシキは律儀にそれらと向き合っている。褒めるべきなのだろう。それでも、サイラスは溜息を吐くに留まった。
「マクニール。私は騎士ギルドのお前たちに魔獣の住処を教えることは絶対にない。絶対に、だ」
「馬鹿を言うな、トライスター。貴様、よもや自らの功績を最優先するが為にソラネンの危機を見逃すとでも言うのではあるまいな」
「危機などない」
「あるではないか」
「ない。お前たちが思っているようなことは一切ない」
一刻も早く魔獣を討伐しなければ人々の安全が脅かされる、だとか、人喰いの魔獣である、だとか言うのならサイラスはもっと気を揉んだがことはそうではない。危険要素など殆どない、ただ魔力を帯びているだけの悪意ない魔獣に刃を振りかざすのはヒトの傲慢だ。
お互いに害意がないのなら共存という道も選びうるだろう。
その可能性を端から棄てて過剰に自己防衛をする権利がある筈もない。
だから、サイラスは騎士ギルドに魔獣の報告をしない、と告げるとシキは怒り心頭といった様子で憤慨していたが最終的に頑としてサイラスが口を割らないことを察したらしい。魔術師ギルドに掛け合う、と言って自らのギルドの中へと戻っていった。
サイラスは溜息を一つ零しながら、シキが乱暴に押し開けて消えた木戸がゆらゆらと揺れているのを見た。リアムが苦笑いの表情でサイラスの肩を叩く。
「セイ、大丈夫なのか?」
「今日明日どうなることでもない。魔術師ギルドへ報告はするが、向こうも人手や輝石が無限にあるわけではないだろう。私もその間に優先順位の整理でもするしかあるまい」
「研究熱心なのはいいけど、無理はするなよ?」
「それはお前も同じだろう。全く。地下水道から上がるときにはきちんと中和剤を使えと何度言わせるのだ、リアム。魔力を持たないお前のような人種は魔力を受けた後、中和剤を飲まなければお前以外の全員が迷惑を被るのだが」
サイラスのように自らの魔力があるものは、外部から受ける魔力を自然中和することが出来るが、リアムにはそれが出来ない。中和剤を飲まずにリアムがソラネンの街中を歩く、ということはサイラスが付与した術式の魔力、害獣たちに触れた魔力を街中にばらまいて歩いているも同然だ。
リアム本人は魔力による干渉を受けないから自覚がない。自覚がないというのが一番面倒だ。
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