あの頃何してた?恋してた

北条秋月

第1話あの頃何してた?恋してた(梗概)

東京郊外に住む中学3年生の滝沢未来は

おさ馴染みから誘われ、小学校から始めたサッカーに夢中になる毎日を送っていた。

「来週、奥沢中学と練習試合か」

未来は呟き、窓の外を眺めていた。

「…らい、未来」

外を見ながら考え事をしていた未来の肩を、突然つかみ話しかける人物が現れた。

「なんだ瞬か。どうした?」

未来をサッカー部に誘った戸崎瞬だった

「なんだはないだろ未来。小3の時に転向した来たお前とずっと同じクラスの俺に向かって」

「ああ、いやわるい。もうすぐ卒業だなと思ってさ」

慌ただしい足音とともに、勢いよく戸を開けて入ってくるものがいた。

「未来君、瞬君、もうすぐ部のミーティング始まるよ。早く行かないと」

少し小太りな体型の彼の名は、和田太一。

彼は中学校になってからの付き合いで、彼も瞬の誘いでサッカー部に入った。ポジションはキーパーをしている。

「あ、忘れてた。瞬、ぼーっとしてる場合じゃないよ。行くぞ」

「いや、ぼーっとしてたんお前だし。てか、太一。汗かきすぎ」





彼女を欲しくもなく、作る来もない俺は

ある日、クラスの女多人数に囲まれ

口々に「この中からあなたの彼女を選んで」と言われる

そんな気もないのに、自分が好きでもないものと付き合う気はない。

そうきっぱり断り、それ以来学校の女子とは距離をおくことに。

そんな時、隣の学区の学校の地主の金持ち美しいの娘を見かける。

人目でその娘に夢中になってしまう俺。

だが、クラスの女に彼女を今は作る気はない。と言った手前、告白などするわけにはいかず、それよりも、むこうが自分の事など見てくれるわけがない。セレブの家庭で育った行儀の良い、見るからに高貴な空気を纏った娘、高杉蒼空と、下町育ち丸出しの、しかも、母子家庭で母親は水商売で男にだらしない。自分には、同じような環境で育った学校の女達の方が合っている。

そう思い込んでしまい、その思いに背を向けてしまう。

そんなとき、サッカーの練習試合で、高杉蒼空がいる学校に行くことになる未来。

その練習試合が終わり、未来達が引き上げようとするなかで、二人組の女の子が未来のもとへやってきて、「高杉があなたの事を好きみたい」と、伝えられ一気に舞い上がる未来。校舎の窓からこちらを見ていた高杉蒼空と未来は目が合い、頬を赤らめ窓から引っ込む高杉蒼空を見て未来は、「この人が、自分の将来の伴侶になる人だ」と勝手に確信してしまう。

その日から、寝ても覚めても高杉蒼空の事が頭から離れず、とある日に、チームメイトの戸崎瞬、河名太一と共に高杉蒼空の居る学校へ自分の気持ちを伝えようと向かう。そこには、高杉蒼空はいなくて、この前練習試合したサッカー部のものに、高杉蒼空は丘の上の白い屋敷に住んでいると聞かされる。

屋敷に着くと、あまりの豪邸を目の前に、なかなか呼び鈴を押せずに家ノ前をうろうろしてしまう三人。

そうこうしてるうちに、使用人に不振がられ向こうにいけと怒られる。

綺麗なピアノの音色が聞こえ、屋敷の窓越しに高杉蒼空の顔が見える。

横顔が見え、未来の胸は更に高鳴るが、再度使用人に怒鳴られ、しぶしぶ去ってしまう。その様子に気づいた高杉蒼空は、ピアノの練習を辞めて、玄関口に走っていくが、すでに遠くへ歩く未来の後ろ姿を見ている。急に外に走り出た蒼空を、母親と使用人が心配して駆け寄るが、蒼空は笑みを浮かべ「なんでもない」と言った感じの素振りを見せ、家の中へ入る。会って喋れはしなかったが、未来が自分にわざわざ会いに来てくれたのが嬉しかったらしい。

それから二、三日後の事だった。未来のもとへあのときの二人組の女子がやって来て、高杉蒼空が近いうちに転向すると聞かされる。あまりのショックに、なにも手につかなくなる未来。

今まで、サッカー以外の事に興味が持てず、周りの皆が彼氏彼女と騒いでいても

冷めていた自分が、こんなにも異性にときめいたことに驚き、そして、そんな夢のような甘酸っぱい気持ちにさせた高杉蒼空は、自分の将来の伴侶だと夢にまで見ていた相手。

一気に現実に戻され、落ち込み塞ぎ混んでしまう未来に、告白を試みたクラスの女子達が、再度未来に迫ってきた。

やはり、自分の周りの女子達には全く興味が持てず、そのタイミングに「女なんか、適当なん選んどけば良いんだよ」と、母親の店の客の男に言われるが、自分の目に写る母親とその男の姿が、自分と自分の周りの女子達の将来の姿のように見えて、未来は我慢できずに家を飛び出して高杉蒼空のもとへ向かう。

使用人に怒鳴られようが、住む世界が違おうが、今の自分の気持ちを正直に伝えよう。そう決心して未来は全速力で走る。

案の定、玄関先で使用人に止められるが、未来は大声で叫んだ。

「蒼空!お前の事が好きだ!」

使用人達と押し問答のなかで叫んでは見たが、もう、その家には蒼空は居なかった。

肩を落として膝をついて涙を流す未来に、「つい昨日、お嬢様は旦那様の意向で、神戸の一貫性の学校に行かせるために引っ越された」そう言って、使用人は高杉蒼空から預かった手紙を未来に渡した。

手紙の内容は、「ピアノや習い事の毎日を自分は送っていて、将来に何の疑いも持たず、平穏としていたある日。自分達の学校に練習試合で来ていた未来を見て、真っ直ぐで輝いた目をしてボールを追いかける未来に、かってに思いを寄せてしまい、毎日が夢のように妄想を膨らませていたことが」書かれていた。そして、現在の神戸の住所も。

それを読んだ未来は、なんで別世界に住むような娘に心を奪われたのだろう。とうなだれるが、その手紙の蒼空のメッセージに気づき

「蒼空はと俺は似た者同士なんだ」と思うように。

それと同時に、自分の今の状況は、何の不自由もないが、なにも自由がない。と言う蒼空のメッセージに気づく。

帰ってその事を瞬と一に話す未来。

もうすぐ卒業式。

それが終わった春休みに神戸へ行こう。

と太一と瞬に後押しされ、未来はやる気を取り戻す。

それを聞いた未来のことを好きな女子達は、「あなたはこっちがわの人。絶対に行かせない」と、未来達が神戸の蒼空へ会いに行くのを阻止しようと企てる。

それをなんとか掻い潜る三人だが、女はなんて執念深く恐ろしい生き物なんだ。と、こんな年齢で思ってしまう。これはなんとしても、真実の愛を成就させて自分たちに希望を持たせてほしい。と必死になる瞬と太一。そして、やっとの思いで神戸に住む高杉蒼空の家へ辿り着く。

未来が今日来ることを毎日待ち望んでいた蒼空は、窓から外を見ていて未来達が来たことに気づく。

使用人達の制止を振りほどき、未来のもとへ駆け寄る蒼空を、未来も駆け寄り蒼空をきつく抱き締める。やっと会えた。とみつめあうふたりを、瞬と一や使用人達は静かに見つめていた。「少しだけ屋敷の外で話せないか」と未来は蒼空に言うが、もちろんyesと言ってくれると思っていた未来だが、蒼空の表情は曇り出す。その時、家のなかにいた蒼空の父親が、何の騒ぎだと家の中から出てきた。使用人から事情を聞いた蒼空の父親は、未来のもとへ行き、

蒼空は、生まれつき口が聞けないことを伝える。原因はよくわからず、専門医が常駐する病院がある神戸へ引っ越したことも知る。未来のことも以前から蒼空本人や、使用人から聞いて知っていた蒼空の父親は、この事を知って未来が蒼空に冷めてしまったとき、娘のショックが大きいものになるだろう。そう考えて、卒業式を前にこっちに引っ越したのだといわれる。

険しい表情で未来を見る蒼空の父親と、今にも崩れそうな瞳をする蒼空。

未来は一瞬目を閉じ、そして、大きな声で言った。

「蒼空を少しお借りします!」

清々しい声で蒼空の父親にそう言うと、未来は蒼空の手を強く握り屋敷の外へ走り出す。慌てて瞬と太一も未来を追って走り出し、使用人も追いかけようとするが、蒼空の父親に制止される。

その未来達のやり取りを、少し離れた位置で京香達三人が見ていて、悔しさを滲ませた表情をしていた。

奥沢にある渓流のある小さな森へ、蒼空を連れ出した未来は、少し緊張した様子で自分の首に巻いていたタオルを、木のベンチの上に引いて、蒼空を座らせた。

瞬と太一は、少し離れて様子をうかがうことにした。

「あ、あのさ」

何もかもが初めて尽くしの二人。

蒼空は、自分が口が聞けないことを気にしている様子だったが、「そんな事、気にする必要がない」ときっぱり伝えた。

未来は、そんな事よりもあまりに格差がある自分たちの状況は、これからもっと大人になるにつれ現実的になる。そう考えていた。未来の話を聞いて、蒼空はやっぱり未来は自分の思っていた通りの人だ。とポケットにいつも入れているペンと手帳で筆談で未来に伝えた。

それを聞いていた、瞬と太一も幼馴染みの成長ぶりに驚かされていた。

さらさらの長い黒髪に手をやり「好きだ」未来は蒼空に面と向かって言うことができた。満足な表情を浮かべる未来を、目を潤ませて「私も」と口許を動かした蒼空。

声にならなくても十分わかった。

そんな感動の時間を過ごしている二人の前に、瞬と太一の後ろから京香達が現れた。

「ふん、そんな女が好みなの?」「もし、結婚できたとしても、聾唖の子が生まれたらどうするの?」などと、次々と辛辣なことを浴びせかける京香達に、怒りを通り越して心底あきれ果てる未来。

近くで聞いていた瞬と太一は「お前らいーかげんにしろよ!」と大きな声を張り上げてはたきかかるが、逆に殴り倒されてしまう。京香達は空手の上段者だった。

「現実はそんなに甘くないから」

と未来と蒼空を見下して言う京香も、幼馴染みの未来をずっと側で見ていて、誰よりも未来の事を理解している。これだけ思いを寄せて居る自分こそが、未来の相応しい相手だと。

それを聞いた蒼空は、すぐにペンをとり「あなたは相手の気持ちを考えない、独りよがりの人だ」と強く訴える。

それを見た京香は、「もし付き合えたとしても、口が聞けないあんたといたら、カラオケにも一緒にいけないし、絶対楽しい日々を送れないじゃないの!」と返す。

「お前…」

何かを言おうとした未来を手で制止して、蒼空はまた書いたメモを京香に見せた。

「だとしても私の今のこの気持ちは変わらない!あなたより未来を見ていた時間は少なくても」

それを見て、少し怯んだ京香は唇を噛みしめ蒼空を睨んだ。

蒼空はすかさずまたメモを見せた。

「私は、未来の重荷なるほど弱くない。あなたは必ず未来の重荷になる」

それを読んだ京香は、蒼空に殴りかかろうとするが、未来は間に輪って入り、蒼空の前へ。

「京香、もういいだろ」

その未来の言葉と二人の姿を見て、二人の隙に自分が入ることなどできないと京香は

悟る。

深いため行きを落として、京香は連れを連れてその場を去った。

京香の後ろ姿を見送り、未来達は息を溢して安心感を露にした。

後ろを振り向き蒼空と目を合わすと、二人はクスクス笑いだし、やがて大きく笑いだした。修羅場が終わり安心したのと、蒼空は意外と芯がしっかりしていて、ただのお嬢様じゃなかったということがわかった。

瞬と太一も未来の側に行き、一緒に笑いあった。

その光景を一部始終見ていた蒼空の父親は、娘の成長に自然と顔がほころんでいた。

「ごめんな蒼空。嫌な思いさせて」

そう言った未来に蒼空は首をふって答え、メモの走り書きを見せた。

「大丈夫。私はそんなに弱い女じゃないから」

未来は微笑み、蒼空の手をとり「さて、そろそろ帰ろうか」

と声をかけた。

蒼空の表情は不満げで、まだ帰りたくないと足取りは重いが、そんな蒼空に、蒼空の父親が居ることに気づいていた瞬と太一が、渓流の上を指さして「あっちあっち」と片目を瞑りながらばつが悪そうな顔を見せると、未来と蒼空は、蒼空の父親が居ることを知る。

こちらを見られて、すぐに木の後ろに隠れる蒼空の父親だが、蒼空が不機嫌な顔でこちらを見ているのが見えた。

未来は軽く父親の方に会釈をして、ほら、行くぞ。と言った感じで蒼空を引っ張りまた歩きだした。

屋敷に着くと、使用人は未来に「旦那様がお茶を用意しているので、どうぞ中へお上がりください」と促されるが、「いえ、今日はもう帰ります。ご心配おかけしましたとお伝えください」

一礼してその場を去ろうとする未来。

何かを言いたそうな顔をする蒼空に

「大丈夫。また、いつでも会えるさ」

未来はそう言って、蒼空の頬に手を当てた。

その手に手を当てうなずく蒼空。

二人とも互いを愛しいそうにみつめあうが

不意に近くに瞬と太一と使用人がいることに気づき、素早く手を離し、別れを告げだ。

帰り道を歩きだす三人。

「あーあ、なんでお茶断るんだよ」

「絶対になんか美味しいもの食えたぜ」

などと、ぶうたれる二人を他所に、未来は振り返り大きな声で蒼空に言った。

「蒼空!もっと逞しくなって、また君に会いに来るよ!」

蒼空も、けっこうさきのほうへいった未来に見えるような大きな素振りで返事した。

‘’待ってる〟

蒼空がそう言っているのがはっきりわかった。

未来は手を降り、三人はまるで競争でもするように走り出した。

思春期の頃に、思いがけなく始まった淡い初恋は、この短期間のうちに驚くほど少年少女を成長させて幕を閉じた。

帰りの電車のなかで、瞬と太一は疲れきって寝てしまっていたが、未来の胸は高鳴ったままで、今日の出来事を思い返していた。

蒼空に会ったとき、あまりの家柄の違いに別の世界の人間だと思ったこと。実際に会ってみれば、蒼空は口が聞けなくて、その美しい見た目とは裏腹に、芯がしっかりしていて気がつよい娘なんだということや、どれもこれも未来にとって、愛しいく、眩しい思い出になった。

「ありがとう瞬、太一。一緒に来てくれて」

今日ここに来なければ、自分は多分、適当な女性と付き合うようになり、自分が作った壁をいつまでも越えられずに回り道ばかりを選び、愛しいと思う向こう側を知ろうとはしなかっただろう。

当たり前のようにいつも側にいた幼馴染みに、自分を支えてくれる仲間だったんだと気づかず大人になっていただろう。

そして、いつかあの頃何してたっけ?

恋でもしてたような。とボンヤリおぼろ気に話すだけになっていただろう。

今日、自分に正直に行動出来たことで、この先の自分の道がはっきり見えたよ。

俺は今に流されずに、蒼空を幸せにできる男になって見せる。

そして、必ず蒼空を迎えにいく。おわり





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あの頃何してた?恋してた 北条秋月 @syu-getu

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