第15話

結局、のこのこやってきてしまった私は、どうしようもないアホだと思う。

これから、いよいよ取り返しのつかないことになってしまうのではないだろうか。


新宿駅の東口で、バカみたいに突っ立って、忙しなく行き交う人々を見ながら、私の頭の中は、新宿の人混みよりもゴチャゴチャになっていた。


もしかしたら、藤野さんは来ないかもしれない。

遠くから、私の姿を確認して幻滅し、そっと帰ってしまうかもしれない。

そういう話もマッチングアプリにおいてはよくあるというし。


18時の待ち合わせまであと7分。

よし、1分でも遅刻されたら帰ろう。

せっかく新宿まで来たのだから、何か美味しいものでも食べて帰ろう。

そして、くすぐりフェチという特殊な性癖は、再び自分だけの秘密にしよう。


いい思い出ができた。

これからは、この経験を妄想のネタにしてしばらく楽しめるだろう。

君子危うきに近寄らず、だ。


17時58分。あと2分だ。

あと2分待って来なかったら、私は



「くるみさんですよね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る