第92話 詠史と稜弥の趣味


 お母上様とお父上様との話合いが済み、詠史殿、稜弥様と話しをしようにも……


「どこ行ったのかしら?」



 館内には探しても居ないみたい。



「皆様、瑠璃の海の方へ出掛けられましたよ」




 早月に聞くと、そんな答えが帰って来て。


(皆様?)



「居たわ。確かに皆様ね」



 瑠璃の海の白砂の浜辺にて、湖紗若様となずな、鈴兄上様と瑠璃ちゃま。二手に別れて砂山を作り競い合ってるみたい。



 すごく楽しそうで。そちらの方も気になったけれど……


 詠史殿と稜弥様は…… 探すまでもなく。砂山を作っている四人を真ん中に。右側に詠史殿。左側に稜弥様が。 砂浜に敷物を敷いて座り、それぞれに、何かしら作業をしていて……


 どちらかと言うと、詠史殿の方がゆったりとした雰囲気で作業していたので。





「詠史殿? 何をされてるの?」


 立ったまま覗き込むと。


「絵? 綺麗……」


 思わず感嘆してしまって。



 紙に墨で絵を。 砂浜で遊ぶ湖紗若様と鈴兄上様になずな、瑠璃ちゃまを描いていたの。



「同じ構図の絵だけど色が違うわ」


 詠史殿の左隣に座りながら言うと。



「はい。色の濃淡の違う墨を作って。同じ構図でも、色の濃さや塗り方を変えたらどう見えるかな? と思って。 色々試していたんです。絵を描くのは趣味なんです」



「なるほど…… 色が濃いのは、鈴兄上様の力強さがよく表れてて。淡い色合いの絵は、なずなの儚げな様子が良く描かれている気がするわ。湖紗若様は可愛いわ。瑠璃ちゃまも」


「アハハ。楓禾姫の弟びいき」


「 何か問題でも?」


「いえいえ」



 まぁ、湖紗若様ひいき。なのは認めるわ。


 きっと、詠史殿の技量が凄いのよね。 同じ構図のようでいて。描く際に力を入れて描く人決めて。絵に関しては素人の私が見ても違いが分かるようにって、描き分けてるのよね? 


「 湖紗若に、瑠璃殿。子供の成長を絵姿に残したら、一番変化が分かって面白いんじゃないか? って思うんですよね」


 ほらね。



 絵師だもの。絵は得意よね。他にも、庭師の仕事も、襖の張り替えだって出来るし。 恐ろしく器用で、才能のある人よね。詠史殿って。





 そうなってくると。話し合いの前に……


「稜弥様が、何をされてるか気になるから見てくるわ。少し席を外すわね」



 そう詠史殿に伝えて。





「稜弥様? 何をしているの?」



 立ったまま、稜弥様の手元を覗き込むと。


 紙に、筆にて何かしら書き付けている稜弥様。


「日記?」


 にしては、少し違うような文章。隠す素振りも見せないので、右隣に腰を下して確かめると。


「会話してる?」


「物語風に書いてみたんですよ」



 器用な人ではあるけれど。物語って……


「凄い人ね。稜弥様。何を書いているの?」


 ため息混じりにそう聞くと。



「 今回の外喜の事とか、出来事を分かりやすくまとめて。残したら、 どうだろう? と思いたったんですよ」


「ハァ……趣味なの?」


「はい。楓禾姫様との会話を記したら、 ずっとその事を忘れないし。見返して思い出す事が出来るじゃないですか」



「もう! 冗談は辞めて!」


「ハハハ。 印象に残った出来事を。今日なら、湖紗若様と瑠璃殿はとても楽しそうで。鈴様になずなも童心に帰って楽しそうです。てな感じに、 とても良い思い出が残せると思います」



 稜弥様は、これまでも。きっと正式な桜王家の記録とは違う。稜弥様視点の、物事のあらましを事細かに。分かりやすく残しておいてくれたんじゃないかな? って思うの。


 本当に凄いわ。




 詠史殿も稜弥様も。



 感心し過ぎて。本来の目的を忘れそうになったわ……



 ほっこりしてしまった気分ををもう一度緊張状態に戻しすのは、大変だけど……


 さて……









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