第91話 三人の形

*未のひつじのこく(午後十四時頃)


  -楓菜の方の部屋-


「お母上様。今よろしいですか?」


『どうぞ』


 一人で考えても、悩んでも答えが出なくて。お母上様に話を聞いて欲しくて。お部屋を訪ねたのだけど……


 -ガラリ-



(皆様お揃いで……)


 上座の席に。お母上様を真ん中にして。お父上様は右隣。凛実の方様は左隣に座っておられて。対するように、下座に湖紗若様と、その右隣に座る、瑠璃ちゃまも居て……



「どうした? 座るといい。楓禾姫」


 驚き過ぎて、障子開けたまま固まっていた私にお父上様がおっしゃられて。


(良いのかしら?)


 と言うか。こんな皆が揃っている所で私は話をするの? と思ったんだけど……湖紗若様と瑠璃ちゃまの要件が気になってしまって、湖紗若様の左隣に座ってしまったの。


 好奇心に勝てなくて……



「わたしと ルリ は、けっこん します」


(え?)



「フ、フフフフ」


 お母上様は堪えきれないというように。


「アッハッハハハ!」


 おおっぴらにお父上様は大爆笑して。


「オホホホホ」


 凛実の方様も遠慮がちに。



 三人が笑ったのを見て。


「 わたしたちは ほんきです」


 と。湖紗若様が抗議してる。


「ごめんなさいね。湖紗若。瑠璃と仲良くね」


 お母上様の謝罪と、応援に湖紗若様は満足そうに頷くと。


「フウひめさま それでは おさきに しつれいします」



 瑠璃ちゃまの手を取り、繋ぐと仲良く部屋を出て行ってしまって。



「驚きました。湖紗若様が将来について、あんなに真剣に考えているなんて」



 と言った瞬間。まだ、幼い湖紗若様と瑠璃ちゃまと、話の内容のちぐはぐさに思わず笑ってしまって 。でも小さくても真剣に告白したのだから。 笑ってしまった事を反省していたら。



「楓禾姫も、将来について思う事があって、ここへ来たのよね?」



 さすが、お母上様は気付いて下さってた。



「湖紗若は、真剣なんだ。もう。笑ったりしないよう気を付けねば」


「「そうですね」」


 お父上様も、分かっておられ。反省の弁にお母上様と凛実の方様も頷いて。




「え? 稜弥様と詠史殿が? 湖紗若様も……」


 お父上様に、稜弥様と詠史殿と、真剣に話し合いをした事。その席に湖紗若様もおられた事を聞かされたのだけど……



「楓禾姫は、稜弥様と詠史殿を好いているのね?」


 お母上様の、真っ直ぐな問い掛け。何でか、お父上様と凛実の方にも聞かれるのが、恥ずかしい。とか思ってしまって。



「私は、楓菜の方も、凛実の方も愛している。端から見たら『何、綺麗事を』 そう言って、眉をひそめる人間も居るかもしれない。 しかし、それが私達の『三人の形』なのだから。私は、何も恥じる事は無い! と思っているんだ。楓禾姫」


「『三人の形』……」



 怖いぐらいに、私が心の中で引っ掛かっていた事を。お父上様は、 自分に置き換えて話して下さって。



 話を聞かれるのが恥ずかしい。そんな事を思った自分自身の愚かさに、恥ずかしくなったの。



「楓禾姫様。心の機微を他人に話す事は容易ではありませんし。なんとなく恥ずかしいな。そう感じるのもわかりますから。大丈夫ですよ」


「凛実の方様……」


 私も思い悩んだ事のある事ですから大丈夫ですよ。 そうおっしゃっている気がして。


「 他人だからこそ、努力が必要だと思った。楓菜の方も、凛実の方も大切な女性なのだから。楓禾姫と湖紗若の事は楓菜の方とだけ。鈴の事は凛実の方とだけで話し合うのではなく、三人で情報共有しようと決めて。そう確認し合ってても『私は大丈夫ですから。楓菜の方のお傍に。楓禾姫様と湖紗若様の為にも』『私は大丈夫ですから。凛実の方のお傍に。鈴様となずなはこれから大変なのですから』そう言われてしまってね」


「 「申し訳ございませんでした。殿様」」


 大げさに嘆く振りを しているお父上様に、 同じく、少し大げさに声を揃えて謝っている、お母上様に凛実の方様。


 そんな事があったのね。とクスクス笑いながら。


「とても素敵な関係を築いていらっしゃるのですね。見ていると、とてもホンワカします」


 そう言うと。


「お互い同士。尊重と尊敬の念を忘れずに。遠慮すべき事は遠慮して。遠慮ばかりでは駄目だから、相手に伝えたい事がある時は伝えて。そうやって関係を築き上げていったの。相手に対して、不安とか、不満などの負の感情を優先して、許せないと嘆くよりも。思う事があったら話し合って。相手の良い所を見つけていった方が豊かな人生を歩めると思うから」


「そう言いつつね。相手の立場を思いやるあまり、自分の方は諦めようとするような人達だからね。楓菜の方も、凛実の方も」


 お父様は今日は、愚痴りたい気分なのね。きっと(笑)


「そうですね。私も相手の気持ちを優先して、物事を考えられる人間になりたいです」


 お母上様も、凛実の方様も。本当に優しくて素敵な女性で、見習いたいなって。


「 楓禾姫は、心配しなくても人の気持ちを考えられる優しい子ですよ。爽、凛実の方様。私に『三人の形』があるように。楓禾姫、稜弥様、詠史殿にも見つかるはずよ。形が。楓禾姫。もう一度良く考えて、貴女には幸せな道を選んで欲しいわ」


「お母上様…… こんな風に、お母上様と深い話をする事など無いのね。 そう、思っていたから…… 私、幸せです。お母上様と、お父上様、凛実の方様に話を聞いて頂だいて。とっても心が軽くなりました。ありがとうございました」


 もう一度、稜弥様と詠史殿と話しよう……



*未の刻 (午後十三時~十五時頃)












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