第63話 煙玉に祈りを込めて

 楓禾姫が、湖紗若を優しく抱きしめられて。


(どうか……)



 誰一人傷付く事なく、事が上手く運びますように……


 私は、祈りを込めて天井より。



 煙玉けむりだまを。


(楓禾姫! 湖紗若!)


 誰もいない。上座から見て右側の奥。障子戸の手前の空間に落としたんだ。



 -バァン-



 楓禾姫様が、湖紗若様を優しく抱きしめられたのを見届けた後、鈴様は私を抱き抱えられると……


 稜弥様達のいる襖の前へ移動されて。直後に。


 バァンと音がして、部屋中が煙に包まれて! 


(楓禾姫様! 湖紗若様!)





 私は、なずなを抱き上げ、稜弥達のいる襖の前へ移動して。その後直ぐに。



 バァン


 詠史が仕掛けた後、私と稜弥は素早く部屋中に。煙の中入っていって。



 稜弥が楓禾姫と湖紗若を。私は、ゆずなとおゆりを。襖の外に救い出す事に成功したんだ。


(良かった……え? 母上?)


 外喜と対峙されている? 





 バァン



 詠史殿の合図。



 鈴様と煙の中へ。楓禾姫様と、湖紗若様を襖の外に……



(お救いする事が出来た……)


 鈴様が、ゆずなとおゆりを救い出して下さって。



 安堵して。



 煙が消え、視界に飛び込んで出来たのは。



 外喜を逃がさぬよう、外喜の後ろに立った詠史殿……


(え? 凛実の方様?)



 凛実の方様が外喜の目の前に座っておられたんだ。





 詠史殿の仕掛けで。部屋中に煙が充して。


「ひっ」



 衝撃と怖さからだろうか……湖紗若様が、声を上げられたの。



 ギュっ。ってしていたら。稜弥様が湖紗若様を抱き上げてくれて。



「さぁ、楓禾姫様、湖紗若様? 大丈夫ですよ。外に出ましょう」



 小さな声で稜弥様が…… 稜弥様がいつも。



『七つ道具が入っているのですよ』



 中は見た事はないけれど。腰にぶら下げている小さな袋を掴むと。襖の外に連れ出してくれて。



 中の様子を見ると。



(凛実の方様っ?!)


 凛実の方様が、外喜の前に座っておられたの。


 大丈夫です。というように。私の方を見て微笑みながら頷いた凛実の方様。


 何をなさるおつもりなのか、不安だけれど。


 気が付くと、桜王家側の護衛の者達が、部屋の周りを固めてくれていて。


 稜弥様も、鈴兄上様もおられるし……凛実の方様に危険は及ばないだろう。及びませをんように。と願いながら。


 詠史殿に目を移すと。


 外喜を逃がさぬように、後ろに立ってくれていて……


『詠史殿。ありがとう』


 こちら側を心配そうに見ている詠史殿に『助けてくれてありがとう』の想いを込めて、声は出さずに伝えると。


 頷いてくれて。




 可哀相に怖さで震えている湖紗若様。まだお小さいのに、私を守る為に……



 これから起こるだろう事を、湖紗若様には見せたくない……


「ゆずな。おゆり。助けてくれてありがとう。後できちんと、お礼をしますから。今は! 湖紗若様を本丸北御殿へお連れして! 湯浴みをして頂いてから、ゆっくりと休ませて上げて下さい! とにかくお傍で見守って上げて。体調に変化があったら、直ぐに薬師を呼んで!」



「はい! かしこまりました! 楓禾姫様!」



 ゆずなとおゆりが、返事をすると、サっと。一人の護衛が湖紗若様を抱き上げてくれて。


「楓禾姫様。必ず、本丸北御殿に湖紗若様をお連れいたします。ゆずな殿とおゆり殿も、お守りしますゆえ」


 そう言うと、湖紗若様を連れて外喜の屋敷を離れて行ったの。


 その時、稜弥様と鈴兄上様が。


「暗号を持って来た男だ……」


 呟いたのに気付かなくて。後で、詠史殿も含めた、三人からそうだったと聞いたの。



 さて……どうしてくれようか……そう思い部屋の中に意識を戻すと……


「叔父上様……」


 凛実の方様が切り出して……







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