第62話 鈴の戦い

 鈴の視点


なずなを背負い、桜城の左側。渡り廊下の先に建つ西櫓から、前方右斜め前の三の丸庭園内に建つ外喜の屋敷に向かいながら。



「見張りがいないな」



 呟いてしまった。


「詠史か……」


 きっと、詠史の仲間、お庭番達が暗躍したんだな。


 なずなは、 多分捻挫をしているし。本丸御殿(桜城の裏にある)に残して行こうと思ったけど。


 一人で気を揉んで待っているなんて無理! 楓禾姫と湖紗若の所に早く行きたい! 



 その想いが凄い伝わって来て。その気持ちも良く分かるからね。 一緒に行く事にしたんだ。



 だけど一言、言ってやんなくちゃ。



「なずな! 『私がいたら鈴様は、 自由に動けないんじゃないか。足手纏いなんじゃ』 なんて事を考えてんだったら、私は怒るからな!」


「……」



 図星か……



「分かるよ。なずなも、楓禾姫も 人に甘えるってのが苦手で、何でか自分に自信がなくて。 自己評価が低すぎるんだもん」



「そんな事は……鈴様も、甘えるのが苦手ではありませんか」



「 甘え下手か……湖紗若も、稜弥も。詠史もだよな。って!」


「皆、って事ですね?」



「うん(笑)。まぁ、とにかく! 背負い投げをして敵をやっつけたのは誰だ? なずなは、役にたってんだよ!」



「はい……」



 なんて……私となずなは、どこかのんびりとした会話をしてたんだ。



 外喜の屋敷の居室の前の、障子戸の前には、部屋の中の様子を伺っている稜弥がいて。一気に緊張感が高まった。なずなも同じ。感じ身体が強張っている。



 出来れば、部屋の中を確認したいと思ったんだ 。と、なずなが極々小さな声で『降ろして下さい』って。



 こういうね。気配りの出来る所が私には…… 好ましいと思う所な訳で。



 悪いけど、お言葉に甘えて。なずなをゆっくりと床に降ろすと。稜弥が場所を開けてくれて。私は慎重に音を立てないように中を確認した。


 上座に楓禾姫と。湖紗若。下座に外喜。障子戸の近くに、ゆずなと、おゆり。



(ん? 気配がする)


 天井を見上げると詠史……


 楓禾姫の右斜め後方の、襖の奥には……


(母上様?)



母上様まで、いらした事に私は動揺してしまって。


 饅頭とお茶を目にして、なずなが小刻みに震え出して。私も二重に怖くなって……


(そんな……)


「フウ ひめしゃ……さま わたしに おおきいほう くだ……さ……い」


 その時、湖紗若の健気な決意が……



 それを合図に。詠史が私に。


『 湖紗若の耳を塞いで』


そう合図を送って来て。



私は頷くと、障子戸を音を立てないようにもう少し開けると。楓禾姫に湖紗若の両耳を塞ぐよう、しぐさと口の動きで伝えた。


その隙に、稜弥が楓禾姫と湖紗若に、より近い襖の入り口前へ。母上のいる場所に移動して行ったんだ。



 楓禾姫は、湖紗若を戸喜の視界から隠すようにして。 湖紗若の両手で 耳を塞がせると。自身は湖紗若をぎゅっと抱きしめて……



 -バァン!-


 バァンと、 音がして次の瞬間、煙幕に包まれて……









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