第64話 対峙

 煙玉作戦の喧騒から、一転。怖い位の静寂の中、対峙しているの凛実の方様と外喜。


(凛実の方様、何をなさろうとしているの?)


 今は、私の出る時ではない。見守る事しか出来なくて。 心配だけれど。




 それでも、桜王家の護衛達が 周りを固めてくれている事で、どこが安心感も漂っていて。詠史殿も、外喜から離れて私達の方へ。


 私には、もう一つの気になる事が。


「なずな。 足を痛めたのね……可哀相に」


 なずなの顔色は悪いし、鈴兄上様が物凄く気に掛けている。


「私は、大丈夫でございます。楓禾姫様」


(なずな。 苦しい時に苦しいと言えない。損な性格よね)


 大丈夫には見えない顔色でそう言われてもね。なずな。 説得力なんて無いのよ。


 後にね、顔色の悪かったのは、足の痛みに加えて腹痛も起こしていたからだって聞いて。 憤慨する事になるんだけど……




「叔父上様、お茶とお饅頭を頂きながら腹を割って話し合いをしませんか?」



 凛実の方様が口を開かれて。


「い、いや、私は……今はいらぬゆえ。凛実の方は召し上がられよ」


 顔色を変えて申し出を拒否する、外喜。


「叔父上様は、一緒にお茶をする為に、この会を催されたのではないのですか?」



「それは……」


 歯切れの悪い外喜。



「叔父上様は、己の欲望の為に苦しんだり、悲しい運命を辿った人達の事がいる事など、考えた事もないのでしょうね」


 凛実の方様の問い掛けの意味に。



「何を訳の分からない事言ってるんだ! 私が何をしたと言うんだ!?」


 図星なのだろう外喜。


(本当に自分の事しか考えていない。可哀相な男……)


「 ご自分の胸に手を当てて、良く考えてご覧なさいませ。 その身勝手な欲望の為に、知らず知らずの内に巻き込まれた者の悲しみ。否を言わせぬ圧力でもって、命を受け、欲望の片棒を担がされた者の苦しみが分りますか? ……上に立つ者として『私』を優先するなどあり得ない事です。叔父上様の為なら。と、純粋な忠誠心を誓っているのは何人いるかしらね?」



「己! 黙って聞いていれば! こんな真似して許さぬぞ!」


 凛実の方の言葉に、顔を真っ赤にして激昂している外喜。


(相手の気持ちを無視して、人を不幸にしてまで手に入れた権力に何の意味があるの?)


 それを確かめるべく、私も外喜に対峙しようと部屋に入ろうと思った時、視界に映ったのは……


(お父上様?)



 それは、お父上様で。


 私に任せてくれ。と言うように。


 小さく頷かれたお父上様……


 私も小さく頷き返して……


 稜弥様、詠史殿、鈴兄上様、なずなも。お願い致します。と頭をさげている。



「外喜よ! 許されぬ事をしたのはそなたの方だ!」


 お父上様は、そう叫びながら。


 外喜と対峙する為、部屋の中に入って行かれたの……







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