第50話 戦いの始まり

  その頃の凛実の方


 -本丸西にし御殿 凛実の方の部屋-


 凛実の方は、数日前の爽の話に想いを馳せていた。


 楓菜の方の『もう……楓禾姫と、湖紗若を……大人の都合に巻き込みたく無い』という想い。鈴への想い。子供達が成人してから外喜を……と。願った想いを。


『楓菜の方の気持ちを叶える為に、私は何をすべきか考えた。同時に凛実の立場も。外喜はそなたの叔父であるからな……』


『お待ち下さい! 爽様! 私は『例え叔父でも許されない事をしたのだから、私に一切の気遣いは無用です。なぜ失脚させないのですか?』と申し上げたはずです! しかし、今の楓菜の方のについてのお話を聞き、府に落ちました。叔父に隙を見せて、真実を悟られない為だったのですね』


 楓菜の方を思うと涙が止まらなくなった。


『聡いな。子供達も。そなたも。外喜を追い込む最後の機会となるだろう。互いに些細な動きの連絡を密にし合って……良いですか? 無茶をせぬように!』


 分かりました。爽と約束して。楓菜の方の願いに答えたいと凛実の方は誓って。


(己の役割を果たして、どんな場合にも対応出来るようにしなくては……)


 それから。


「おちちうえさま。わたしは りんみのかた さまに やさしくされても あまえられませんでした。うれしかったのに…… りんみのかたさま に あやまりたいです」


(湖紗若様……)


 湖紗若の健気な気持ちが本当に嬉しかった。


 しかし……ふと、凛実の方は嫌な感じを覚えた。


(落ち着いて考えるのよ……)


 爽は、楓希の方と、陽様と話し合う為に 本丸 ひがし御殿の楓希の方様の居室に向かったはず。


 今日は、家臣団の会議があるから叔は……鈴と、稜弥様も参加すると話していた。

本丸 中央の政務の間にて……


 本丸 きた御殿では、楓禾姫様と、湖紗若様楓禾姫様の部屋で一緒に過ごされていると。確認した持女より報告を受けている。詠史殿はお傍近くにて動いているだろう。



 自分の目の前には、珍しい反物を持参したと訪ねて来た商人が……


(入り用な物が出来たら、こちらから商人を呼ぶ事にしているのに……)


 相手方から訪ねて来たのを、迂闊に部屋に上げてしまったけど……


(まさか……)


 商人を良く見ると……


(叔父上様の腹心の使用人?)


『大叔父上にいつも、何かしらの情報を耳打ちしている男が気になる。お母上、くれぐれも気を付けて下さい』


(鈴にもそう言われていたのに……商人に変装していて……)


 そんなのは言い訳だ。注意力散漫な自分が悪いのだから……


 凛実の方は必死に考えた。


(叔父上様が何か仕掛けようとしている……)


 早く知らせねば! 


「すみません。お茶のお代わりを……いえ、反物の御礼に、こちらからも珍しいお茶をお入れ致しますね」


 -パンパン-


 そう言って、凛実の方が手を叩き合図すると、持女が隣の控えの間から入って来て。


「……良いですね! 本丸東御殿の楓希の方様の居室へ行きお伝えして下さい! さぁ早く!」


「かしこまりました!」


 凛実の方の命を受けた持女は、大きく頷き返事をすると。脱兎の如く部屋を飛び出して行き……


 見送った凛実の方は。


(冷静に……落ち着くのよ。私のすべき事……)


「すみません。上がって頂いておいて申し訳ないのですが。私、他の方と先約をしていたのを失念しておりまして。 また次の機会に反物を見せて頂きとうございます。約束の時間が近付いておりますので……失礼させて頂きます」


 そう言うと凛実の方は、席を外し部屋を飛び出すと、自分のすべき事の為に……楓禾姫と、湖紗若の部屋に急いだ。


(爽様なら、伝言を聞いて動いて下さるはず!)





















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る