子守唄が終わるとき

不問1人

5分程度


----------

「子守唄が終わるとき」

作者:嵩祢茅英(@chie_kasane)

----------




神は、天と地を分けて、昼と夜を分けたという。


人間は昼に活動して、夜になると眠り、次の日のための活力を回復させた。

だが全ての人間が、正しくこのサイクルを得られた訳ではなかった。

夜に満足な睡眠を得られず、日々の生活に支障をきたす者が一定数おり、中にはまったく睡眠を取れずに衰弱死する者もいた。


そこで神は、人々に『正しく眠れるように』と精霊を生み出した。

その精霊の歌を聴くと、人々は心穏やかに眠ることができた。


精霊は子供が好きだった。

無邪気な子供の笑顔が好きだった。


生まれたばかりの赤ん坊がいれば、精霊たちは側に寄り添い、御伽噺を聞かせたり、歌を歌って眠らせた。赤ん坊は一日のほとんどを寝て過ごした。


子供を見守る精霊の歌は『子守唄』と呼ばれるようになった。


それから長い月日が経ち、精霊を見ることのできる人間は減っていった。

それでも精霊は、夜になると歌い続けた。

だが、夜の時間にも活動する人間が増えた。

すると精霊の歌に対抗する薬が開発され、多くの人間が服用するようになった。

時代は大きく変わり、人間にとって自分が不必要な存在になったのだと精霊は理解した。


精霊は人間を、愛していた。

だからこそ、消える事を選んだ。


「もう私の役目は終わった

何の未練もなく、この世界から消えることができる」


精霊が見える人間は、消えることはない、と言った。

精霊はその言葉が嬉しかった。


「そう思ってくれるのは、とても嬉しい

でもね、自分の存在意義を失ったまま、世界に在り続けることほど虚しいことはないわ」


それでもいて欲しいのだと、人間は言った。


「ありがとう

そう思ってくれただけで十分

私が居なくなっても、私の代わりはたくさんいるの

私はね、私を必要としてくれた人が、私が居なくなっても、健やかに毎日を送れるようになってくれただけで、とても嬉しいのよ

もう私の役目は終わったわ

さようなら…愛しい人間たち」


こうして、世界から精霊が消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る