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羽連
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「――しかし、この“日本”という国は興味深い場所だったようだな。ほらこれ、見てみろ。」
「なんだこの白黒の繊維紙? まるで化石じゃないか。」
「写真だよ、昔の画像データさ。これは、敵に爆弾を落とされたときの写真らしい。大量に死者が出たようだ」
「爆弾ってあの、火薬の塊でかい? 電磁界シールドの整備士がサボってたんじゃないか?」
「そんなもの当時はないのさ。おっと、これはその少し後だ。地面が揺れて一帯が壊滅したらしい。」
「地面が揺れるなんてあり得ないだろう。」
「これは……水が大量に押し寄せたとか。」
「今じゃ飲み水にも困ってるのに、贅沢だな。」
「お、これはウイルスが広まったときだね。星規模だったらしい。」
「ああ、ウイルスは分かるぞ。つい先日も修正してもらったばっかだからな。」
「いやいや、これは生体の方さ。まだ僕らがCPUじゃなくて、DNAを搭載してた頃の話だからね。」
「へぇ?」
「そして……お、映像が新しくなったな。β星から攻め込まれたときだ。」
「あの優しいβ星人が戦争吹っ掛けてきたなんてね、未だに信じられない。あんたはそんとき、もう生まれてたろ?」
「いや、私が製造されたのは終戦から少し後だよ。……いやしかし、日本という国は大変な場所だったらしいな。」
「そんなことないだろ。今だって酷いぜ? 高次元融合が収まんないせいで、俺らの命も明日が知れないんだ。」
「まあ、な。」
「こいつは永久に記録に残るだろうな、間違いねぇ。」
「ああ、だけど記憶には残らないよ。」
「え?」
「高次元融合が解決しても、そのうちもっと悪いことが起こるさ。人の興味はそっちに移っていくよ。いつか忘れ去られていく。」
「……おいおい、暗い話はよそうぜ、な? 記録には残らない良いことがあるだろうさ! そうだ、今晩ターボで走らせに行かないか? 良い店見つけたんだよ。」
「そう、だね。確かにそうだ。良いことが記憶に残っていけば、それで良い。君の言う通りだよ。」
「お? そうだろそうだろ。ターボ行くか?」
「いや、嫁が家で待ってるんでね。」
「おいおい、一人寂しい男も幸せな記憶が欲しいんだよ、な? たまにはいいだろ?」
「……お前はいつも記憶が飛ぶまでターボを走らせるじゃないか。」
刷新 羽連 @paren0609
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