第15話 タイムマシン(後編2)


 「……ぶ?」

 ユサユサ。


 「……いじょうぶ?」

 ユサユサユサユサ。


 んん……。

 なんだ……?

 うるさいなぁ……。


 「どうしたの!?だいじょうぶ!!?」


 「うわっっ!!!」

 「きゃっ!もう、急におっきな声出さないでよ!びっくりするじゃない」

 

 うん?

 誰だろう?知らない子だ。

 歳は僕と変わらないみたいだけど。

 そもそも、女子とはあんまり関わらないしな……。


 でも、なんだろう?

 不思議とどこかで会ったことがあるような、そんな気がする。

 

 「キミだあれ?ここら辺の子?」

 「あぁ、うん。そうかな」

 

 不思議なことに、僕の周囲の景色は、僕の家の周りとよく似ていた。


 「ふぅーん。ね、ね。キミさ、私と一緒にお話ししてくれない?」

 「うん、別にいいけど……。お前誰かと遊んでたんじゃないの?」

 「ううん。誰とも遊んでないよ」

 「じゃあ、なんでこんな空き地にいるんだよ」

 「それは……、さっきここで縄跳びしてる子たちがいたからさ。仲間に入れてもらおうと思って。で、気づいたら、キミが倒れてて……」

 「なるほどね。縄跳びはもういいの?」

 「うん……。なんかね……、兄弟がいる子しか一緒に遊んでくれないんだって。だから、断られちゃった。私、一人っ子だから。この辺じゃそんな人、私ぐらいしかいないんじゃないかなぁ」


 なんだよ。その意味不明なやつらは。


 「よし、わかった!僕がそいつらのこと論破してきてやるよ。『そんな非合理的なルール作ってんじゃねえよ』って」


 今日の僕は少し変だ。

 普段なら、こんな面倒臭いことしようだなんて思わないのに。


 「いいよ、いいよ。キミには関係ないことだもん」

 「うん……。そっか」


 関係ない……か。

 まあ、そりゃそうだ。


 「っていうかさ、ロンパってなあに?」

 「なんだよ。お前そんなことも知らないのか。論破っていうのはさ、なんだろうな、自分が言いたいことを好きだけ言ってさ、それで相手の言ってることを骨抜きにしちゃうっていう……、スポーツみたいなもんだな。うん」

 「へぇー。なんかおもしろそう!」

 「だろ?」

 「じゃあさ、じゃあさ。私にもしてみてよ。そのロンパってやつ」

 

 いや、なんでだよ。


 「僕の話聞いてた?論破されたいなんてヤツ初めて見たぞ」

 「ふふふ。いひひ」


 「ねえ?」

 「ん?」

 「キミはさ。兄弟いる?」

 「あぁ、いるよ。あねう……、いやお姉ちゃんが一人」

 「へえ!いいなぁ……。私さ、お姉ちゃんになりたいんだよねぇ」

 「なんでよ。めっちゃ大変だと思うぞ」

 「う~ん。でもなりたい。弟とか妹に頼られるような、やさしくて強いお姉ちゃんになりたいの」

 

 「キミ、お姉ちゃんのこと好き?」

 「え?いや、別に嫌いじゃないけど……」

 「じゃあ、好きなんだ」

 「うん……、まあ……、好き……なのかな」

 「ふぅーん。じゃあ、お姉ちゃんのこと大事にしてあげてね。兄弟がいるってすごい幸せなことだと思うから。それに、たった一人のお姉ちゃんでしょ?」

 「な?お前に言われるまでもねぇよ!」

 「ふふふ。ならよかった」

 「……」

 「私、キミみたいな子が弟に欲しいなぁ。あ、そうだ!キミ、私の弟になりなよ!」


 いや、なんでだよ。

 なんで、こんな歳も変わらないであろう子どもの弟に、僕がならなければならないというのか。

 でも……。


 「まあ、それもいいかもね」

 「えっ……」



 『タイムトラベル終了デス。現代に帰還シマス』


 うわ。眩しい。

 今度はなんなんだ。




 ピーピーピー。

 

 んん。

 ここは……。


 僕の家か?


 「ご主人サマ。お疲れ様デシタ。次はどうなさいマスカ?」


 まさか、コイツ本当に……。


 「ご主人サマ。ご指示ヲ」

 

 「あぁ。もうタイムスリップすんのはいいや。なんか、変な気分になるし」

 「カシコマリマシタ。ソレデハ、ワタシは、『タイムスリップゼッタイシタクナイモンモード』に移行シマス」

 「はいはい。どうぞどうぞ」



 

 ふう。なんか疲れちゃったな。

 

 たった一人のお姉ちゃん……か。

 

 まだ帰ってきてないみたいだし、今日ぐらい、家事のお手伝いしようかな。

 


 日頃の感謝をたっぷり込めて。


 

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