第16話 ふたりで食べるとおいしいね(前編)

 う~ん。

 よい休日ですなあ。

 素敵な町のおしゃれなお店。

 そして、かわいいパンケーキ。


 「おいしいねっ」


 「……。うん」


 ところで、私には弟がいる。小学四年生の弟だ。

 弟は、まあ、そりゃあ、かわいい。かわいい、のだが……。


 今日は、そんな弟とのデートの日だ。

 弟ももう10歳だから、女の人と二人きりでお出かけなんて、きっと本当は嫌なのだろう。

 でもなんだかんだで、「しょうがないな」とか、「今日はヒマだから」とか言いながら私についてきてくれるんだから、なかなかに優しい弟だと思う。

 大人になるのが楽しみだなぁ……。


 「生地がすごいふわふわだよね!」

 「……。うん」


 あれ?

 反応悪いなぁ。


 「なんていうか、ほどよい甘さだよね!」

 「……。うん」

 

 もしかして、あんまりおいしいと思ってない?

 どうしよう……。私が無理言って連れて来ちゃったし、なんとか場を盛り上げないと……。


 「ほら見て!このクリーム!これ何で出来てるのかなぁ?」

 「……」

 

 無視!?

 まずい。完全に不機嫌だよ……。


 「せっかく一緒に来たんだから、もっと楽しく食べよっ?」

 「……。別にいいけど」

 

 ふう。よかった。

 今日はなんとか平穏な一日になりそうかな。


 「やっぱりさ~、ふたりで食べるスイーツが一番おいしいよねぇ」


 *


 その時!

 弟の目が怪しく光る……!

 ヤバイ。ワタシ……、論破されるっ!!!


 「二人で食べておいしいわけなくないですか?だって、二人以上だとさ、気を遣って無意味なおしゃべりとかしちゃって、その間に料理は冷めるし、肉は硬くなるし、野菜とか果物はフレッシュさを失うし、チーズとかは固まるし。いいこと一つも無いと思うんですよね。料理をおいしく食べようと本当に思うのであれば、一人で食べに行くべきですよね。バカみたいに複数で行かないで」


 ……。なによ。

 せっかくのキミとのデートなのに……。


 「それならもう、アンタとは一緒に行かないから!!!独りで食べてればいいじゃない!」



 あ~あ。

 かわいくない。かわいくないなぁ……。


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