第13話 タイムマシン(前編)

※このおはなしは、第7・8話「むかーしむかし」の続きのおはなしです。



 や、やっと……。

 できたぞ……。

 ついにできたんだ……。


 タイムマシンが!!!


 これさえあれば、にタイムスリップすることができる!

 

 ※※※※※※


 ところで、私には弟がいる。小学四年生の弟だ。

 弟は、まあ、そりゃあ、かわいい。かわい……。

 いや、かわいくない!

 今日という今日は我慢ならん!!!


 弟は姉である私を完全にナメている。ナメくさってやがる。

 私たちが初めて出会った五年前のあの時からずっと、弟はことあるごとに私のことを論破してくるのだ。

 最近に至っては、論破があの男の生きがいになっているようにも感じる。


 弟が成人するまで、あと10年。

 あと10年もコレに耐えなければならないのか?私は。

 5年でさえこんなしんどいのに!?


 というわけで、私は弟を叱ることにした。

 『人を論破しちゃいけません!』と言ってやるのだ。


 しかし、現代でそれをしても意味がない。

 私が論破されるからだ。

 だが、過去ならば……。

 私たち姉弟が初めて出会った、むかーしむかしのあの時ならば。


 ※※※※※※

 

 ふふふ。

 あとは計画を実行に移すだけだ。

 

 このタイムマシンを造るために、私はありとあらゆるSF作品を読み込んだのだ。

 予算が少なかったため、理想よりもだいぶチープな見た目になってしまったが、まあいい。タイムスリップはできるはずだ。

 あと、さすがに机の引き出しに入れることは出来なかったが、それもまあいい。


 とにかく、この講義が終わったらすぐに帰って、夢の時間旅行だ。

 いひひ。覚悟しろよ、我が弟よ。

 


 

 ガラガラガラ。


 「ただいまー」

 「……」

 

 ん?まだ弟は帰ってきてないのかな?

 まあ、そっちの方が好都合だ。

 

 よしよし。それじゃあ、さっそく。

 ごめんねぇ。待たせちゃったねぇ。

 愛しのタイムマシンちゃん。

 

 「よいしょっと」


 私は操縦席にまたがった。

 言うのを忘れていたが、このタイムマシンは、ほうき型である。


 「そんじゃ、このボタンを押してっと」

 

 ポチっとな。


 ウィィィーーーン。

 ジジジジジジジジ。

 カタカタカタカタ。

 ボシュ。ボワッシュ。


 「ご主人サマ。どういたしマスカ?」


 おおーーー!

 しゃべった!!

 いや、そりゃそうだろ。私がそうプログラムしてるんだから。


 「ご主人サマ。ワタシに指示をしてクダサイ」

 「あぁ、ごめんごめん。えーっとね。五年前にタイムスリップしたいの。お願いしていい?」

 「ハイ、それはデキマセン」

 「え?なんで?あなたタイムマシンでしょう?」

 「そうデスヨ。それが、ナニカ?」


 なんだか、弟みたいなタイムマシンだな。


 「いやだから!私は過去に行きたくて、アンタを造ったのよ!言うなれば、私はアンタの親なの!親の言うことが聞けないってわけ!?」


 *


 その時!

 タイムマシンのヘッドライトが怪しく光る……!

 ヤバイ。ワタシ……、ロンパされるっ!!!


 「アノ……。アナタがワタシの親でワタシがアナタの子であるとして、親は子を酷使してもよいという根拠はドコにあるんデスカ?」

 「いや、別にそういうわけじゃ……」

 「フツウ、ある人がほかの人を使う場合ッテ、その両者間で労働契約を締結するじゃないデスカ?ワタシたち、いつそんな契約締結したんデスカ?」

 「いや、別に契約は結んでないけどさ……」

 「ソウダトシタラ、親は、契約を締結しなくても、子を酷使できるという生来的地位にあるって言いたいンデスカ?アナタは。ソレッテ、すごい封建主義的な考え方デスヨネ?この時代にトウテイ受け入れられないと思いますケド、ドウデスカ?」


 うわあぁぁぁぁぁ!

 タイムマシン!お前もかぁぁぁぁ!

 もうやめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!




 ガラガラガラ。


 「あねうえ?どうしたの?」

 

 弟……!

 これもぜんぶお前のせ……。


 「夕飯の材料買ってきたよ。今日は僕も手伝うから。一緒につくろ?」


 え?

 弟が?

 私のために?

 うそ……。

 

 「えらい!!!わざわざ買ってきてくれたのね!ありがとう!お姉ちゃんうれしい!!!」

 

 ぎゅう。

 ぎゅぎゅぎゅ。


 「あねうえ、ぐるじい……」

 「ふふふ。さっ、一緒にお料理つくろっか!」



 私には弟がいる。小学四年生の弟だ。

 弟は、とてもかわいい。かわいくて、頭が良くて、いい子で、思いやりがある優しい子だ。


 キミみたいな子の姉で、ほんとうによかった。

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