第6話 家族って金で買えるんですか?(笑)(後編)

 う~ん。眠い。眠いなあ。

 よう知らん奴と全く知らん犬との、ヤラセ丸見えドキュメンタリー番組。

 なんなんだこれは。

 僕は、それを目に涙を浮かべながら観ていた。


 二時間前からあくびが止まらないのだ。


 ところで、僕には姉がいる。大学二年生の姉だ。

 姉は、僕よりずっと愚かであるが、かわいい。客観的に見ても美人だと思う。


 が、今日の姉は全然美人じゃない。

 涙の流しすぎで、それはそれは酷い顔だ。

 目の前で繰り広げられる茶番のどこに泣ける要素があるのか。

 それとも、大学でなにか辛いことでもあったのだろうか。

 しっかりしてくれ。


 それから30分ほどたって、それからも僕からずっとあくびは出続けた。

 もう出ないんじゃないか。まだ、出る。

 さすがにもう……。それでも、出る。

 そんなことを、二時間半も繰り返し続けているのだ。

 次出たら死ぬ気がする。


 『僕にとって、ココは家族なんですよね』


 (はい?)


 僕はあくびを飲み込んだ。

 よかった、命が助かった。いや、そんなことはどうでもいい。

 それにしても、なんなんだ。この人は。


 ほんと……、面白いこと言うなあ。


 「キャハハハハ!ペットが家族だってぇ。おもしろい、おもしろーい。」


 僕は、体中で笑った。

 手足をバタバタと動かし、骨をキイキイと鳴らして。


 「ねっ、姉上。この人おもしろいですよね。ふっふふ、ハハハハハ」


 姉は答えてくれなかった。


 あれ?引かれてる?

 僕はとっさに、両腕をクロスさせて口を封じ込めたが、なかなか笑いは止まらない。

 

 すると、姉はやさしさ満点のあま~い笑顔を僕に向けた。


 「え~。どうしてそんなこと言うの。そんなこと言っちゃ、だ・め・よ」

 姉はそう言って、僕の鼻をつんつんと突いた。


 *

 

 それが僕のスイッチを入れた。

 長い後悔の始まりである。

 


 「じゃあ、アナタに質問です。ペットと会うためにはどこに行きますか?」

 「え?それは…、まあ、普通はペットショップじゃない?」

 「はい。そうですね。それで、ペットショップに行ったら何をする?」

 「えーっと、自分がいいと思ったワンちゃんとかネコちゃんとかを選ぶ」

 「そのあとは?」

 「う~んと、お金を…」


 よし、キタ!!

 これが言いたかったんだ。


 「家族って金で買えるんですか?(笑)」


 「うわあ、憎たらしぃ~。なにその憎たらしい顔~」

 姉は、僕をおちょくるようにそう言ってきた。

 腹立たしい。

 

 それから僕は目が見えなくなった。

 耳が聴こえなくなった。

 他人の感情がわからなくなった。

 まるで、なにかに取り憑かれたみたいになった。

 

 「例えば、拾ってきましたとか、愛護センターから引き取りましたとかだったら、家族っていうのもわかるんですよ。でも、多くの人はペットを金で買うわけでしょ?テレビのこの人はどうだか知らないけど、金で買った人がさ、『この子は家族です!』だなんてエラそうに言ったりするわけじゃん。『いや、お前がそれ言う!?』っていうね」


 僕はとにかくまくし立てた。

 というより、まくし立てることしかできなかったという方が正確か。


 姉は、その場を無言で立ち去った。


 あーあ。

 言わなきゃよかったかな……。

 嫌われたかな……。

 

 僕は、しばらくこの日のことを考えるのをやめられなかった。




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