第32話
「広いお屋敷ね」
興味津々と屋敷の中を見回すアレクシア。
同じ公爵家同士なのだ。住んでいる屋敷の広さはそこまで変わらないと思う。
「フィンスターニス公爵邸と変わらないでしょ」
「こっちの方が断然大きいわよ」
「そうなの?」
「ええ、良かったら今度来る?」
「伺わせてもらうわ」
お茶会に招かれて他の貴族の屋敷に行く事はよくあるが友人の屋敷に行くという機会は少ない。
そもそも友人と呼べる存在が少ないのだけど。
「私、前世の記憶を取り戻してから友達を作って来なかったの。だから、お父様もお母様も弟まで心配しちゃって……リーゼとユリアと友達になったって話したら大喜びされたわ」
照れ臭そうに笑うアレクシア。
フィンスターニス公爵の喜びの中には次期王太子妃と繋がりが持てる事に対する喜びもあったのかもしれない。
ただアレクシアの笑顔を見るに純粋に娘に友達が出来て嬉しかったのだろう。
彼女が家族に大切に思われている事がよく分かる。
「いいご家族ね」
「私を大切にしてくれる家族よ。リーゼのところだって仲良さそうじゃない」
「溺愛度は控えめにして欲しいけどね」
愛されているのは嬉しいけど加減を覚えて欲しいところだ。私の言葉にアレクシアは苦笑いを浮かべた。
「でも、アードリアンからの溺愛は減るんじゃない?」
どういう意味だろうかと首を傾げるとアレクシアは奥の方を指差す。そちらを振り向くと何があったのかユリアーナがアードリアンに壁ドンをされていた。
現実で壁ドンをする人って居るんですね。
ただ甘ったるい雰囲気じゃないのは何故だろうか。
「アードリアン、怒ってない?」
アレクシアもアードリアンの異変に気が付いたのか心配そうな表情を浮かべていた。
止めた方が良いかもしれないと思って駆け出そうとしたその瞬間、アレクシアと揃って「あ…」と声を漏らした。
「あれは…」
「どういう状況なのかしら」
私達二人が足を止めたのはアードリアンがユリアーナにキスしたからだ。
よく分からないが上手くいったのだろう。
それにしてもキス長くないですか。
二人がキスを始めてから一分以上は経過していると思う。
「邪魔しちゃ悪いし、あっち行ってましょうか」
「そうね」
思春期真っ盛りだったら見ていたかもしれないが生憎と中身は大人なのだ。
それに友人と兄のキスシーンを見続ける趣味はない。
黙ってその場を立ち去った。
「あの件については後でユリアを問い質しましょうね」
アレクシアの言葉にくすりと笑って頷いた。
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