第28話
放課後、屋敷に戻ると向かったのは厨房だった。
ベルンハルトにあげるクッキーを作る為である。
「どうして私まで連れて来られているのよ」
拗ねたような表情を見せるのはアレクシアだった。
連れて来たのは私じゃない。鼻歌を歌いながらエプロンを着けているユリアーナである。
帰ろうとしているアレクシアを捕まえて「シア様も一緒にクッキー作りましょう」と有無を言わさず連れて来てしまったのだ。
今度フィンスターニス公爵に謝りましょう。
「良いじゃない。折角だからお泊まり会する?」
アレクシアの都合も考えず誘おうとするユリアーナの背中を軽く叩いて「勝手な事を言わないの」と注意する。
そもそもここはヴァッサァ公爵邸なのだ。急に公爵令嬢が泊るとなれば多方面に迷惑が掛かってしまう。
「シア、ごめんなさい。気にしなくて…」
良いから、と続けようとするが言葉が詰まってしまう。
さっきまで不貞腐れた表情だったアレクシアは目を輝かせていたからだ。まるでお泊まり会を期待しているようにも感じられる表情に動揺する。
「もしかして泊まりたいの?」
「えっと…その、アレクシアになってから友達の家に泊まった事がなくて…」
照れ臭そうに笑うアレクシア。
可愛いですね。
ユリアーナを見ると「どうする?」と聞かれるが前世の頃と違って私達には様々なしがらみがあるのだ。簡単に許可して貰えるとは思えないのだけど。
「フィンスターニス公爵が許可を出してくれるなら」
おそらく私の父は私がお願いすれば二つ返事で了承してくれるだろう。しかしフィンスターニス公爵が許すかどうかは別問題だ。
ユリアーナについては散々お泊まり会をしているので今更だろう。
「ちょっと待ってお父様に手紙を書くから」
嬉しそうに手紙を書き始めるアレクシア。簡単に許してくれるのだろうか。
「シア、フィンスターニス公爵ってどんな人?」
「厳しく見えるけど私には甘い人よ」
どうやら私の父と同じらしい。
手を洗っているユリアーナが「どこの父親も娘には甘いわよね」と苦笑いを浮かべる。
そういえばフランメ伯爵も娘には甘い人でしたね。
アレクシアは自分の付き人に手紙を託すと笑顔で戻ってくる。
「クッキー作りは嫌がっていたのに」
「いきなり連れてくるからでしょ」
「気分転換させたかったのよ」
へらりと笑うユリアーナ。
強引なのに友人思い。だから恨めない人なのだ。それを分かっているのだろうアレクシアは「しょうがないわね」と笑った。
「とりあえず返事が来るまではクッキー作りを頑張りましょう」
私の言葉に二人は小さく頷いた。
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