第27話

アレクシアのところに戻ろうと振り向くとさっきまであった姿が見当たらなかった。

学食をぐるりと見回してみるがどこにも居ない。

どこに行ったのでしょうか。


「ユリア、シアが居ないわ」

「あそこに居るわよ」


ユリアーナの指差す方を見ると学食の隅で蹲って小さくなっているアレクシアが視界に映り込む。

何をしているのだろうかと首を傾げる。


「シア、大丈夫?」


声をかけるとびくりと震えるアレクシア。恐る恐るとこちらを見上げる彼女にぎょっとする。瞳いっぱいに涙を溜め込み今にも溢れ出そうになっていたからだ。

戸惑っていると「リーゼ、どうしましょう!」と抱き着かれるけど私こそどうしたら良いのか分からない。

助けを求めるようにユリアーナを見上げる。


「リーゼ、場所変えましょう。ここだと目立つ」

「そうね。フィーネ、図書室に行くから先に行って部屋を用意してくれる?」

「畏まりました」


頭を下げて小走りで駆けて行くフィーネを見送った後、アレクシアを立ち上がらせて食堂を後にする。


図書室の特別室に入ると防音結界を作り上げてユリアーナとアレクシアと三人にしてもらう。


「それでどうしたの?」


向かっている最中に散々泣いたからか多少の落ち着きを見せているアレクシアに尋ねる。


「私、アンネがレオンに迫った時に大声を上げちゃったじゃない」


鼻をすんすん鳴らしながら答えるアレクシア。脳裏に甦るのは学食でアンネがレオンハルトに婚約者にして欲しいと馬鹿な頼みをした際、彼女は『ふざけた事を言わないでよ!』と叫ぶシーンだ。


「レオンに変に思われたらどうしよう…」


あれは皆が思った事だ。別に気にしなくて良いと思うけど本人から見れば深刻な事なのだろう。

無責任に大丈夫だと言うわけにもいかない。


「あの後リーゼがレオンハルトと話していたけどシア様の事は何も言ってなかったわよ」


私の代わりに答えたのはユリアーナだった。何を気にしているのだと言いたそうな表情を浮かべている。

アレクシアは確認を取るように私を見てくるので「別に何も言ってなかったわ」と答える。

レオンハルトが彼女を気になっている話は聞きましたけどね。勝手に言うわけにはいかないので黙っておく事にしましょう。


「それよりもアンネがレオンハルトの婚約者になる事を嫌がっていたけど、やっぱり譲りたくないのね」


安心したような表情を浮かべるアレクシアに笑いかけるユリアーナはどこか楽しそうだ。

指摘されたアレクシアは頰を赤く染める。


「そ、それは…つい言っちゃっただけで」

「つい反対したくなっちゃうくらいレオンハルトが好きなのね」


ユリアーナに便乗するように笑いかけた。

悪い方向に考えさせるわけにはいきませんからね。


「だって、あの馬鹿な子に譲るのは絶対に嫌でしょ」

「気持ちは分かるわ。私もベルンをアンネに奪われるのは嫌だから」


お揃いね。

そう笑いかけるとアレクシアは机に突っ伏して「バカップルの片割れと一緒にしないで」と叫ぶ。

不本意な言われようですね。

後ろで爆笑しているユリアーナを睨むと素知らぬ顔を向けられる。


「とりあえずシアはレオンハルトとどうなりたいのか真面目に考えた方が良いわ。どんな答えでも私はシアの味方になるから」


もしアレクシアがレオンハルトとの婚約を望むなら叶えてあげたい。彼も彼女が気になっているみたいだし、婚約は成立させられるだろう。

ただ気になる事がある。レオンハルトの『僕には結婚を約束した相手が居る』発言についてだ。

これについては本人に確認する必要があるだろう。


「そうね、もっとちゃんと考えてみるわ」


アレクシアは苦笑いで頷いた。

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