第39話
自分の試合が終わり、まだベルンハルトとエリーアスの試合が行われていると知って覗きに行く事になった。
「どっちが勝ってるのかしらね?」
「魔法の試合だと分からないわ」
ベルンハルトの魔法技術は相当なものである。しかしエリーアスも負けていない。二人が模擬戦をしているところは何度か見た事があるけど殆どが引き分けで終わっているのだ。どちらが勝つのか正直予想出来ない。
ベルンハルトに勝って欲しい気持ちは当然ある。ただエリーアスに勝って欲しい気持ちもあるのもまた事実。微妙な気持ちのまま会場に向かう。
「お、ベルン様優勢かな」
ユリアーナの声を聞いてから試合場を観るとベルンハルトがエリーアスに対して炎の牢獄を出現させていた。
いくら火力が調整されているといっても学生同士の試合で使う魔法じゃないと思うのだけど。それを使わないと勝てない状況なのだろうか。
「うわっ、あの魔法を消し飛ばすって…」
ベルンハルトの火魔法はエリーアスの風魔法によって消し飛ばされてしまった。
あれを消し飛ばすって…。
「ベルン様、負けるんじゃない?」
「あり得ますね」
そんなユリアーナとフィーネの会話を聞いて胸が締め付けられる。
エリーアスには申し訳ないけどやっぱりベルンハルトに勝って欲しい。
「ベルン!」
気が付いた時には叫んでいた。
私の他にもベルンハルトを応援する声はあったのに彼はこちらを見て優しく微笑む。
途端に目付きが変わるベルンハルトは「負けない」と言っているようにも見えた。
彼は駆け寄ってくるエリーアスの腕を掴み、勢いよく地面に投げ付ける。そして作り上げた火の槍を転がるエリーアスの喉元に突き付けた。
勝負ありだ。
「……ベルン様が勝っちゃったね」
「そうね」
ベルンハルトが勝って嬉しい。しかし素直に喜べないのは彼とエリーアスが何を賭けて戦っていたか偶然聞いて知っていたからだ。
複雑な気持ちを抱いたまま控え室に戻ると部屋前でベルンハルト達と鉢合わせる。
「お疲れ様です」
「リーゼが名前を呼んでくれなかったら負けていたよ」
照れ臭そうに笑うベルンハルトの後ろには泣き腫らした痕があるエリーアスが立っていた。
「ベルン様、リアス様と話して来ても良いですか?」
驚いた顔を向けられる。
ベルンハルトが勝ったのだ。本来ならエリーアスの話を聞くべきじゃない。しかし今話しておかないといけない気がした。
ベルンハルトは複雑そうな表情を見せながら「……いいよ」と呟く。
「私は…」
ベルンだけが好きですからね。
心の中で呟いたのはエリーアスの前では言えなかったからだ。
口には出さなかったがベルンハルトにはしっかりと伝わったみたいで笑顔で頷かれる。
人が居ない開けた場所に到着するとエリーアスと向き合う。
「リアス様」
「リーゼ様、僕は…」
エリーアスの言葉を遮るように首を横に振った。
彼の言葉は聞いてあげる事は出来ない。
ベルンハルト達が賭けていた内容だからだ。
聞く事は叶わないけど私から告げる事は出来る。
「私はベルン様が好きです。大好きで愛おしくて結婚したいと思ってます」
リアス様の気持ちは受け取れません。
最後までは口に出来なかったが彼には伝わったようで悲しそうに笑われた。
「……知ってるよ。ずっと前から知ってる」
エリーアスの気持ちはずっと気が付いていた。見て見ぬふりを続けていた結果、彼を傷付けてしまう事になったのだ。
また大切な人を傷つけてしまった。こういうところは前世の時と変わっていない。成長出来ていないのだ。
涙が溢れ出てきた。
「ごめんなさっ…い…」
「仕方ないよ。好きだって気持ちが止められないのは僕も同じだったから」
エリーアスは「ごめんね」と泣きそうな笑みを浮かべた。
「リアス様、ありがとうございましたっ…!」
私を好きになってくれてありがとうございました。
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