第24話

ユリアーナが私の護衛となって二週間が過ぎた。

専属と言っても四六時中一緒に居るわけではない。今は私が外を出歩く時だけついて来てくれている。

私の護衛をしていない時は基本的に勉強しています。

どうやら私が学園に入学する際、彼女も飛び級で入学をするそうだ。王家の決定なので覆す事は出来ない。

十三歳なのに色々と背負わせてしまって申し訳ないですね。


「また他の事を考えてる…」


ぼんやりしている私を後ろから抱き締めたのはベルンハルトだ。

王妃教育が終わるのと同時に彼の執務室に連れて来られたのだ。有無を言わさずに。

連れ去るなら事前に言っておいて欲しかったけけど…。

久しぶりに二人きりになれたのが嬉しいので目を瞑りましょう。

ずっとアードリアン達に邪魔されていましたからね。


「今頃ユリアは大変だろうなって」

「リーゼは本当にユリアーナ嬢が好きだね」

「好きに決まってるじゃない」


一番の親友だ。嫌いになるわけがない。

彼女以外の女の子の友達は居ませんけどね。学園で出来ると良いなって思ってます。


「昔ユリアーナ嬢が一番だと言ってたね」


拗ねるように言うベルンハルト。

それ、まだ引き摺っていたのですか。


「友人として一番の存在よ。友人として一番になりたいの?」


ユリアーナじゃないが少しだけ揶揄いたくなって尋ねると苦笑いを返された。


「いや、恋愛対象として一番が良い」

「知ってるわ」

「僕は一番?」

「むしろベルンしか居ないわよ」


私にとって恋愛対象として見れる相手はベルンハルトだけだ。

前世含めた初恋の人なのだから。

顔だけ振り向いてキスをする。ふにゃりと笑顔を見せられたかと思ったらお返しのキスを貰う。

自分からしておいて二人きりになったらこれって完全に浮かれ切っている。


「可愛過ぎるだろ」

「別に可愛くないわよ」

「僕にとっては可愛いから」


ぎゅっと抱き締める力が強くなる。

後ろから包まれているのは悪い気がしないけど抱き締め返せないのはちょっと寂しい。


「抱き締めるなら正面からにして」

「どうして?」

「私も抱き着きたいから…」

「やばい。押し倒したい」


耳元で囁くように言われる。

十四歳の少年のくせに何を言ってるのだ。いや思春期だからこそ言ってるのかもしれない。


「駄目だからね?」

「リーゼの嫌がる事はしたくないから今は我慢する」


ぐるっと身体を回されて正面から抱き締められる。

昔よりずっと大きくなった背中にぎゅっとしがみ付く。

うん、やっぱり抱き締め合う方が良いですね。


「リーゼ、あんまり話したくないけど主人公の話をしても良い?」

「……何か分かったの?」

「少しだけね」


どうやら主人公について何か分かったらしい。抱き締められているせいで表情は見えないけど声のトーンからしてあまり良い話ではなさそうだ。


「前世持ちだった?」

「それが判断出来なくてね。ただ言動がおかしい子ではあるみたい」

「そうなの?」

「調査隊の報告によると彼女は逆ハーっていうのを目指してるみたい。意味がよく分からないのだけどリーゼは知ってる?」


首を傾げるベルンハルトに頰が引き攣る。

逆ハーって逆ハーレムの事ですよね?

この世界にはそんな言葉は存在しない。おそらくというより十中八九ですが主人公は前世持ち。しかもゲームの存在を知っている彼女が高い。


「逆ハーは逆ハーレムと言って…簡単に言えばゲームの攻略対象者を全員恋人にするって感じかしら」

「え…」

「つまり主人公はベルン以外の攻略対象達も口説いて恋人にしようとしているって事ね」

「そんな事は不可能だろ?」


この国は一夫一妻制を採用している。ゲームなら可能な話ですけど現実では無理な話なのに。

もしかして主人公は一夫一妻制だと知らないのだろうか。いや、そんなわけがない。


「ゲームなら可能ってだけよ」

「それは凄いな…」

「創作物の話だから。問題は主人公は前世持ちである可能性が高いって事ね」


しかも逆ハーレムを目指しているってなると厄介な予感しかしない。

私の言葉にベルンハルトは「そうか…」と力なく呟いた。


「リーゼが警戒していた魅了についてだけど彼女が使えるかはまだ分からない」

「そう…」

「ここだけ話になるけど魅了は強力な闇魔法だ。使える人の方が少ないよ」


闇魔法だったのね。

魅了の魔法については危険性が高い為、秘匿にされている部分が多い。

悪用しようする人が居るから仕方ないけど危険性が高いからこそ公表するべきだと思う。


「シェーン伯爵令嬢は光魔法の使い手と報告が来ている。闇魔法が使えるとは思えないよ」

「そう、ね…」


それはそうだけど前世持ちという事はチート持ちである可能性が高い。

私から見れば魅了を持っていても不思議ではないのだ。


「それにしても光魔法の使い手か…」

「気になる?」

「珍しいけど王族なら誰でも使える魔法だからね、あまり興味はないよ」


ゲームによると主人公の光魔法は王家よりも強力なものである。だからこそ王家が興味を惹かれるのだ。

魔法の貴重性で言えば私の方が上ですけどね。

そういえば私の無魔法についてベルンハルトに話していなかった。言いたいところだけど陛下達の許可なく話すわけにもいかない。

今度許可を取ってみる事にしよう。


「主人公の存在が不安?」

「え?ああ、ちょっとだけね」


隠し事は心苦しいですが事が事ですからね、仕方ないです。

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