第25話
「主人公への警戒は緩めないようにしよう」
ぎゅっと抱き締めながら言ってくるベルンハルト。
ずっと気を張らせるのは申し訳ないのだけど彼の態度に安心している自分もいる。複雑な気分だ。
「あまり気を張らなくても…」
「例え魅了が使えなくても警戒はするよ。彼女の様子がおかしいのは本当だからね」
「ごめんなさい…」
「気にしなくて良いよ」
こつんと額を合わせて笑いかけてくるベルンハルト。優しい人だ。
「話は変わるけど僕以外の攻略対象者達の話も聞かせて貰っても良い?」
「良いけど、急にどうしたの…?」
「主人公以外にも被害者になりかねない人達の事は学園入学前に知っておくべきかと思ってね」
いきなりの事だけど彼なりに考えがあるのだろう。
それにいずれは話した方が良い事だ。早いに越した事はないだろう。
「一人目はお兄様、二人目はディルク様、三人目はリアン様ね」
ここまでは前に話したので省略させて貰う。
「四人目はユリアン・ラント君よ」
彼は平民だ。貴族である私が様付けするのも変な話なので君付けにしている。
前世からの癖って言うのもあるけど。
「ラント商会のご子息?」
「知ってるの?」
「商会には僕もお世話になった事があるからね」
流石は大商会だ。
ヴァッサァ公爵家もお世話になった事があるし、商会長であるユリアン君の父親には会った事がある。
商売上手ってイメージが強かった。
ただユリアン君には会った事はない。会える事を期待した回数はベルンハルトには言えませんね。
「ベルンはユリアン君にも会った事があるの?」
「一回だけあるよ」
「羨ましい…」
思わず溢れ出た本音を聞き逃してくれる恋人ではない。抱き締める力が強まり、怖いくらいの笑顔を向けられる。
「羨ましいってどういう意味?彼に会いたいの?」
「えっと…」
前世の推しなの!とは言えない。言ったところで「推しって何?」と聞かれるだけだろうけど。
「ほ、他の攻略対象者の話をしない?」
「良いけどユリアンについては後で聞かせて貰うからね」
頰を引き攣る。
恋愛感情を知りたくて始めた乙女ゲームだったけど二次元だと割り切って見ていたからか一回も恋愛感情を抱くような事はなかった。
ユリアン君の笑顔に癒されて、甘い台詞に悶えていたのは事実だけど。
ベルンハルトが怪しむ事は何一つとしてない。
「で、他の攻略対象者は?」
「ヘンドリック・フォン・ドンナー様ですね」
「叔父上も対象なのか」
同世代だけが攻略対象者だと思っていたのだろう。ベルンハルトは目を大きくさせて驚いた。
そういえばヘンドリックとは顔を合わせた事がない。普段は学園で教師をしている人だし、デビュタントもしていないから会う機会があまりないのだ。
「ヘンドリック様ってどんな人なの?」
「リーゼは会った事がなかったね。叔父上は変人かな」
「変人?」
「ああ、面白くて面倒見が良い人だよ。叔父というより兄って感じかな」
「そうなのね…」
「学園に通い始めたら会えると思う」
ゲームのベルンハルトとヘンドリックは仲良しではなかった気がする。
これが現実との差なのだろう。
「最後はレオンハルト・フォン・ブリッツ王子です」
「メテオーアの王太子じゃないか…」
レオンハルトは隣国メテオーアの王太子だ。
おそらく今頃は事故に遭って記憶喪失中でしょうね。
未然に防ぎたかったところだけど場所も日時も分からないような事件だ。どうする事も出来なかった。
「錚々たる面子だな」
現実的に見ればそうだけどゲーム画面越しに見るとただのキャラ設定でしかない。
「国内貴族に迷惑をかけるだけでも厄介なのに隣国に変な事をされるわけにはいかないな」
「国際問題に発展するからね」
「とりあえず攻略対象者達の事は気にかけておくよ」
「手間をかけさせちゃってごめんなさい」
「気にしなくて良いって。それよりも…」
ベルンハルトの目からハイライトが消える。
嫌な予感がするのですけど。
「ユリアンについてじっくり聞かせて貰おうか」
うわ、良い笑顔ですね…。
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