第23話
ユリアーナの好きな相手がアードリアンと知って戸惑いを隠せない。
「嘘でしょ」
「本当よ!」
兄の名前を出されてぴたりと固まる。
そんな素振りは一度も見せなかったのに。一体いつから好きだったというのだ。
ここ三年間は自分の事でいっぱいっぱいだったから気が付かなかっただけかもしれないけど意外過ぎる。
「いつから好きだったの?そんな素振り見せなかったじゃない」
クッションで顔を隠すユリアーナに尋ねると「うう…」と恥ずかしそうに声を漏らす。
可愛いですね。
「分からないの…。ただ気が付いたら目で追ってて、いつの間にか、その、好きだなって…。必死に隠してたのに…!」
その気持ちは分かる気がする。
それに恋は理屈じゃないって前世で元彼が言っていましたからね。理屈じゃないのでしょう。
ただユリアーナがアードリアンを好きという気持ちはこの反応でよく分かる。
好きでいる事に戸惑いを感じて、好きだから相手の事を考えるだけで赤くなって慌てふためく。
「私は応援するけど」
「アードリアンの一番大事な人に言われると複雑な気分ね。どう頑張ってもリーゼには勝てない気がするわ」
「私は妹だからライバルにならないわよ」
「いや、なるから。アードリアンが婚約者を作らない理由はリーゼだって知ってるからね」
兄が婚約者を作らない理由が私?
それは初耳なのですけど。
「お茶会の席でどっかの令嬢に好みタイプを聞かれてリーゼって答えたのよ、あのシスコン!」
アードリアンとはギクシャクしていたから一緒にお茶会に行っても離れたところにいた。
そんな会話が繰り広げられているとは全く知らなかったのだ。
「聞いた令嬢は頰を引き攣っていたわよ」
「妹の名前を出されると思わなかったからでしょ」
「それもあるけど…リーゼが完璧だからよ!」
完璧って…。
確かに公爵令嬢として、王太子の婚約者として恥ずかしくないスキルは全て身に付けたけど全くもって完璧な人間ではない。
すぐやる気がなくなるし、好きな人への愛が重い面倒な女だ。
「完璧と呼ばれているリーゼを引き合いに出されて勝てないから困って頰を引き攣らせたのよ」
「別に完璧じゃないと思うけど」
「知ってるわよ。でも、勝てる部分が見つからないの」
私から見れば勝っているところが多い気がするけど。
特に…。
「胸の大きさは負けてるわよ」
「どこ見てるのよ…!」
私もなかなか良い胸を持っていると思うけどユリアーナには勝てない。
ゲームのトルデリーゼは勝っていたのに。ゲームと違う世界だから負けているのかしら。
「他にもユリアには良いところがいっぱいあるわよ」
「慰めの言葉なら要らないわよ。別に恋人になりたいとか、婚約者になりたいってわけじゃないし…」
「諦めなくて良いのに…」
ぼそっと呟く。
小さ過ぎたからかユリアーナには私の言葉は届かなかった。
「お兄様は次期公爵よ。今は適当に誤魔化せてもいずれは婚約者が出来てしまうわ」
「知っているわよ」
「妹としては誰が来ても仲良くするつもりだけど、義姉がユリアだったら幸せでしょうね」
嘘偽りのない言葉を紡ぐ。
焚き付けるのはここまでにしておいた方が良いだろう。これ以上はお節介な人間だと思われそうだし、何より無理強いは良くない。それに妹で友人と言っても私は第三者だ。首を突っ込むのは野暮だろう。
後はユリアーナ次第です。
「諦めなくて良いのかしら」
「それはユリアが決める事ね」
笑顔で返すとクッションから顔を上げたユリアーナは苦笑いを浮かべた。
「遠回しに焚き付けておいて言う台詞?」
「胸倉を掴んで『諦めるな』って言いましょうか?」
前に胸倉を掴まれて説教されましたね。多少ですが心に響きましたよ。もし説教されていなかったらベルンハルトと向き合えていなかったかもしれません。
「前に胸倉を掴んだ事、引き摺ってるの?」
同じ事をやり返してあげればユリアーナの心も動くかもしれないと思って言ってみると嫌味だと勘違いさせてしまった。
「まさか、ただ向き合いもせず逃げようとするのは狡いなと思ったの」
こんな風に言うつもりはなかったのに。
もしかすると心のどこかで引き摺っているのかもしれませんね。
「やっぱり引き摺ってるじゃない」
「どうでしょうね」
「…っ、分かったわよ!向き合うわ!玉砕したら慰めてよ!」
「ええ、勿論です」
良かったですね、お兄様。これで初恋が叶いますよ。
面白いので見守るだけですが応援しています。
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