第22話

騒がしいお茶会も終わりを迎えてユリアーナと一緒に自室に移動する。


「フィーネ、しばらく部屋に人を近付けないでね」

「畏まりました」


お茶の準備だけしてフィーネは部屋を出て行った。

ユリアーナと二人きりになり防音の結果を張る。念には念を入れた方が良いからだ。


「今日のベルンハルトは面白かったわ」

「彼を揶揄うのはやめなさいよ。私に返ってくるのだから」

「ごめんね。つい揶揄いたくなっちゃって」

「全く…」


外見は十三歳でも中身はいい大人だ。十四歳の少年を揶揄うべきじゃないだろう。過剰に反応するベルンハルトを見ていたら揶揄いたくなるのも分かるけど。

いや、今聞きたいのはその事じゃない。


「髪、どうして切ったの?」

「ああ、これね。事故みたいなものよ」

「事故?」


事故で髪を切るってどんな状況なのよ。

せっかく綺麗な髪をしていたのに勿体ない。


「最終選考の時にお父様が使った火の魔法を避けたのだけど髪に当たっちゃって…すぐに公爵が鎮火してくれたのだけど毛先が少し燃えちゃったのよね」

「え…」

「長くて鬱陶しかったから整えて貰う時にばっさり切って貰ったのよ」


選考会に参加しなければユリアーナは髪を切らずに済んだのに…。

彼女が髪を切るきっかけを作ったのは私だ。


「何落ち込んで居るのよ。言っておくけどリーゼのせいじゃないからね」

「でも…」

「長くて鬱陶しかったって言ったでしょ。自分の意思で短くしたのよ」


明るく笑ってみせるユリアーナ。

気を遣ってくれているのか本心なのか。どちらか分からないけど彼女が言うならそうなのだろう。

ただ罪悪感は残って離れたりしない気がする。


「お父様を宥めるので手こずっているのにリーゼまで落ち込まないでよ」

「フランメ伯爵を?」


そういえばフランメ伯爵の使った魔法で髪が燃えたと言っていた。

フランメ騎士団長は騎士団では威厳に満ちた人物であるが家族を溺愛している。

特に娘であるユリアーナは可愛がられているのだ。

その愛娘を傷付けてしまい、更には髪をバッサリ切られたとなると…。


「選考会が終わってからずっと俺を殺してくれって大騒ぎ。うるさいから屋敷に帰りたくないのよ」

「それで外泊を…」

「リーゼと話したい気持ちもあったけど、そっちの方が理由として大きいわね」


深い溜め息を吐くユリアーナから疲れが滲み出ていた。

さっきは気付かなかったけど大変だったのだろう。


「前世と同じ感覚で髪を切っちゃ駄目ね」

「それはそうね」

「でも、長い髪って剣を振るのに不便なのよね…」


あまり剣を振らない身としてはよく分からない。

魔法って便利だから。


「リーゼは髪を切っちゃ駄目だからね」

「フラグに聞こえる」

「大丈夫よ。私が護るもの」

「私、弱くないけど」

「知ってるわよ」


へらりと笑うユリアーナ。

彼女が私の護衛となってくれたのは嬉しい。だけど、変な事件に巻き込まれて傷付けられたら嫌だ。

ユリアーナが私を護ってくれようとしているように私も彼女を護れるように魔法の腕を磨かないといけない気がする。


「それにしてもベルンハルトってば本当にやきもち焼きなのね」

「そこに話を戻すの…」

「いや、だって、あれは面白過ぎでしょ」


嫉妬丸出しのベルンハルトの事を思い出しているのかくすくす笑うユリアーナ。

そういえば私の恋愛話はしたけど彼女の話は聞いた事がない。ディルクが推しである事は聞いたけど実の兄妹だし、恋愛対象にはならないはずだ。


「ねぇ、ユリアは好きな人居ないの?」

「……い、いないかな」


嘘が下手過ぎませんか。

視線があっちこっち移動しているし、変な汗も掻いている。何より顔が赤い。

好きな人が居ますと肯定しているようなものだ。隠さなくても良いのに。むしろ隠さないで欲しい。


「誰?」


逃がさないとばかりに尋ねるとユリアーナは大きく溜め息を吐いた。

そして小さな声を漏らしたのだ。


「………アードリアン」


まさかのお相手ですね。

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