第21話

三十分かけてベルンハルトを説得した後、ユリアーナのお泊まり許可を貰った。友人とのお泊まりの許可を婚約者に取らないといけないのか。

ベルンハルトの事は好きですけどヤキモチが過ぎますよ。

ちなみに私が彼を説得している間ユリアーナはフィーネにしがみ付いて笑っていました。


「そういえば選考会の様子はどうだったのですか?」


選考会の場に居たのであろうベルンハルト、ユリアーナ、ディルクが頰を引き攣らせた。


「ユリアーナ嬢以外は話にならなかったな」

「ああ、酷いものだったぜ」


ユリアーナ以外が弱過ぎたって事だろうか。

父と騎士団長が審査員なのだ。負けても仕方ないとは思うが二人に幻滅されてしまうほどの弱さだったのかもしれない。


「弱かったのですか?」


苦笑いで頷いたのはユリアーナだった。

教えて貰った最終選考の内容は至ってシンプルなものだった。十分間、私に見立てた人形を父と騎士団長の二人の攻撃から守り続けるというもの。


「ユリア以外の参加者はみんな五分もしないうちにやられちまったよ」

「相手が悪過ぎましたね」

「いやいや、二人ともかなり手加減していたからやる気があれば勝てたぜ。あれは俺でも勝てた」


つまりユリアーナ以外の参加者はやる気がなかったという事になりますね。

やる気がない人に護られたくないので良いですけど。


「選考会後が面倒だったわ」

「どういう事?」

「私が騎士団長の娘だから勝たせたって騒ぎ立てる人達が居たのよ」


コネを使ったって事ですか。馬鹿らしい。

しかし疑った人達の気持ちも分からなくはない。私も第三者だったら疑ってしまうだろう。


「それでどうなったの?」

「うん?騒いだ人達全員を……ね?」

「分かったからもう良いわ」


実力で捻じ伏せたのだろう。おそらく完膚なきまでに叩き潰したとかそういう感じだ。


「怪我をさせたの?」

「魔法って便利よね」


目を逸らしながら言うユリアーナ。

つまりボコボコにしたという事ですね。そういうの許せない人なので仕方ないですけど。


「あの時のユリアは凄い楽しそうだったな」

「若干怖かったよ」

「リーゼの護衛として相応しいって証明出来ましたよね?」

「ある意味、犯罪者……何でもないぞ、睨むな!」


ディルク、全く誤魔化せていませんから。

犯罪者と言われて睨まない人も居ないと思う。


「さっきお兄様も言っていたけどみんなやる気がないのよ」

「審査員を知って絶望しただけじゃない?」

「いやいや、あれは最初からリーゼを護る気がなかったのよ。生半可な気持ちで挑んだってだけ」


そういうものなのだろうか。

選考会を見ていないので私にはさっぱり分からない。


「あれは絶対リーゼの婚約者様に近付きたかっただけよ。もしくはアードリアン様ね」


ユリアーナの言葉に紅茶を飲んでいたアードリアンがびくっと身体を震わせた。自分の名前を出されるとは思っていなかったのだろう。


「お兄様はともかくベルン様に近付こうとは思わないでしょ」


アードリアンは未だに婚約者が居ないのだ。

筆頭公爵家の跡継ぎ、加えて顔も頭も良い彼はお茶会に出ると多くのご令嬢に囲まれる。

私を介して近付こうとする人は多く居るのだ。

しかしベルンハルトは婚約者の存在がある。近付こうとするのだろうか。


「殿下に近付こうとするのは側室狙いよ」

「なるほど…。馬鹿な人達ですね」


身体から冷気が漏れ出る。

全員がギョッとした表情をこちらに向けた。


「り、リーゼ、僕は君一筋だから」

「ありがとうございます。でも、許せない事ってあるのですよ」

「リーゼ、笑ってるのに目が怖いぞ…」


ディルクに言われるがこればかりは仕方ない。

どうして私の専属護衛となる人が私の旦那様になる方の側室を狙うのでしょうね。

そんなクズ…ではなく、頭の悪い人達に守られてあげるほど弱くないですよ。


「安心しなさい。私が全員潰したから」

「ありがとう、ユリア」


素敵な笑顔で言うユリアーナに冷気を抑えて微笑む。

良い友人を持ちましたね。


「ベルン、お前の婚約者ってこんなに怖かったのか?」

「可愛いだろ?」

「あれのどこが可愛いんだよ!」

「僕の妹に失礼な事を言うな」


どうやらディルクとはお話した方が良さそうですね。

彼を見ると怯えた表情で目を逸らされた。


「お兄様とお話しするなら私も付き合うわよ」


ユリアーナが笑顔で言ってくるので「ありがとう」と頷く。


「す、すみませんでした…」


全員の視線を独り占めしたディルクは若干涙目になりながらそう謝った。




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