第20話

部屋の中に入って来たのは騎士服を身に纏ったユリアーナだった。

数日前に会った時より髪が短くなっている。

ポニーテールでも腰にかかるほど伸びていた髪は肩に掛かるくらいになっていた。

この世界では、特に貴族社会では短い髪はあまり良い印象を持たれないのにどうして…。

意外な人物の登場。驚き過ぎて声が出ない。どうやって話しかけたら良いのか分からないのだ。


「リーゼ、驚きすぎて固まってるじゃねーか」

「あ、ディルク様」


ユリアーナの後ろから現れたのはディルクだった。

彼女の付き添いで来たのでしょう。


「俺には普通に話しかけるのかよ!」


普段通りのディルクを見ると安心しますね。

いや、そうじゃなくて。どうしてユリアーナが私の専属騎士になるのよ。まだ十三歳なのに。


「ユリア」

「はい、リーゼ様」

「ユリアが私の騎士になるの?」


念の為の確認として尋ねると笑顔で頷かれた。


「本日付けで正式に任命されました」


ユリアーナが私の専属の護衛騎士。

三年前に騎士になるという話はしていたけど本当になるとは思ってなかった。


「結構早かったでしょ、リーゼ」


戸惑う私に彼女は意地の悪い笑顔を見せてくる。


「早過ぎて驚いたわ。どうして前に会った時に教えてくれなかったのよ」


数日前に会った時に教えてくれていたらお祝いの準備が出来たのに。

呆れたように言うと眉を下げて困ったような笑顔を見せられる。


「前に会った時はまだ決まって居なかったのよ」

「そうなの?」

「最終選考が一昨日だったの。決まらなかったら恥ずかしいじゃない」


肩を竦めながら言うユリアーナ。最終選考から二日で正式任命とは王家は何を考えているのだ。

急いで専属護衛を付けたかったのでしょうけどいきなり過ぎて話についていけない。

ただ知らない誰かではなくユリアーナが護衛になってくれるというのは嬉しい話だ。


「こら、ユリア!様を付けろ!」

「お兄様に言われたくないわ」


確かに私やベルンハルトを呼び捨てにしているディルクには言われたくない。


「確かにそうだね。ディルクも僕達を様付けしないと」

「ユリア、リーゼに様は要らないぞ」


酷い手のひら返しだ。

今更様付けで呼ばれても違和感があるので良いですけど。それこそお茶会の席で様付けされると変な感じがするくらいだ。


「お兄様、私のリーゼに酷い態度を取らないで」


みんな、どうして私を所有物のように扱うのでしょう。嫌じゃないですけど戸惑いますよ。

それにしてもユリアーナとは一対一でゆっくり話を聞きたい。特に髪の事が気になる。


「あの、ユリアと二人で話したいのですけど…」


流石に今すぐは駄目だろうか。

ベルンハルトを見ると嫌そうな表情を向けられた。

やっぱり駄目ですよね。


「殿下、私からもお願いします。リーゼと話をさせてください」


私にぴたりとくっ付きながらベルンハルトにお願いするユリアーナ。何故か楽しそうに笑っている。


「ベルンハルトってば、本当に嫉妬深いのね。抱き着いただけで睨まれているわ」

「え?」


ユリアーナが耳元で言ってくるのでベルンハルトを見ると確かにこちらを睨み付けていた。

彼の反応が見たくてわざと抱き着いて来たのだろう。


「揶揄うのやめなさいよ」

「つい見たくなっちゃって」

「後で大変な事になるんだから」


おそらく二人きりになったら「僕よりユリアーナ嬢が好きなの?」と聞いてくるに違いない。

どちらも大切な人なので比べられるわけがないのに。


「今すぐじゃなくても良いよね?」


半ギレ状態のベルンハルトが言ってくる。それが面白いのかユリアーナは私の肩に顔をくっ付けて笑いを堪え始めた。

いや、堪え切れていないから私の肩にくっ付けて誤魔化しているのでしょうね。


「い、今じゃなくても良いですけど…」

「だよね。それよりユリアーナ嬢はいつまで僕のリーゼにくっ付いているつもりなのかな」


更に強くしがみ付いてくるユリアーナ。ベルンハルトに嫌がらせをしたいわけじゃなくツボに入っているせいで離れる事が出来ないのだろう。

そこまで面白い事でもないでしょうに。

一分ほど経って落ち着いたのかユリアーナは離れてくれた。


「ゆ、ゆっくり話をしたいですし、後で大丈夫です」


必死に吹き出しそうになるのを堪えながら言うユリアーナ。

気を遣っているのか馬鹿にしているのか。おそらくどっちもでしょうね。


「そうだよね。良かったよ」

「ええ。今日はリーゼの部屋に泊めて貰ってゆっくりと語り明かしたいと思います」

「へぇ…」


大人気ない事をして…。

完全にベルンハルトを玩具扱いですね。


「リーゼ、泊まっても良い?」

「私は構わないけど。ディルク様、良いのですか?」

「俺は良いけど…」 


誰かに後ろから抱き締められる。

見なくても分かりますよ。小さい頃から何回抱き締められてきましたから。


「ベルン様、離してください」

「ユリアーナ嬢の事、泊めるの?」


拗ねた顔ですね、これは説得するのに時間がかかりそうです。

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